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いつか どこかで・・インド:ベナレス 1990

「カンテ・マガジン」2009年の記事から

4年ぶりに再会したヴィシュナート。彼は、ガンジス川のボートマンで、カンテのオーナーの友達です。
この写真はインドに服を作りに行った際、彼の家に招かれ撮ったもので、
彼の家はガンジス川の見えるところにありました。

先日、うつぼ公園店の森川君と話をしていた時、「ヴィシュナートの家で飲んだチャイはまずかった。」って言ってましたね。
「僕もチャイはごちそうになったけど、味までは覚えてないなぁ。たぶん、おいしくなかったのかも(笑)」

「で、さあ、インドで一番最初にチャイを飲んだのはどこで?」って訊いたら、

「NPの仕事で行ったカルカッタです。あそこのチャイがまずかった。カンテのと全然違ってたのでビックリしましたね。何が違うのか分からなかったですけど、まずかった。」

「場所によって違うよね。」

「じゃあ、スパイスチャイで好きなのは何?」

「カルダモンチャイですね。ホールのやつ。ベナレスで。すごくおいしくて、インパクトありました。それ以来、スパイスチャイと言えばカルダモンチャイ、ぐらいの勢いです。」(だから、うつぼ公園店のカルダモン・チャイはホールのカルダモンを使ってるんだ。他の店はパウダーなのに。)

「やっぱり、出会いの衝撃度によって、好きなチャイとかスパイスとか決まってくるんじゃないかな?僕はインドへ行く前に、スリランカで初めてジンジャーのスライスとカルダモンのホールが入ったチャイを飲んで、カンテのと味は違ってたけど違和感なく飲めた。
あと、カルダモンはスリランカで採れるから、地元の人は日常的にカルダモンに親しんでて、知り合ったスリランカ人が口をモゴモゴさせてたので、『何食べてるの?』って訊いたら『お前もたべろ』とか言われてカルダモンを渡された事があった。口寂しい時にカルダモンを噛むんだって。その時噛んだカルダモンの味は悪くはなかったけど、今食べてみると結構苦い。この間、中津の新人の子に食べさせたら、いやそうな顔してた(笑)。
ま、18歳の子にはちょっとキツかったかな。」

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話は変わって、カンテのチャイは「ベナレスの味に近づけている。」とは社長の口癖で、それなら、ベナレスで売ってるインド産のアッサムの茶葉を使っているのかというとそうではなくて、スリランカの低地産の茶葉を使ってるんですね。なぜ?それにはカンテの歴史に理由があります。

カンテはその昔『紅茶専門店』だったのです。飲み物は紅茶がメインだった。「紅茶がおいしい」と感じるには、味と香りのバランスが大切で、ポットでいれるカンテのセイロン紅茶やダージリン紅茶がおいしいのはやはりそのバランスがいいからですね。

インドのベナレスで飲んだチャイが美味しいと井上さんが感じたのは、香りよりもロケーション(雰囲気)が良かったんでしょうね。ベナレスの雑踏の中で飲む濃厚で甘~いチャイ。それもノースパイス。(今はスパイスチャイ全盛ですが、その昔は、インドでもノースパイスのチャイが一般的だったんです。)
僕もベナレスへ旅した時飲んだのはプレーンなチャイでした。全くカンテのチャイと違和感なく飲めましたから、井上さんの「味の再現力」には感心しましたね。
ただ、インドでチャイ用の茶葉を買い求めて日本で飲むと、なんだか物足りない。香りがないんです。紅茶専門店で働いている者としては、「香りの物足りなさ」は一つの事件でもありますからね。

インド産のチャイ用の茶葉:アッサムCTC紅茶は、それだけでは良い香りはしません。製造の過程で、葉を細かくカットすることで発酵を促し濃い紅茶を造り出すことには成功したのですが、茶葉をカットしすぎて茶葉自体に香りを閉じ込められなくなってしまったのです。
カンテは香りを重視する紅茶専門店だったので、チャイ用には香りの乏しいCTC紅茶は諦め、たまたまスリランカで香りのよいアッサム種系の茶葉を見つけてチャイに使ってみたら香りもよく美味しかったので、それ以来カンテでは、スリランカ低地産の茶葉を使うようになったんですね。
この茶葉、不思議なことに、日本に輸入されてなくて、かつスリランカのお店でも買えないみたいなんです。インドの輸入業者の方にカンテの茶葉を渡して同じものを探してもらいましたが、みつからない。僕が考えるに、この茶葉は海外向け(外資獲得用、特に中東の国用だと聞いています)の茶葉のようで、オークションでしか買えないんだと思う。
カンテは最初から紅茶をオークションで仕入れていたから気が付かなかったんでしょうね。ま、オークションで見つかったとしても、購入単位が500kgとか1トンなので、一般の人には手がでないでしょうけど。

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