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REBEL IN THE RYE (映画漫評③)

 JD・サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ」は、20世紀の文学で重要な小説である。日本では『ライ麦畑でつかまえて』で知られる本作だが、原作国のアメリカでは禁書として扱われた暗い歴史がある。禁書になるにあたってはいくつかの理由がある。日本の宗教書のひとつ『歎異抄』は、はじめ部外者が読むものではないとされ明治期まで禁書であった。それが時を経た近現代で注目され、多くの人々に読まれるようになった。『ライ麦畑…』もそれほど長い隔たりがあるわけではないが、電子書籍の現代であって

    • パリ、テキサス(映画漫評②)

       一足早く夏の風物詩、「エンドレス・サマー」をこのまえ見たが、これがイメージと違った。「エンドレス・サマー」は予告編でもやっていて、画面いっぱいの吞み込まれそうなほどのウェーブの水しぶきと相反して、渇ききったテキサスの高原から始まる「パリ、テキサス」の本編は、徐々にその足らわぬ渇きを満たしていくようだった。 「パリ、テキサス」、その映画がいかに名が知れた作品であるかは知っていた。V字の素肌を見せて振り向くナスターシャ・キンスキーは、いたるところで見かけたことがあった。その着て

      • ミレニアム・マンボ(映画漫評①)

         台湾映画は日本と馴染み深い。それを知ったのも映画からだったし、日本人から見ても台湾はどこか親近感のある国だ。日本の統治下にあった時代から、それが終わってからの台湾はつねに揺れ動いていった。「悲情城市」(89)や「牯嶺街少年殺人事件」(91)など、その時代を背景にして作られた映画は数多い。それは大学の映画の講義でも学んだ。そこで重要なのが日本の描かれ方である。エドワード・ヤンの「ヤンヤン 夏の思い出」(00)では、台湾人の男が出張で東京に訪れるシーンがある。それが残念ながらあ

        • NO GUTS,NO LIFE

           母親が職場の寮生からもらった数枚のDVDのなかで、「CTY OF GOD」(2002)という映画があった。その映画はブラジルで”神の街”とされる ファヴェーラの街を舞台に繰り広げられる、60年代末~70年代末のギャングたちの闘争劇である。ファヴェーラとはブラジルで犯罪の多い貧困街区を指し、これを神の町=CTY OF GODと訳すのは何たる皮肉かと思えば、この作品はそのような意味でも軽快にポップに撮られた映画である。  どこから連れてきた馬の骨だが知らないが、母親の勤め先の

        REBEL IN THE RYE (映画漫評③)

          SMITH,,,MY FRIEND

           前回の九段利恵が習慣にしているものに関連して、石田夏穂の「わが友、スミス」を読んだので紹介する。これもまた孤高なアラサー会社員の独り言の多い筋トレ小説である。今から三年前のすばる文学賞佳作、芥川賞候補作であった。はじめはクセのある言葉遣いに独特な比喩に苦戦したが、それもそのはず後半からは無理なく読めるようになっていた。つまりはその面白に負けた訳だ。これは映画化できそうなストーリーだと読んでいて思った。「Shall We ダンス?」(1995)で会社員の役所広司が、ふとしたき

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          トーキョーシンパシータワー

           芥川受賞作を読むのは二年ぶりだった。受賞作は毎年いまの時代を捉えて映している。しかし今作は10年後の先をいく2030年の日本という未来の設定で、まるで別の国を見ているかのような日本が映されている。とあるアラサー女性建築家は、ザハ・ハディドの「アンビルド建築」とされる新国立競技場に対となる塔、「トーキョーシンパシータワー(=東京都同情塔)」を計画する。トーキョーシンパシータワーとは、社会から擁護される囚人たちが生活する充実した刑務所であった。ロシアかヨーロッパのどっちかに、世

          トーキョーシンパシータワー

          青山真治クロニクルズ展レポート(3)

           〔青山真治という文学ー「空に住む」から雲の上までー〕  2020年公開の「空に住む」は、近年の映画である故、配信であらゆる人が見ている作品なのではないだろうか。キャストや脚本も含め、従来の青山作品とは離れた感覚の作品だと思うが、前回の投稿に引き続き、彼の手掛けた作品の中でこれほど女性にスポットを当てた秀作はなかったのではないだろうか。 親の葬式を終えたばかりの多部未華子が愛猫とともに、親しい叔母夫婦の紹介で高層マンションに引っ越していく場面からはじまり、小さな出版社で勤め

          青山真治クロニクルズ展レポート(3)

          青山真治クロニクルズ展レポート(2)

          〔青山真治という生き方 —「サッドヴァケイション」の相関―〕  2007年公開の「Sad vacation(サッドヴァケイション)」は、まず青山真治が過去に撮った二部作の「Helpless」・「EUREKA」が背景にあって作られたことを理解しておきたい。しかし、1996年に「Helpless」でデビューして間もない青山がその当時から三部作という構成を考えていた訳はなく、二部作目の「EUREKA」とつながって随所に配役の欠陥があることも、「サッドヴァケイション」では一律してい

          青山真治クロニクルズ展レポート(2)

          青山真治クロニクルズ展レポート(1)

          〔青山真治という発見  ―「EUREKA ユリイカ」から分かること―〕  2年ほど前、配信で「東京公園」を見てから、嫌うことのできない磁力のようなのものを感じた。故・三浦春馬演じる写真が趣味の大学生のまわりで巻き起こるただのドラマなのだが、その落ち着いたストーリーや画面から伝わる静寂さに好感が持てた。それからしばらくして、青山真治の訃報を知ることになり、数々の俳優や作家たちが彼を偲んでいたのを覚えている。各地の映画館で彼の追悼上映が行われ、それを機縁に観た「EUREKA ユ

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          AIRは見たか

             シューズメーカー、ナイキのエア・ジョーダン誕生の実話を映画化した「AIR(エア)」は、いまアマゾンプライムで先行配信されている。なんとベン・アフレックの監督で、豪華キャスティングといっても、僕が知るのは、サニー役のマットデイモンだけだった。名前は覚えていないが、ジョーダンの母役の女優、たしかあの顔は「ゲットアウト」で見たことあるような気もする。はじめからおわりまで、80年代にタイムスリップしたような演出もすばらしい。ただ、日本のアマゾンプライムで見ると、吹替だけだった

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          沖縄から神奈川へ来た少年

           はじめ、この試合中に登場キャラをハイライトするのは無理だろうと思った。だってスポーツ漫画の金字塔の「スラムダンク」を映画化するのは、不可能だからだ。と、アニメはWiiの間で一話しか見ていない僕が言っても、仕方がないが、昔に流行ったまんがだってことは知っている。まんがやアニメを見ていなくても、名シーン名言はどこかで聞いたことがある。それは、この映画にも出てきた。主人公は、赤毛の花道じゃなかったっけ?と思ったが、「THE FIRST SLAM DUNK」なので、花道の先輩の男を

          沖縄から神奈川へ来た少年

          こいつは何だ

           あれから何が起きたのかは分からないまま、ぼくは家を出てフラフラしていた。たどり着いて見つけた駅前にある地味な漫画喫茶で、2日ほど泊まった。せまい入り口から階段を上がって、フロントに近づくと地味な男が出てきた。この24時間営業の漫画喫茶は雑居ビルの2階から4階までを所有している。どのお部屋がいいですか?と地味なフロントは訊くと、ぼくは、どこの階がいちばん空いていますか?と訊いた。すらとその男は、そうですねぇ、結局どの階も同じなんですよぉ、と頭をかきむしりながら言った。では、4

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          Horse of born の行方

           にぎやかなカニの食事会には、絶妙に外は雨だった。みんなは飽きが来るのを待つように次々とカニの身をたいらあげながら、依然と静まり切ったていた。しばらくして教授が、波平くん、ジブリパークにはもう行ったのか?と、たずねると、突然、波平は宇宙服を脱ぎ出し、カバンから折りたたみ傘を取り出して、立ち上がった。何をするのだろうと思ったが、とじたままの折り畳み傘の取っ手の先に付いているひもを、手でつかんだ波平はそれヌンチャクのごとく振りまわしはじめた。教授と他の学生はは一瞬、言葉を失ってし

          Horse of born の行方

          さらさらな行方

           後輩は、手洗いが上手かった。となりにいた私は、いつも通り手をこする程度ですませて、どうしそんなにて真剣に手を洗うんだ?、と聞いたらふつうじゃないですか?と、彼は答えて、つづけて、高校で手を洗う授業があったんですよ。と言った。手を洗う授業?、と僕はあいまいなリアクションをとる。ええ、正しい手の洗い方と習慣を学ぶ授業ですね、まあ僕は子供の時から習慣にしてましたけど。と、自慢げに彼は言った。それに釣られて偉いなぁと、私は感心したような言葉を投げた。テストも手洗いで楽勝でしたよ、そ

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          JLGって誰?

           伊坂幸太郎の「重力ピエロ」には、「JLG」が出てくる。登場人物は、「ジャン・リュック・ゴダールか?」と訊くが、相手の答えは全く別の団体名であった。しかし、作中には随所にジャン・リュック・ゴダールの「小さな兵隊」や「中国女」、「アルファヴァイル」・・・だとかが、出てくる。ミステリーとしては、小ネタにすぎない形をとるが、伊坂が、ゴダールに敬意を示していることは、この小説を読んで分かった。けだし、「重力ピエロ」という題目からして、ゴダールの「気狂いピエロ」のオマージュであるのだ。

          JLGって誰?

          THE MAN WHO COULDN'T BE BANKSY

          〈企画宣伝用漫画〉

          THE MAN WHO COULDN'T BE BANKSY