あわてんぼうのカンザスポーク
12/4
週に一本乗せ続けていたが、ついに記録が途絶えてしまった。間違えて日曜日に上げてしまい、投稿を取り消して改めて月曜日に直したが認めてもらえなかったのだ。
私は感情がないので、一年以上継続してきたものがぷっつり途切れても何も感じない。こんな時どんな顔すればいいの?てなもんだ。
この週に一本まとめる形式は気に入ったので、記録は途絶えたがこれに懲りずに続けていきたい。
12/5
語感の良さがピカイチだ。
味に関しては、元のカップヌードルシーフードを覚えていないので何も言えないが、さっぱりしている気もする。
トマの酸っぱさと濃さに、お互いが離れて過ごした月日の長さを思い知って、私たちの蜜月が再び訪れることはないと予感した。
12/6
前半はシャビシャビだが後半はカレーのとろみを帯びてくる。いける。
12/7
ごつ盛りってマルちゃんなんだ。
味濃すぎて全てがF(amily mart)になる。
12/8
以前どこかでメニューを見て食べたいなと思ったのだが、新橋で店舗を見つけた。
肉もほろほろ、卵の味付けも良い。箸休めの生姜玉ねぎも嬉しい。かなり好きです。970円するけど。
970円!?
松屋の牛めし二杯食べてお釣りが来る!?
地方の時給!?
後輩に誘われてnever young beachのライブに行った。
豊洲ピットだ。最近はゆりかもめに乗る頻度が高い。
2日前から最新アルバムを二周くらいしただけで本番に臨んだが意外といけるものだ。
新しいアルバムは全体的に好きだったので今日のライブも楽しかった。
舞台からフロア中央に通路が延びていて、そこを歩いてギターソロをしにきてくれたりしてよかった。
ギターが格好良いバンドってそれだけでいいよなあ。
12/9
何が足りないか分かりました、砂糖なのです。
好みの味に自力でたどり着けて嬉しい。
ミスチルと同じこと言ってる。
完全に意図されたポージング。
12/10
味もなんかカルボナーラっぽくない。
カルボナーラがどんな味かもよく覚えていないが。
イベントを観に渋谷に出たが、来週開催だと現地で知った。
霊的”ポ”リシェヴィキだと思っていた。恥ずかしい。
せっかく都会に出たので、美味しいラーメン屋を募集して教えてもらった店に食べに行く。
カルボナーラをブランチの気持ちで食べたのを忘れていたが辛くも完食。
ポン酢味はさっぱりして良い。
ペルソナ5の舞台でも観に行くかと吉祥寺へ向かう。
サニーデイ・サービスのドキュメンタリーで曽我部が舟をこいでいた場所でもある。
下北沢に移動する。
写真撮った瞬間は「お、『にしんば食べれたとて』って書いて投稿するか」くらいに考えていたが、今『よしんば1/2』を思いついて嬉しくなっている。ほめていただいても結構ですよ。
+が消えていることが多い。そんなに強くしてお尻が壊れないのか。
備忘録と銘打って始めたこの日記に日々のよしなしごとだけを書き連ねるのは誰が非難できることでもないし強いて非難するほど感情を動かされる御仁がいるとも思えないが、今のところカップラーメンと松屋の写真が並んでいるだけのこの文章を見てくださっている鬼子母神の如き優しさの皆々様におかれてもいささか辟易としてきたのではないだろうか、この駄文を読み進めるのは。
そこでエッセイめいたことを書いてみようと思い立った。一つテーマを設けて、週の最後の部分にぺっと載せておくのだ。
『お姉さんがあのラーメンを作ってくれる話 その1』
問題集の文字がゆらゆらと揺れる。必死に追いかけるけど頭に入ってくれない。
本から顔を上げて、息を吐きながらカウンターに目をやる。
黒くて長い髪の女性が背筋を伸ばして座っている。目を細めて館内を見回しているようだ。
「わっ」
目が合いそうになって慌てて本に目を戻す。
少し経ってバレないように上目づかいで見ると、お姉さんはレファレンスコーナーのパソコンを眺めていた。
きれいな横顔にイヤリングが揺れている。茶色いニットに白いカーディガンを羽織っていて、絵に描いたような司書さんだ。
でも僕はこの人の秘密を知っている。
数学Iの問題に集中できない僕は、本日五回目の休憩を取るべく、買ってもらったばかりのシャーペンを置いてあの木曜日のことを思い出した。
その日は中学校に入って最初の週で、放課後に初めて兄にゲームセンターに連れて行ってもらった。
ゾンビを撃つゲームやホッケーをしたりして楽しかったのを覚えている。
兄と一緒にクレーンゲームの色々な景品を眺めながら、初めてのおこづかいをどう使うか考えていると、兄が誰かを手招きし始めた。
そちらを振り向くと、知らない女の人が立っていた。高校生の服を着ている。
「暗くなる前に帰れよ」
兄は僕にそう言うと、その女の人と店の外へ歩いていった。僕は待ち合わせの時間潰しに使われたらしい。
急にひとりぼっちになった怖さもあり、下を向きながら早足で店を出た。全くしょうがない兄だ、心の中で悪態をついた。
外は太陽が半分くらい沈んでいて、ゲームセンターでかいた汗が4月と思えない寒さに冷やされていく。何が、暗くなる前に帰れよ、だ。
背中がブルリと震える。
早く帰ろう。中学校入学祝いで買ってもらったばかりの自転車を探す。
ゲームセンターの裏手に行くと銀の自転車がピカピカ輝いていた。鍵を開けようとポケットを探る。
ない。ゲームセンターまで自転車には兄が乗っていて、鍵を僕に返さないまま高校生と遊びに行ってしまった。
後頭部の辺りがギュッと縮こまるのを感じる。
ここから家まではもちろん帰れない距離じゃない。ただ歩けば1時間半はかかる距離だろう。スマホがあるから親と連絡も取れるが、中学生になりたてで迎えに来てもらうのは僕のコケンに関わる。今後の門限にも影響しかねない。
しばらくどうしようか考えたときにふと思い出した。母は今週からパートに入り出したから、そもそも早く帰っても家に誰もいないのだ。
色んな焦りが全部意味がなかったと気づき、僕はため息をつきながら座り込んだ。
小説でこんな展開があったら、僕なら読むのを止める。
家の鍵は父、母、兄が持っていて、全員それぞれの用事でそれなりの時間まで帰らない予定だ。父、母は兄がすぐ帰ってくれると考えていたのだろうが、あいつはデートに行ってしまった。
母はあと2時間くらいしないと帰らないはず。父はいつももっと遅く帰ってくる。兄には怒っているので僕から連絡したくはない。
(2時間)−(1時間30分)=30分、なんでもできる時間が生まれた。もちろん早く帰ってもいいが、玄関先で凍えながら待ちたくはないからここら辺で何かしたい。
コンビニでゴルゴでも立ち読みしようかと思ったとき、ぐるるるるぅと音が鳴った。
慣れない学校生活とゲームセンターのダブルパンチで、猛烈にお腹が減っていることに気づいた。
おこづかいもたっぷりある、コンビニのパンじゃなくて前から興味があったラーメン屋に入るのもいいかもしれない。ラーメン屋ならちょうど30分にも収まるし、体も温まって帰りやすくなる。
我ながら素晴らしいアイデアだ。早速ラーメン屋を探すと、黄色い背景に読めない漢字が並んでいる看板を見つけた。
メニューには『ラーメン』とか『豚』とか『大盛り』とか、ラーメン屋っぽい文字が並んでいる。
たまに見かけるといつも人が並んでいたけど、今日はたまたま誰もいない。
天才的タイミングだ!とニコニコしながらスライド戸を開くと、すごい匂いがむわっと押し寄せた。カップ麺で嗅いだことのある匂い、豚骨味、が僕を店の外に追い出そうとするみたいだ。
続いてイラッシャーセー!と怒鳴り声が僕の耳に飛び込んできた。思わず声の方を見ると、頭にタオルを巻いたお相撲さんみたいな人が腕を組んだこっちを見ていた。
なんだ、と身構えたがどうやら店員さんらしい。他にもクローンみたいにそっくりな体型と服装の人が2人いる。
さっきの大声は入店の掛け声ということか。そんなに叫ばなくても聞こえるよ、と思ったが学校でイタズラして怒られたときにしか聞いたことのない大声に、正直僕はビビっていた。
腰が引けながら、地面とにらめっこをしていると
「うちはしょっけんせいだよ!」
と聞こえた。
また響いた怒鳴り声に顔をあげると、店員さんその1が左手を口の横に添えながら、右手で僕の左側を指さして「しょっけん!」とまた叫んだ。
慌ててそっちを向くと、銭湯の壁みたいにタイルがいくつも並んでいる機械がある。タイルには『ラーメン』『つけそば』みたいな文字が書いてある。これを押して注文するのか。
僕はなんで怒られてるのか分からないまま、急いでタイルの一番下の『ラーメン(特)』と抱えたタイルを押した。そこしか届かないからだ。押した後、そのタイルに『1100円』と書いてあることに気づいて恐ろしくなった。呪術廻戦の本が2冊買える金額だ。
「お金入れて!」
キーンとする声に焦って機械を見回すと、上の方にお金の投入口があった。と、届かない。
「ちょっと待ってね!」
店員さん1がカウンターから踏み台を持って出てきて、僕の足元に置いた。なんたる屈辱だ。しかし、これを使わなければ届かないのも事実。背伸びして千円札と百円玉を投入した。
「あちらにどうぞ!」
びくっとしながら指された方向に向かう。一番壁際の席で、左隣には長い髪を縛った女の人が座っている。
手を使って席に登って座る。足は床に届かない。
一息つくと、急にドキドキしてきた。来る店を間違えたかもしれない。
カウンターの向こうではもうもうと湯気が上がって、鍋がグツグツと音を立てている。奥の方では店員さんその2が湯切りをしている。店の中はなんとなく脂っぽいような、あまりきれいじゃない感じがする。
隣の女性はスマホを見つめている。こんなきれいな人もこんな店に来るんだ。
足をぶらぶらさせながらラーメンを待っていると、姉さんの席にラーメンが来た、が。
それはラーメンというにはあまりに大きすぎた。
器から5cm以上はみ出している。野菜だろうか、イタズラみたいな量が盛られている。
お姉さんは写真を撮った後、箸を割ってもやしを食べ始めた。こんな人にこんな量が食べ切れるの!?
しばらくパクパクと野菜を食べたあと、麺を一度持ち上げて勢いよく啜り始めた。凄い勢いだ。昔、テレビで大食いの人を見たが、その人みたいなスピードで食べている。
呆然と見ていると、お姉さんと目が合った。恥ずかしくなって目を伏せる。そして怖くなってきた。僕はあんな量食べられない、と思う。
徒競走くらい手に汗を握ってうつむいていると、
「ニンニク入れますか!」と声をかけられた。
え!?ニンニク!なに!分かんない!
「は、はい……」
「あいよぉっ!」
そのすぐあとにドンッと音が聞こえた。僕の前に丼が置かれたのだ。
「お待たせしましたっ!」
平らなお皿に丼がのっていて、丼から少し汁がこぼれている。少し目線を上げると白く濁った野菜が目に入る。もやし以外にも白くてもったりしたかたまりがいくつものっている。
そして、何より、量が多い。お姉さんのときより3cmくらい山が高いと思う。
ブルッ、と背中が震えた。
とにかく、食べるしかない。こんな店で残したら、多分めちゃくちゃ怒られてしまう。
箸を割って、もやしを口に運ぶ。あ、美味しい。もやしのシャキシャキとさっきの白いやつのムニッとした食感が交互に来る。味も初めて食べる感じだ、角煮とか食べたときに似てる気がする。
これだったら結構いけるかも、と口に運ぶが、いくら食べても減らない。必死に食べるけどまだ高さが4cmくらいしか減ってない。麺も全然見えてこない。もしかして全部もやしなのか。
怖くなって隣を見ると、お姉さんはもうお箸を置いて口を拭いていた。嘘、もう食べ終わったの!?
お姉さんが食べられるなら、と僕も自分を奮い立たせてもう一回挑む。
猛スピードで食べ進めると、分厚い肉が見えてきた。こんなに大きなチャーシューは見たことない。かじるとほろりとほどけ、噛むと肉の美味しさが口に広がる。
チャーシューを何欠片か食べるとようやく麺が見えてきた。もう既にお腹はいっぱいだが、なんとか麺を持ち上げる。お、重い。
麺をすすりたいけど、太くて数本しか口に持っていけない。
とっくに疲れた腕で、口に麺を運んで箸で手繰り寄せる。全部詰めるとリスみたいに頬が膨らんだ。ガクガクしてきたあごで噛みしめる。すごい歯ごたえだ。器の中をのぞくとすごい量の麺が残っている。肩にしびれが走る。
水も使って無理やり飲み込む。もうこれ以上は無理だ。
お姉さんの方に目を向けると、僕の丼を見ている。カァッと頬が熱くなった。こんな量も食べられないのかと思われているのだ。
お姉さんから丼を隠すようにおおいかぶさって、二口目をすする。
あ、無理だ。
次の瞬間、僕は逆再生みたいに食べてきたものを丼の中に吐き出した。
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