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FIFAワールドカップ・ヨーロッパ予選 プレーオフ ポルトガル vs トルコ マッチレビュー

W杯欧州予選ブログアーカイブの企画に参加している流れで引き続きプレーオフも見ていきます。担当はグループG 2位のトルコ。

ツイキャスでも話したがトルコは訳の分からないチームだった。ある意味ポルトガル戦でもその期待は裏切らない。トルコはこともあろうに予選で試していない5バック(5-2-3)を導入。これは全く予想していなかった。

DAZNで解説をしてくれた林陵平さんもビックリのご様子。

というわけで、5-2-3に希望を託したトルコの最後の旅を追いかけるとしよう。ちなみにポルトガル視点のレビューはジャベさんが書く見込みです。

追記 せこさんが書いたよ。

サマリー

🇵🇹 - 🇹🇷

短評

(〇上手くいった △半々 ×上手くいかなかった -無し)

【ポルトガル】

ゲームメイク戦略(ポジショナルプレー志向):△
ゲームメイク戦略(非ポジショナルプレー志向):〇
カウンター戦略:〇

【トルコ】

ゲームメイク戦略(ポジショナルプレー志向):×
ゲームメイク戦略(非ポジショナルプレー志向):△
カウンター戦略:△

トルコはポルトガルの前線を抑えるために論理的かつアグレッシブな戦略を用意してきた。しかし不慣れなシステムと戦術により最大限の力は発揮できなかった。

トルコがポジショナル的な5-2-3なのかは怪しいところだがやろうとはしていた(はず)。結局は元々持っていた強みで2点差を追い付きそうになるのだが。

一方のポルトガルは選手が相手の勢いのいなし方を熟知している感じに見えた。選手の判断によってトルコのプレッシングを回避できるのが見事で、プレーオフに回っている理由が分からないくらいだ。裏狙いを混ぜてくるところもニクい。

ポルトガルもポジショナルかと言われると微妙なのだが、選手にそれなりの配置や数的優位の生み出し方が備わっていてトルコとの違いを見せていた。

注目プレイヤー

【ポルトガル】

クリスティアーノ・ロナウド
(FW マンチェスター・ユナイテッド)

【トルコ】

ブラク・ユルマズ(FW リール)

互いに85年生まれ。おそらく最後のワールドカップ挑戦であろう両国の英雄をピックアップ。攻撃面は言うまでもないレベルだが、プレッシング戦術に組み込むには実に扱いづらい。

ポルトガルは周囲がサポートすることでリスク軽減ができていた。一方トルコはポルトガルのビルドアップを抑えるために守備を免除することはできない。その差が試合を決定づけたと言えるのではないだろうか。

考察

1.相手ビルドアップの妨害について

ポルトガルに主導権を握られることになった、トルコの敗因とも言えるフェーズだ。

ポルトガルは4-1ビルドアップ構成。それに対するトルコのプレッシング開始位置は相手アンカーを意識した高さから。基本的にはセンターサークルの前付近だった。

ユルマズがモウティーニョを遮断。センターハーフが相手インサイドハーフに対面しビルドアップ出口を塞ぐ。しかし途中から緩さが目立つ。

プレッシングの目的は、前半は外切りからのロングボール誘導だった。DF陣はハイラインを敷いてコンパクトネスに守る。一定の効果はあるものの裏を狙われ主導権を奪われていた。

高い位置から攻撃的なプレッシングも行うが、シャドーがGKまでプレスにいくケースは自チームの間延びを発生させ、セカンドボール回収でセンターハーフが狙われる。その他、スローインリスタートなど、深い位置からビルドアップが始まるとユルマズがモウティーニョのマークを外し戻れない。致命的になりそうな振る舞いも見られた。

ただ、よく言えばアグレッシブでもあるトルコのプレッシング。失点後の20分台は積極的な振る舞いによりゲームの主導権を握る場面もあった。しかしポルトガルがロングボールによる押し込みとインサイドハーフ降りのビルドアップを繰り返すことで再び劣勢となる。

2点を追う後半の1stプレッシングはサイド誘導の形。そして片側のセンターハーフがモウティーニョを監視する。空いてしまうインサイドハーフにはセンターバックが接近する。この仕組みはユルマズを高い位置に残す目的であり、結果的にはポルトガルの逆サイド展開が増えることとなりビルドアップ自体は抑えられなかった。

2.第2ライン防御について

このフェーズではビルドアップ出口役の相手インサイドハーフに対する守備がメインとなる。トルコは良くも悪くも積極的なマーク接近が特徴だ。ただ前半はセンターハーフの寄せが遅れ気味だった。

ポルトガルの突破バリエーションは多かった。インサイドハーフ降りや、ウイングの内レーン移動によるダイヤ型への可変。サイドバックが高い位置で受け手となるなど、トルコを攻略するには十分なアタックを見せる。

5分あたりからインサイドハーフ当てからのサイドバック起点アタックを受ける。5バックの欠点とも言える攻撃を浴びるトルコは、ウイングバックがマークチェンジしてサイドバックに凸れるかどうかが鍵だった。しかし奪うまでには至らない。序盤からポルトガルが主導権を握る展開が増えてしまった。

また、トルコは単騎突撃、センターハーフの守備の脆さ、そしてシャドーの戻りが遅いなど5-2-3をやるには致命的とも言えそうな振る舞いをふんだんに晒していた。

その流れで14分に失点。中盤で1v2を連続して作られてスルーパスで裏を取られた後に横展開でフィニッシャーにボールを渡された。

クリロナの自由な動きに対して攪乱されることもなくいたトルコであったが、気が付けばゼロトップ化しているクリロナ。39:30にトルコのMFライン前に降りて1-4となる縦アタックに肝を冷やされる。

その後ポルトガルはクリロナの空けたスペース活用も含め周囲のサポートがスムーズになる。41:00、横展開のビルドアップからブルーノ・フェルナンデスが大外に降りてウイングバックをつり出し、内ターンからクリロナへ。ソユンクをつり出しながらフリックでオタビオに繋いで大外突撃を行う場面ではトルコの後退を余儀なくされた。そして2失点目へと繋がる。

後がないトルコは後半にセンターバックがインサイドハーフに対して積極的にボールにいく場面が見られる。それが得点に繋がるのが実にトルコらしい。

3.ブロック守備について

深いところまでボールを運ばれると怪しさを見せるのがトルコだ。チャレンジ&カバーでセンターバックが飛び出しすぎる傾向があり、空いたスペースをどのように守るのかがトルコを見る上ではポイントとなる。

このゲームでは基本的には5バックで守っていたためセンバが凸っても中の枚数は足りていた。むしろDF-MF間のスペースが気になる。

ポルトガルのサイドバックに対してウイングバックが、ウイングに対してはセンターバックがマークに飛び出すのが基本的な守り方だった。そして移動の隙にクロスを出させてしまう形が多かった。

ポルトガルの攻撃にリトリートしながらブロックを形成することもしばしば。センターハーフは相手のインサイドハーフにマーク気味で守る。その結果、モウティーニョが高い位置でゲームを支配する。

トルコのブロック守備後のラインコントロールは高かった。エリアの前でセットしたい傾向が見てとれた。

しかしシャドーが戻るのが遅いのが欠点だ。オタビオとダロトへのマークを見誤りクロスからジョタのヘッドで2失点目を喰らう。5バックにありがちな相手サイドバックに誰が付く問題を突かれた形とも言えた。

4.ゲーゲンプレスの回避について

自陣ポジトラの設計に意図を感じることはできなかった。ショートパスでの回避は後ろが重いため潰されやすい。センターバックのスキルが不得手なのもある。失点後はロングボールでの回避を優先していた。

5.ビルドアップについて

トルコのビルドアップは3-1 もしくは3-2となる。対するポルトガルは4-1-4-1あるいは4-4-2のブロックを固めていた。

主なビルドアップ出口担当はコクチュで、チャルハノールは基本高めに位置する。ウイングバックはときおりサポートに回る。ただコクチュは後ろに戻すことが多いのでチャルハノールも受け役に回る。そして出口で潰される場面が多かった。

センターバック、ゴールキーパーはビルドアップが不得意なためロングボールで回避することも多い。後方から時間とスペースを紡ぐことはほぼ出来なかった。

6.相手中盤の突破について

中盤突破は回数は少ないものの可もなく不可もなくであろう。

チャルハノールからシャドーへの供給がメインパターンとなる。しかしチャルハノールがビルドアップ出口役として残り3-2ビルド構成となるとポルトガルの前プレ枚数と噛み合ってしまう。その場合はチャルハノールをクッションにウイングバックへ供給して突破口を開きたいトルコだったが効果的な形は少なかった。

シャドー降りからウイングバックへ供給する振る舞いも見せていた。その場合、ポルトガルを後退させつつ対アンカーをセンターハーフとの2v1で突破し前進できていた。

動き過ぎるポストマンことユルマズがロングボールを受けたりサイドバック裏に走り込む形も多い。

セカンドボール回収からは大外に展開できていた。失点後はサイドチェンジからの大外アタックの振る舞いも出して前進を図った。

5-2-3にしたことで突破パターンは増えたと言えるかもしれない。ただ主導権は握れなかったのでなんとも言えない。

7.フィニッシュワークについて

トルコは5レーン的でエリア内に4人が入るアタックを備えていたが、そのための3-2-5にはなかなかなれない。むしろ従来からある速攻やギアチェンジからのダイレクトなアタックこそ光るものがあったと思う。

ビルドアップから続くフィニッシュは動けるポストマンことユルマズの動き次第だったと思う。ポストか裏抜けか、出し手とユルマズの意図が合わない場面がグループ予選以上に目立っていた。

速さのあるアタックの場合、逆サイドのシャドーが斜めの動きでボールサイド側に突入、ユルマズと交差する振る舞いを見せる。ただ基本的にはアタッカーの単身攻撃が目立つ。マイナスクロス位置に入り込む選手がいない設計の乏しさはポルトガル相手に致命的だった。

ゴールは65分。ショートカウンターからエリア前で横展開→ワンツーで突破したユルマズが押し込んだ。ダイレクトなアタックはポルトガルでさえも止めることはできなかった。トルコからすればこの時間まで得意の形を出せなかったのが悔やまれた。

チャルハノールがフィニッシュを演出するも何度かあった。81分には折り返しのパスを出しハンドのPKを勝ち取るが、ユルマズが外した時点で決着となった。

8.トランジションについて

繰り返しになるがトルコは積極的にボールにいく傾向があるので、即時奪取でセンターハーフが凸る。剥がされても余っているセンターバックが凸る。

相手陣内でのポジトラは、前線にスルーパスを出す傾向があり少ない手数でゴールを狙う。20分以降に幾度か良い形を見せたが得点を奪えなかったのは悔やまれる。ショートカウンターからグループ性のあるアタックができていたらもう少しやれていたはずだ。

おわりに

トルコのワールドカップへの旅はポルトガルで終着となった。トルコ版5-2-3は対4バックに対するメタ要素を出せなかった。現勢力ではミスマッチな部分が多く結果はやむなしだったと言える。

トルコがポルトガル相手に5-2-3で臨んだのは陵平さんが仰るとおりポルトガルのアタッカーへの対策のようだが、EURO2020でトレンドとなった3-2-5を取り入れたい動機もあったと思われる。

クンツ監督はハーフタイムに前のシステムに戻すか?と選手に尋ねたらしい。そして選手はNo、現在のシステムに満足していると答えたとコメントしている。なんとも怪しいやり取りだ。

終わったと言ったが実際はミッドウィークにイタリアとの虚無の戦いが残っているので次も見届けたい…のだが放送は無いかもしれないなんでやねん。勝ったポルトガルおめでとう。決勝も頑張ってほしい。

それにしてもトルコをどう評価すべきかなのか最後まで分からなかった。トルコ石がトルコで採れないくらい訳が分からなかった。

試合結果

2022.03.25
FIFAワールドカップ・ヨーロッパ予選 プレーオフ
パスC 準決勝 ポルトガル 3-1 トルコ

【得点者】
ポルトガル:15' オタビオ 42' ジョッタ 90+4' ヌネス
トルコ:65' ユルマズ



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