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【鉄道×IT】異業種・新規事業責任者の情報交換会のリアル!

小田急電鉄のイノベーションへの取組み×サイボウズ ソーシャルデザインラボ誕生秘話
小田急電鉄 執行役員 デジタル事業創造部長 久富 雅史
                     ×サイボウズ 執行役員ソーシャルデザインラボ所長 中村龍太

今回の対談は中村が共同執筆した「エフェクチュエーション」本のイベントをきっかけに出会った異業種の新規事業責任者とじっくり情報交換したいとの希望により実現しました。貴重な対談機会なので、その一部をみなさまにもお見せします。
 
中村龍太(以下、中村):本日は新規事業開発の取り組み方について情報交換をさせていただき、あらたなヒントをみつけたいと考えています。よろしくお願いします。まず、現在までのお互いの取組み状況の紹介から聞かせてください。
 
・久富雅史(以下、久富):
我々は創業以来100年弱東京、神奈川地域に鉄道事業中心に事業を行ってきました。私は、2016年から経営企画部門で組織改革をはじめ、全社の経営ビジョンを策定するとともに、並行して新規事業開発に取り組んでおり、これまで7つ事業化をしてきました。現在は40名程度が所属しています。


小田急電鉄経営ビジョン

〇鉄道会社が沿線地域で新しい地域のインフラづくりに挑戦!

我々はこれまで、鉄道事業の周辺で不動産業など沿線環境の特徴をいかした事業モデルを作ってきました。
 現在はデジタル領域に成長の可能性を感じ、これまでのまちづくり企業としての取組みで培った手法を活かしながら社会課題解決を実践していき、これからの時代の新しい地域のインフラをつくっていくことを目指しています。
 
中村:小田急電鉄さんの事業環境の特徴をいかした新規事業の展開についてもう少し詳しく教えてください。
 
久富:小田急の沿線は大都会から高齢化したオールドニュータウンがあり、山、海、観光地など日本列島の縮図のような地域が存在しています。この沿線地域を実証実験の場として活用しながら事業モデルを作り、沿線外へ成長させていこうと考えています。
 
中村:現在までどんな新規事業を作ってこられたのでしょうか?

ウェイストマネジメント事業「WOOMS」

久富:事業化したものの一つに、「WOOMS(ウームス)」という廃棄物の収集効率化支援の事業があります。
具体的には、廃棄物の収集・運搬が直面する人手不足などの課題をデジタルで支援するという事業です。主に自治体向けに廃棄物の収集・運搬効率化システムを提供しています。収集余力を上げることで、資源循環を高める施策を提供するサービスです。現在は神奈川以外の地域でも提供を行っています。
 
中村:事業化のアイデアは社内に募集する仕組みなどあるのでしょうか?
久富:小田急電鉄には事業アイデア公募制度「climbers(クライマーズ)」という仕組みがあります。2023年度第5期までの累計応募件数は200件ほどあります。
ここからスタートしたもので、現在「Aoiスクール」というオルタナティブスクールを藤沢市で実証中です。このような新規事業の取組とあわせて組織の風土改革も行ってきました。

〇組織の風土改革から新規事業開発へ

中村:組織の風土改革はどのように取り組まれたのでしょうか?
 
久富:「対話を通じて心理的安全性を高める」という取組を2017年から経営企画部門主導で全社に広げていきました。きっかけは2005年ごろから乗務員が「自分たちは毎日なんのために運転しているのか」という対話を職場ではじめていたことでした。そういう動きから「もっとこういう風に改善したい」という主体的な声があがるようになり、「ヒヤリハット」といわれる事故の前兆が顕著に減ったそうです。このような事例が社内にあったことから、対話の重要性を感じるようになりました。心理的安全性は、新規事業など新たな挑戦をするときに一番重要な部分となるのでは?と考え、部内での取組も重点的に行ってきました。
 
中村:組織としての課題がしっかりあると取組みやすいですよね。
 
久富:そうですね。課題に対して取組んだ結果を活かして、次の未来に向けて風土改革を実施してきました。事業モデルを変えていく必要性がでてきたとき、結果だけを求めても前向きになれないし、部署でアイデアも出ない。後ろ向きな思考の回転だったものを、制度をつくり、前向きに回転させていこうという流れをつくってきました。
 
中村:いや~、すごい取り組みですね。ご紹介ありがとうございました。
では、我々の取組についてご紹介させていただきます。

〇IT企業の育苗実験モデル作りとは?

中村:2023年4月に社長室という部署名から「ソーシャルデザインラボ」と名称を変更しました。名称へ込めた想いとしては、事業を作って、事業拡大を目指しているのではなく、実証実験を行い政府への政策提言による持続可能な社会課題解決モデル作りを行っていくことを大切に考えています。
小田急電鉄さんの場合は、鉄道沿線地域で実証実験を行うということでしたが、私たちの場合は主力製品の「kintone」を活用しながら実証実験モデルを作っていこうという考えで取り組んでいます。

久富:「kintone」を活用してというのは、やはり大切に考えられているのですね。

中村:はい、そうですね。私たちが実現したいのは、情報共有でチームを作り、社会課題解決を行っていくというモデルを作っていきたいと考えています。その手段として、「kintone」を活用しています。この手法は、副業解禁の時に、私が安倍首相の総理官邸に招かれ、パラレルキャリア、サイボウズに所属しながらリコピン人参栽培、その成果が本業で活かされている事例から厚生労働省が副業解禁モデルを誕生させたという経緯がありました。政府の政策策定には、エビデンスを求めているのだと知り、エビデンスを作る役割として、社会課題解決の「育苗実験モデル作り」という活動を進めています。
 
久富:具体的にはどんな社会課題に取組まれているのでしょうか?

〇ITの力で災害現場のチームづくりを支援

サイボウズ災害ボランティアセンター運営支援システム

中村:IT分野で被災地支援を行う「災害支援プロジェクト」に取り組んでいます。2021年に発生した熱海市土砂災害以降、私たちは被災地でのボランティアセンターを運営している社会福祉協議会に情報共有システムとして「kintone」を提供し、発災直後の混乱しやすい場面でボランティア人材の受付や現場ニーズの整理、支援箇所を地図上に登録し、支援状況を把握する仕組みを提供しています。以前は災害が発生してから、支援要請が来る流れでした。最近は各自治体の防災意識が高まり、事前に非常時に備えて訓練しておきたいという引き合いが増えてきています。現在47都道府県中24の自治体にこのシステムを提供しています。私たちは行政と民間のはざまの組織を支援することを得意としています。
 
久富:我々もゴミ回収システムは、災害時の災害ごみ回収などにも回収箇所をいれかえるだけで対応できるような仕組みを整えています。
 
中村:災害支援の仕組みを活用しながら、ごみ回収などの分野でも連携できることがあるかもしれませんね。

〇多様な子どもたちに学びの場づくりをはじめます!

「サイボウズの楽校」

中村:私たちも多様な子どもが楽しく学べる場づくりを目指して、「ワクワクする学び場を創ろうプロジェクト」を進めています。これまで教育現場の働き方改革などの活動を行う中で、不登校や登校していながらも学校を楽しめていない子供たちがいる現状に関心を寄せてきました。12月から吉祥寺にて「サイボウズの楽校」というオルタナティブスクールを開校しました。ここではスクール運営の情報基盤としてkintoneを使って名簿管理や出欠席管理、学習成果管理、日誌、在籍学校との連携などを行っています。
 
中村:小田急さんもオルタナティブスクール運営されてますよね?
 
久富:おかげさまで多くの希望者から申し込みいただき、藤沢市で運営しています。現在実証実験中のため、運営方法については試行錯誤を重ねているところです。
 
中村:ぜひ、次回はお互いのオルタナティブスクール事業に携わるメンバーも交えて意見交換会してみませんか?
 
久富:いいですね。
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今回の対談ではそれぞれの特色を生かした新規事業開発の手法と誕生した事業の紹介を中心に会話が弾みました。次回は鉄道会社とIT企業が運営する「フリースクール」について意見交換を行います。どんな意見交換が繰り広げられるのか、ぜひお楽しみに。