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2020.05.04 涼しい音楽の流れる日

昼ごはんを食べて、それからつめたいビールを飲む。グレープフルーツの薄皮と、大葉の茎を混ぜたような印象の、うすく濁ったきいろっぽいビール。開けている窓から、雨あがりの潤んだ空気と、鳥の鳴き声と、植物の綿毛が吹き込んでくる。窓辺に置いてあるオリーブの鉢植えをじっと眺めていると、あたらしい葉がぜんぶ窓の方を向いていることに気づく。

こうなってくるともう、なにもしたくないねえ、ほんとうにねえ、という会話をしながら、夫が音楽をかけてくれる。さらさらの涼しい空気にとてもよく合うジャズだ。こういう音をさして「冷たい」と表現するらしい。それを聴きながら、皮膚の内側に溜めこんでいる「きもちのよい冷たさ」の記憶をたどる。

ところで、薄濁りのきいろっぽい飲みものといえば、わたしはパナシェを思い出す。子供の頃、飛行機の機内誌に載っている随筆で「ビールにパイナップルジュースを混ぜたのをパナシェを言い張る人」の話を読んだことがあった。そのくだり以外は覚えていない。けれどもそれがずっと残って、パナシェがメニューに載っていると、どちらか確かめたくて頼んでしまう。でも本当はどちらのってことはなくて、どこで飲んでもレモンジュースとビールのカクテルなので、ひとり、ここにいない甘味を身勝手に惜しんでいる。

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