400字の部屋 ♯16 「水 3」

 Eraが風呂に入っている間に食器洗いを済ませようと洗剤の付いたスポンジに水道水を含ませて先程食べた生姜焼きのタレが付いた皿を手に取り洗い始める。流れ出る水は、ついこの間まで冷たく、手を休め乍ら洗い物をしていたが、桜の花が散ってからは気温も上がり、何ならずっと手を水に浸していたい気分であるので、洗い物は頗る早く食器の汚れはテンポよく洗剤で分解されて水で流されて行く。この時季は洗い物が気持ち良く出来る。水は汚れをキレイに取り除いてくれる。水は偉大だ。だが、恐ろしくもある。絶え間ない水の流れは辺りを浄化し、新鮮な命を芽吹かせるが、窪みに浮かぶ溜り水からは虫が湧き、瘴気の源となるであろう。陰陽、正邪の二面性。否、二面性処ではなく、水は液体のみならず岩のように凍てつき、魂のように気化もするのだ。世界の凡ゆる所に水は在り、我我は正に水の奴隷であるが、それは幸せな事だと流水に手を浸し乍らIraは思う。

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