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Ⅰ,ピクチャリング(映像化):対人援助職の職業的な価値観ですら脇に置き視覚的、構造的に話を聴くということ

対人援助職の方は、職業柄よく人の話を聴きます。そして、話をよく聴くことで、困りごとを抱えている方(以下、クライエント)の状況を理解していきます。

そこで、よく実践されているのが傾聴です。

「積極的傾聴(Active Listening)」は、米国の心理学者でカウンセリングの大家であるカール・ロジャーズ(Carl Rogers)によって提唱。ロジャーズは、自らがカウンセリングを行った多くの事例(クライエント)を分析し、カウンセリングが有効であった事例に共通していた、聴く側の3要素として「共感的理解」、「無条件の肯定的関心」、「自己一致」をあげ、これらの人間尊重の態度に基づくカウンセリングを提唱。
1.共感的理解 (empathy, empathic understanding)
相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとする。

2.無条件の肯定的関心 (unconditional positive regard)
相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く。相手の話を否定せず、なぜそのように考えるようになったのか、その背景に肯定的な関心を持って聴く。そのことによって、話し手は安心して話ができる。

3.自己一致 (congruence)
聴き手が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認する。分からないことをそのままにしておくことは、自己一致に反する。

厚生労働省:こころの耳 働く人のメンタルヘルスサポート https://kokoro.mhlw.go.jp/

ロジャーズの「1.共感的理解」「2.無条件の肯定的関心」「3.自己一致」は、話を聴く側の態度の話です。ただ、「2.無条件の肯定的関心」は「相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く」とされ、話の内容をどう聴くのかが言及されています。

相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く」ことに関して、皆さんはどんな実践をされていますか。

「この評価を入れず人の話を聴く」ことに関して、具体的にどうできるのかを説明をできる人は少ないと思います。

では、どうすればいいのか。多くの解決策が存在しうると思いますが、その答えの一つになるのがピクチャリングです。


ピクチャリング(映像化)とは、アメリカの経営コンサルタント、ロバート・フリッツ(Robert Fritz)が体系化した構造思考の基礎スキルです。

「積極的傾聴(Active Listening)」とピクチャリングのそもそもの目的は違いますが、「評価を入れず人の話を聴く」ことに関しては、ピクチャリングの技法が有効となります。

ピクチャリング

物事を空間的・客観的・視覚的・構造的に考える方法を学び、世界を明晰に理解できるようにします。もともと視覚的に考えることが苦手な人であっても、ピクチャリングを学んで実践することによって思考力が飛躍的に高まります。もともと視覚的に考えるのが得意な人でも、自覚的・体系的に学んで応用することによって創造性が高まり、構造思考の基礎が身につきます。

株式会社 ロバート・フリッツ・コンサルティング
https://robertfritzjapan.com/video_p


ピクチャリングは、クライエントの話を聴く際に、その内容を映像化、映画化するスキルのことです。
そして、相手の話を聴いている最中は、話の事実に着目して、頭の中で映像化、映画化を試みます。そこに、主観的な連想や脚色はしていきません。

皆さんも人の話を聴く際に頭の中で絵や映像を思い浮かべることがあると思います。もしかしたら、無意識に、断片的にやっている方もいるかもしれません。ただし、意識的に一定時間やれる方は少ないと思います。

ピクチャリングが正確にできると、対人援助職の持つ「人を助けたい」という職業的な価値観ですら一旦脇に置き、クライエントの状況理解に集中できるようになります。

時に「人を助けたい」という対人援助職の職業的な価値観が支援の邪魔をすることがあります。これは、つまり「今までの個人的な職務経験から、過去の成功事例を持ち出し、余計なアドバイスをして、クライエントの問題解決能力を奪う可能性がある」ということです。ピクチャリングは、この文脈を解決します。

クライエントが朝起きられなくて困っている話をしている最中に「自分(あるいは他者)の朝起きられるようになったエピソード」を話の途中で伝えるのは、親切なようにも見えますが、対人援助職としては、クライエントの個別性の高い困りごとに対して、まずはピクチャリングをして困りごとの構造を理解するほうが先決です。

クライエントの話を聴く際に頭の中で映像化、映画化をしていると一歩引いた感覚で話を聴くことができるようになります。映画館にいるような感覚です。そして、頭の中で映像化、映画化ができていれば自分の意識はそちらに集中しているので、基本的に聞き手側は、自分の意見、経験、感情、価値観は表出されません。

なぜならば、脳は基本的に2つのことを同時に処理することを苦手とするからです。

ピクチャリングができるようになると、クライエントの話を聴きながら、自分の意見、経験、感情、価値観を自分の意識上にすら立ち上がらせないほどに、相手の話に集中することができるようになります。

ピクチャリングの姿勢では、以下のことが大切にされています。

 【目的を持たない現実の探求】
・解決しようとしない
・助けようとしない
・つきとめようとしない

【理解をすることに徹する】
・なぜ人はそのようなことをするのか

ビデオコース ピクチャリング 基礎コースhttps://robertfritzjapan.com/video_p

クライエントは、多くの場合、困り事を抱えています。そして、困り事を解消したいと願っています(もちろん、困りごとに気がついていない方も存在します)。そして、対人援助職やソーシャルワーカーは、クライエントの困り事を解決をするのが仕事であり、それが個人の職業的な価値観になっています。しかし、その職業的な価値観ですら一度、脇に置かないとピクチャリングはできません。逆に「ピクチャリングができている」ということは、その職業的な価値観を一旦脇に置けていることにもなります。

これは、対人援助職側が常に自分の意見、経験、感情、価値観をクライエントに伝えてはいけないと、言っているのではありません。状況の理解をしているポイントの最中においては、伝えない方がいいという話です。

ピクチャリングの効用は、話を聴いてもらえた安心感に直結します。そして、対人援助職とクライエントの信頼関係の構築の一助にもなります。

クライエント側の自立という観点でもピクチャリングは間接的に影響を及ぼします。

自立の定義を私は「なにか結果を得ることではなくて、過程の中で何かしらに気がついていくこと、学んでいくこと」としています。

問題解決をする能力があるクライエントに対して、対人援助職が積極的に解決策の提示や代わりに解決をすることは、相手のパワーや能力を剥奪することにもなります。

対人援助職側が積極的に問題に介入をすれば短期的に問題解決がされ、クライエント側は、その時、嬉しいと思うかもしれませんが、長期的な自立には繋がりません。

私もピクチャリングを学び実践しながら身につけようとしている最中です。

ジコリカラボのオンラインイベントでは、ピクチャリングを積極的に取り入れていく予定です。共に学んでいけると嬉しいです。

次回はピクチャリングの内容について、もう少し言及します。


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