見出し画像

【音楽考察】『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』主題歌「FREEDOM」の「継承」と「進化」【アニソン考察】

劇場版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』ファンが約20年間待ち続け、公開3日で興行収入10億円を突破した話題作。
1週間後の2月1日にはYouTube「ガンダムチャンネル」にて本編冒頭約6分半の映像が公開された。

【参考動画】2024年2月1日~2024年3月31日まで限定公開
『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』本編冒頭映像《主題歌「FREEDOM」》


冒頭に流れる主題歌「FREEDOM」の音楽考察をし、関連する過去のガンダム楽曲と比較して何が「継承」され、何が「進化」したかを語る。


1.継承(1)「楽曲の長さ」

継承と言える点の1つは「楽曲の長さ」だ。
本楽曲は5分18秒と近年ではとても長い部類に入る。

最近のJ-POPは若いリスナーの嗜好により短い楽曲が多くを占め、多くのヒット曲が3分30秒以内と短く構築される中で、この曲の長さは珍しい。

参考に、最近のアニソンタイアップ代表例を挙げる。


TVアニメ『チェンソーマン』/米津玄師
主題歌「KICK BACK」(2022年)3分13秒
TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』/YOASOBI
主題歌「祝福」(2022年)3分14秒



一方、過去の小室哲哉氏作曲アニソンタイアップ代表例を挙げる。


TVアニメ『シティハンター2』/TM NETWORK
主題歌「STILL LOVE HER (失われた風景)」(1988年) 5分22秒
※)木根尚登氏と共作
劇場アニメ『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』/TM NETWORK
主題歌「BEYOND THE TIME」(1988年) 5分30秒


今作は過去の小室氏楽曲と同様、5分以上のボリュームを継承している。

2.継承(2)「アニメと音楽の関係性」

継承されていると言えることは1つだけではないTVアニメ『ガンダムSEED』(2002年)から生まれた「アニメと音楽の関係性」だ。
1990年代のアニソンタイアップがアニメファンには不評だった「アニメの内容と楽曲が異なる」点を改善すべく、アニメ制作側と楽曲制作側で話し合いチームアップすることでアニメに寄り添う楽曲を生み出した。

『ガンダムSEED』は、これまでにないアニメと音楽の関係性を示した。
MBS系「土6」枠のスタート以降『鋼の錬金術師』にも継承され、20年以上経過した劇場版作品でもその意思は引き継がれた。

「21世紀のファーストガンダム」を作るというコンセプトに貫かれたこの作品は、これまでにないスタンスを持った主題歌を求めた。そして、アニメ制作スタッフとT.M.Revolutionサイドとの度重なるディスカッションから紡ぎ出された「INVOKE」は、新しいガンダムのイメージを決定づけるとともに、アニメと音楽の新しい関係性をはっきりと示すことになった。

39 Anime×Music Collaboration ブックレット introductionより

今年1月にTV番組での提言を発端とする「アニソンのタイアップの是非」や、TVドラマ『セクシー田中』さんから問題とされた「原作漫画とドラマとの関係性」等がSNS上で話題になっているが、それらに対する1つのアンサーがこれらのアニメや楽曲に内包されていると考える。

3.進化(1)「イントロ」

ここから20~30年以上経過した歴史から楽曲の「進化」について語る。
まず注目したい部分は楽曲のイントロだ。

最近のJ-POPは時間効率を望む若いリスナーの嗜好により、イントロから歌ありが多くを占め、歌のないインストゥルメンタル(以下「インスト」と略称)は好まれない傾向にある。

前述した過去の小室哲也氏作曲アニソンタイアップはイントロで約30秒のインストが流れた。22年前『ガンダムSEED』のOP「INVOKE-インヴォーク-」でも約20秒のインストが流れる。
本楽曲「FREEDOM」はイントロを歌ありとし、現代に適応させた。
その上で、イントロにサビを歌う典型的な手法を避け、音楽の先を見据えてか実験的な歌唱イントロを選び、更なる「進化」の道を模索している。

この歌唱イントロについて、福田己津央監督は「ア・カペラ歌唱」と呼び、以下のようにコメントを出した。

圧巻はやはり作品テーマを歌い上げる曲冒頭のア・カペラ熱唱。魂が震えました。

コミックナタリー記事 福田己津央監督コメント引用

【参考記事】「コミックナタリー」
劇場版「ガンダムSEED」主題歌は西川貴教&小室哲哉のコラボソング 
第4弾PVも公開

4.進化(2)「楽曲構成」

そして次に注目する部分は本楽曲「FREEDOM」の楽曲構成である。

J-POPの楽曲構成は以下が長年の一般的な形式である。
近年は、3分30秒以内となるよう一部を省略等している。


「イントロ(演奏)」
→「1番Aメロ」→「1番Bメロ」→「1番サビ(Cメロ)」→(「間奏」)
→「2番Aメロ」→「2番Bメロ」→「2番サビ(Cメロ)」
→(「大サビ(Dメロ)」+間奏)
→「サビ(Cメロ)」→「アウトロ(演奏)」


本楽曲「FREEDOM」の楽曲構成は5分18秒のボリュームもあり、独特な楽曲構成で成立している。


「歌唱イントロ」→「間奏」→「1番Aメロ(サビ)」
→「1番Bメロ」→「1番Bメロ2」→「1番Cメロ(サビ)」
→「間奏」→「2番Bメロ」→「2番Bメロ2」
→「2番Cメロ(サビ)」→「アウトロ(歌)」→「アウトロ(演奏)」


一般的な構成と比べるとその違いが分かる。
また個人的には「1番Bメロ」に入るまで1分30秒を要し、現在TVアニメ主題歌の主流である89秒の枠に該当することが興味深い。

楽曲構成もイントロ同様に典型的な手法を避けている。
またこちらも、音楽の先を見据えてか実験的な手法を選び、更なる「進化」の道を模索している。

5.まとめ

関連する過去のガンダム楽曲と比較して、劇場版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』主題歌「FREEDOM」の「継承」と「進化」を語った。

新しいガンダムのイメージを模索し提示した2002年放映のTVアニメ『機動戦士ガンダムSEED』。
22年の時を経て、ガンダムに携わった超一流アーティストでありヒットメーカーの小室哲哉氏を招き入れての本楽曲。
日本アニメ音楽の中で、過去を「継承」しつつ今に適応するだけでなく、その先を見据えた「進化」を提示している。

2002年放映以降、作品と楽曲が日本アニメにおいてターニングポイントとなりアニメファンの記憶に残り語り継がれている。
今回も同様に、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』と楽曲が新たなターニングポイントとなり、後世にアニメファンの記憶に残り語り継がれるポテンシャルを秘めている。

2月1日から3月31日までYouTube「ガンダムチャンネル」にて本編冒頭約6分半の映像が期間限定で公開され、主題歌「FREEDOM」がほぼフルサイズで視聴できる。記事冒頭で動画を紹介しており、この機会に一度見てはいかがだろうか。

また、福田己津央監督は「音」に拘りを持っているアニメ制作者である。
興味が沸いたのなら、是非とも映画館で映像とともに大きなスピーカーによる楽曲等の「音」も楽しんでほしい。

■『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』公式サイト■


【最後に】
本記事はアニメライター見習いが趣味で執筆している。
アニメ好きや音楽好きの方々の話のきっかけやタネになればと。
面白いと思ったら「スキ」ボタンやX(旧Twitter)での拡散など応援いただければ幸いだ。

現在講座にて「日本アニメ音楽の歴史」をテーマに修了課題作成中。
今後もアニメ音楽について自主的に研究・レポートしていく所存だ。

以上



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?