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児童労働から考える『こどもセーフティラボ』 (ゲスト:ACE代表・岩附由香さん)

先月25日、子ども虐待防止について考える勉強会『こどもセーフティラボ』を開催しました。

『こどもセーフティラボ』は、2018年7月から不定期で開催している官民有志の勉強会で今回が10回目です。「こどもが安全な環境で、安心して生きていけるよう、多角的な知恵を集め、こどもと親にとって必要な取り組みを実践・発信していくこと」を目的に行っており、サイボウズ社長室のメンバーも運営に参画しています。

子どもを虐待から守り、健やかに幸せに暮らせる社会を作るにはどうすればいいのかー。2時間たっぷり学び合いました。

夢見る余裕も奪う『児童労働』

今回の勉強会でお話を伺ったのは、NGO(=非政府組織)「ACE(エース)」の代表・岩附由香(いわつき・ゆか)さん。

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大学時代、アメリカ留学の帰国途中に、メキシコで物乞いをする子どもに出会い、児童労働と教育を研究するため大学院に進学。
カイラシュ・サティヤルティ氏(2014年ノーベル平和賞受賞)が呼びかけた「児童労働に反対するグローバルマーチ」に心を動かされ「児童労働をなくすために何かしたい」という強い想いでACEを立ち上げました。

岩附さんからはこれまでのACEの歩みと現在取り組んでいることが紹介されました。
世界を飛び回って活動してきた岩附さんのお話の中で、とても印象的だったのはグローバルマーチ参加中にインドで出会ったサディスくんという少年とのエピソード。

「彼は糸を作る工場で週6日間働いていても5日間分しかお給料がもらえなくて、(仕事で)失敗するとタバコの火を腕に押し付けられたりすると言っていて。
“そんな仕事、嫌じゃなかったの?親に相談しなかったの?”と聞くと“相談しなかった”と。”何で?”と聞くと”同じように働いている子は他にもいて、あまりにひどいので、ある子の親が文句を言いにきた。次の日、その子は働きにこなかった。親が探したけど見つからなかった。あの子は多分殺されちゃった。だから自分は親に相談しなかった”と」


衝撃的でショックな話でした。続けて岩附さんは

「これはもう20年以上前の話ですけど、インドでは鎖に繋がれて働かされているとか本当にあったんです。
この後に将来の夢は何か?と尋ねたらサディスくんは”なるものになるよ、来るもの拒まずだよ”って言ったんです。その時に、大人は子どもに”夢を語って欲しい”と勝手に期待をして夢を聞くわけですよね。…でも、サディスくんはすごく現実的だった。
児童労働は、子ども時代を奪うだけではなくて、”自分は何が好きで、どういうふうに人生を作っていきたい”とか、そういう意志とか夢を抱く余裕さえなくしてしまうものなんだと思いました」


と当時を振り返って話してくださいました。
児童労働は、時間や安全だけではなく、将来を描く余裕すら奪うー。そんな現実に言葉を失いました。

この児童労働について、私たちは、どうしても『外国のこと』『海外の話』と捉えてしまいがちですが、実際は日本にも存在しています。
児童労働の説明をACEのウェブサイトから拝借すると…

児童労働とは、義務教育を妨げる労働や法律で禁止されている18歳未満の危険・有害な労働のことを指します。世界には1億6000万人(*)、子どもの10人に1人が児童労働をしているといわれています。
(*) ILO/UNICEF:2021年発表推計
https://acejapan.org/childlabour

15歳未満の違法な就労や18歳未満の危険有害労働がこれに該当します。
2020年のデータ(ILO & UNISEF Global Estimate 2020)によると、世界的に見るとサハラ以南のアフリカに約8860万人と最も多く、農業に課題が集中しているということです。
日本が輸入しているカカオの原産地の77%がガーナ産のため、
「私たち日本人も決して無関係ではない」と岩附さんは念を押します。

「児童労働は複雑な仕組みで起きていて、家庭状況と安い労働で支えられる経済…これらの需要と供給がマッチする形で児童労働が行われているんです。財源、教育、あとは親世代の”自分たちもそうだったし…”という考えや、グローバルのさまざまな仕組みも関係しているんです。いろんなステークホルダーが解決しないといけないんですよね。」

そこでACEでは、『しあわせへのチョコレート』プロジェクトを作り、公平でサステナブルなチョコレートビジネスと消費を築くことで、カカオ産業における児童労働の解決を目指しています。チョコレートに関わる企業を巻き込んで、児童労働に加担しないビジネスモデルに変えていくなどの取り組みを行っています。

しあわせへのチョコレートプロジェクト
https://acejapan.org/choco

児童労働についてはSDGsの取り組みの中にも入っていて、2025年までにあらゆる形態の児童労働を終わらせるということが目標に掲げられています。
先進国でもおよそ160万人が児童労働に従事しているというデータもあり、ACEは日本にも存在する児童労働についてまとめています。

調査報告書『日本にも存在する児童労働』を発行しましたhttps://acejapan.org/info/2020/03/29189

最悪の形態の児童労働として岩附さんが挙げたのが、

・人身取引・強制労働
・児童買春
・児童ポルノ
・不正な活動(特殊詐欺グループに巻き込まれるなど)
・危険有害労働…建築業
・危険有害労働…接客娯楽業

残念なことに、どれもたびたびニュースで耳にするワード。日本に住む私たちの身近で起こっている物事として、事例を含めて紹介してくださいました。岩附さんは「児童労働は決して縁遠い話ではない」と警鐘を鳴らします。

これら児童労働を減らす上で考えたいのが、子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた『子どもの権利条約』についてです。1989年の国連総会で採択され、1990年に発効。日本は1994年に批准しました。

unicef - 子どもの権利条約
(https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig.html)
子どもの権利条約は、 18歳未満の児童(子ども)を権利をもつ主体と位置づけ、おとなと同様ひとりの人間としての人権を認めるとともに、成長の過程で特別な保護や配慮が必要な子どもならではの権利も定めています。前文と本文54条からなり、子どもの生存、発達、保護、参加という包括的な権利を実現・確保するために必要となる具体的な事項を規定しています。…

岩附さん自身は、この条約をきっかけに自分の幼少期を振り返り、幸せだと感じていた幼少期に気づきがあると話していました。

「そういえばあの時、私はこういう気持ちだったのに一方的に親からこう言われて意見を聞いてもらえなかった…とか思い出して。子どもにとって”意見を聞いてもらう権利”とか”プライバシー”とか、いろんなことを気付かされたんです。」

その後、さまざまな活動を行う中で、マイノリティである子どもの権利を守る社会的制度が脆弱なところや、子どもの意見を引き出し、聞く仕組みがないことを強く感じたと言います。
そもそも子どもには選挙権がない分、社会が子どもに耳を傾け、有利にならないといけないともお話しくださいました。

子どもの幸せを守るため、私たちが考えること

このあと、参加していたメンバーから質問や意見が寄せられ、フリーのディスカッションタイムは予定していた時間を20分も超えるほど盛り上がりました。いくつか抜粋してお伝えします。

医療・福祉系国家資格保有者で構成されたチームが365日体制で相談を受け、関係機関と連携し相談者をサポートしている特定非営利活動法人ピッコラーレの代表・中島かおりさんは、若年妊婦と多く関わる経験から以下のように話しました。

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「私たちが出会っている子も、自分の遊びやお小遣いのためではなく、家族のために仕事をしている子がいます。家にお金を入れていたり、学費を自分で払っている子や兄弟の部活の費用を出していたり…家に食べるものがなくても、食費もほとんどもらっていない中で、生きていくために自分に必要なお金はぜんぶ自分で稼ぐしかない子も。本当に地続きというか…日本にもそういう子がたくさんいるなと思いながら聞かせてもらいました。」

児童精神科医でもある、認定NPO法人PIECES(ピーシーズ)の代表・小澤いぶき(おざわ・いぶき)さんは、

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「そもそも子どもに限らないかもしれないけど、それぞれが権利の主体であるという認識がまだまだされていないなと感じます。本来は誰もが権利主体であるし、とくに声が抑圧されやすかったり、主体として参加しづらいハードルがある子ども達の声ってすごく大事だと思っています。そのあたりのギャップにアプローチされていると感じました」
と深い関心を寄せていました。

児童労働の切り口から、子どもの権利、さらには子どもとの向き合い方にも議論が及び、活発な意見交換がなされました。

サイボウズが取り組む『児童虐待防止』の取り組み

今回の勉強会の開催に携わったのは、こちらの二人。
社長室の松村克彦(まつむら・かつひこ)と渡辺清美(わたなべ・きよみ)です。サイボウズの児童虐待防止プロジェクトを担当しています。

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(写真:左=松村、右=渡辺)

サイボウズでは、自治体の児童虐待防止チームに情報共有ツールを提供するなど、2018年6月から児童虐待防止にむけた取り組みを行ってきました。

児童福祉関係者の連携をITシステムで支援
━なくそう!子どもの虐待プロジェクト2018━
特別プランや相談窓口を設置

引用元:https://topics.cybozu.co.jp/news/2018/06/28-7199.html

【自治体の導入例】
杉並区 児童虐待対応の強化にkintoneを導入
保育園や関係機関とのタイムリーな情報共有で子供の安全を守る

https://topics.cybozu.co.jp/news/2021/06/14-9041.html

南丹市、児童虐待防止の地域連携にkintoneを導入
要保護児童に関わる多職種の連携をITで迅速化、7月に本運用開始

https://topics.cybozu.co.jp/news/2019/06/28-8468.html

虐待防止に向けた勉強会を数々開催しており、今回の『こどもセーフティラボ』もその一つ。
子どもが安心して、健やかに暮らすためにどうすれば良いかー。
さまざまな虐待から守るためにできることを、今後も考え続けていきたいと思います。

NGO ACE Webページ
サイボウズ 虐待防止に向けた取り組み