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中3の頃の逸話を聞いてほしい。




誰にも打ち明けていない話がある。





およそ10年前、中学3年生の頃の話だ。

当時僕の学校では、3年生だけで行われる『主張大会』なるものがあった。




各クラスから最も優れたスピーチをした者が一人ずつ選出され、クラス代表者は最終的に全校集会の場で“全校生徒”に向けて発表する。
スピーチを通じて、生徒に「考える機会」を与えることが目的だ。

言い換えれば、「中学生版TED talk」みたいなものである。


トークテーマは自由だが、基本的に中学生が馴染み深い「環境問題」「絶滅危惧種」「いじめ問題」「チームスポーツ」などについて言及するのがオーソドックスだ。
しかし中には、ただただネタに走り、観衆を爆笑の渦に包む者がいた。
もはやスピーチコンテスト内の暗黙の了解というか、毎年の恒例行事というか…
代表者の中には必ず一人“お笑い枠”が存在していた。



入学したばかりの頃、オーディエンスとして先輩のスピーチを聞いていた僕は、「これだ!!」と思った。


「僕は2年後、必ずクラスの代表者として選出され、この“お笑い枠”を掴み取る!」

全校生徒が僕の話を聞いてゲラゲラ笑う姿を想像しただけで興奮してきた。


だが、大会でお笑い枠を勝ち取るのは非常に競争率が高い。

なぜなら、そういうポジションは、大体いつもクラスを賑わせているような所謂『陽キャ(パリピ)』が掻っ攫っていくからだ。
ましてや、僕の中学はヒエラルキーもそこそこに厳しく、ピラミッドの最下層付近にいた僕(陰キャ)などがクラスのみんなから票を集められるわけがない。(代表者はクラスメイトによる多数決で決められた)



僕にとって強敵の種類は大きく3つに分類できた。

①スポーツ万能、ちょいヤンチャで不良グループにも顔が利くスクールカーストの頂点「サッカー部」
➁常にテストは90点台、論理的思考が得意な「頭脳派集団」
③前者2派には劣るものの、当時『あらびき団』で常にギャグセンスに磨きをかけていた「クラスのムードメーカー」


僕は上記3つのどれにも当てはまらない。
部活こそ野球部に所属していたが、ランナーコーチも務まらないような圧倒的“ベンチウォ―マー”だった。
そんな僕が並大抵のスピーチで挑んだところで、目立てるわけがない。




「圧倒的に面白い話をして、実力で代表の座を獲得してやろう」


こうなったら、トークで真っ向勝負だ。
クラスで普段目立たない奴ほど、脳ミソの中は面白いんだということを証明してやる。
お前らがいつも教室の真ん中で声高々に披露している芸人の二番煎じみたいなクソ芸など失笑ものだ。
クソクソのクソだ。


内に秘めていた僕の陽キャに対する劣等感が沸々と湧き上がってきた。
最初は純粋に憧れていたはずのステージが、気がつくと不純な目的達成の場へと形を歪めている。

僕はその怒りにも似た感情を原動力にし、スピーチ原稿の作成に勤しんだ。






そして、迎えたクラスの予選会当日。


中盤を少し過ぎたタイミングで、僕の番が回ってきた。
この時点で僕は、「もしかしたらいけるかも?」という自信があった。
なぜなら、僕より前にウケたスピーチをした者はまだ誰もいない。






「(ここでカマして、俺が代表だ!)」


緊張と高揚感を抑えながら、教壇に立った。
目の前にいるクラスメイトは誰一人として僕に期待の眼差しなど向けていない。

「(特に面白くもなければ、どうせ当たり障りのない話をするんだろう)」
そんな皆の心の内が聞こえてくるようだった。



呼吸を整え、僕は話し始めた。








スピーチは大成功に終わった。
口から心臓が飛び出そうなほど緊張したが、クラスのみんなからは過去類をみないほどの喝采を浴びた。





題名は『あの日、あの時、あの場所で』というものだ。


「今日あなたが体験した後悔は、きっと前世の後悔と同じもの。
 だから、何かを決断する時は一度立ち止まり、前世と同じミスはしまい!と慎重に選択をすべきである。」



・・・ざっと要約するとこんな感じ。
中身だけ見れば、中学生にしてスティーブジョブズさながらの完成度だ。
これにちょくちょくギャグを挟む感じで出来上がったのが、当時のスピーチである。





「(手ごたえは、充分だ。あとは自分より面白い奴が現れない限り、僕は絶対に通過できる…!)」


全員の発表が終わり、投票タイムへと移った。
周りのリアクションを見る限り、どうやら僕ともう一人の2択で割れそうだ…





天国か、地獄か…


さぁ神よ、我に祝杯をあげよ!!!



・・・



・・・・



・・・・・



・・・・・・



選ばれた。

陰キャが陽キャに一矢報いた歴史的瞬間だった。



「That's one small step for a man, one giant leap for mankind.」

月面に着陸した宇宙飛行士の如く、僕はこれまでにない達成感で胸がいっぱいになった。








そして、大会の当日もなんとか無事に終えることができた。

クラス40人にウケた僕のスピーチは、オーディエンスが600人に増えたとて、決してシラケることはなかった。




中学校最終学年にして、僕は周囲から「おもしろいやつ」の称号を受けることができた。


※当時の表彰状




もう思い残すことは何もない。


・・・ただ、あれから10年が経った今、嘘をついたことを謝りたい。







あの時の僕のスピーチは…











2006年3月10日のマキシマムザ亮君の日記を丸パクリしたものだということを。



●引用:【今日の亮君】↓
http://www.55mth.com/ryotoday/index.php?n=20060310


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