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もっと穏やかで平和な人生が歩める努力を——書店員R.H.さんの推薦の言葉

春秋社アジア文芸ライブラリー『高雄港の娘』刊行にあたり、さまざまな方から推薦の言葉をいただきました。今回は匿名の書店員さんに頂戴した文章をご紹介いたします。

 とても素敵な、そして、日本人なら全ての人が読んでほしいと願う内容だった。

 この台湾の歴史の流れを知る日本人はほとんどおらず、日本統治下において、孫家と王家の複雑な事情を描きながら、台湾で日本人として生きた愛雪さん、そして、戦後は日本に来て、台湾独立を掲げている旦那さんを支えながら、日本で台湾人として戦後日本の再建に貢献した愛雪さん。今の台湾人のアイデンティティを象徴するような、強い意思を持った女性の物語で、当時はこのような複雑な想いを持ちながらも、台湾をどうしていくか。自分は今後どのように生きていくか——愛雪さんのような方が沢山いたに違いない。

  途中、周という年配の教師が話した言葉が、とても印象的だった。

「中国ってのは、台湾を産むだけ産んで家が大変だからと台湾を捨てた。育てずに50年経った。今、育てられるようになったから親子と認めろと言ってきている。台湾にすまなかったと一言くらいあれば、これから仲よくできるんだけどな」

(『高雄港の娘』169ページより)

 わかりやすく、深い、愛雪にも刺さり、家族という見立てで表現しており、この教師の発言は、この物語の主軸の孫家と王家の複雑な家庭事情や関係の本質を表現していると感じた。作者の意図とは違うかもしれないが。

 すれ違いや、勘違い、面子、色々な感情が交わる事で孫家と王家の壮絶な人生を歩み、その全てにおいて、素直になれたらもっと寄り添っていたのかもしれない。 そして、この感情は国家間においても同様だと思うし、改めて両家の物語を通じて、考えさせられた。

  愛雪さんの人生は時代の流れによって、なるべくしてなった。こういう人生を歩んでいる人もいるから、もっと強く生きないといけない、というメッセージではなく、もっと、穏やかで平和な人生が歩めるように、我々は努力しないといけない——というメッセージを感じた。そして台湾はそれを実現するために今もなお頑張っていると。

 素敵な物語を日本人にわかりやすく、訳して頂き、本当にありがとうございました。


勝手口から見た台湾の姿を、さまざまにお届けすべく活動しています。2023〜24年にかけては日本で刊行予定の翻訳作業が中心ですが、24年には同書の関連イベントを開催したいと考えています。応援団、サポーターとしてご協力いただけたらうれしいです。2023.8.15