台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-上映作3本、一挙紹介。」
小田香《GAMA》
ー同時代の情景部門ノミネート作品
第二次大戦時、日本で唯一、上陸戦が行われたのが沖縄だ。隠れ場所になった洞窟では集団自殺になったものもあった。本作では、当時を伝える語り部、松永光雄さんの語りを中心に、洞窟での語り、遺骨収集の姿を伝える。沖縄で「ガマ」と呼ばれる洞窟は、いわゆる本土の防空壕とは違って、自然にできたものだそう。松永さんの語る声、水滴の落ちる音、海辺で珊瑚のカケラがぶつかる音、遺骨の収集作業で砂を掬う音、そして洞窟の外で聞こえる軍用機……青と緑と暗闇とが行き交う画の中に、繊細な音声が重なり、今の語りのはずがどこかで過去とつながる錯覚に陥った。小田監督の作品はTIDF2016で上映された『ARAGANE』以来2本目の鑑賞。「アンダーグラウンド」をテーマにしているという監督が、沖縄のアンダーグラウンドで過去とつながった瞬間に立ち会ったような、そんな気がした。
参考)2023年の山形国際ドキュメンタリー映画祭時の小田監督インタビュー
胡三壽《復活》
中国語インディペンデント部門ノミネート作品
胡監督の作品は前回に続いて2本目。中国のインディペンデント映画を牽引する呉文光監督の「民間記憶計画」の呼びかけに接した胡監督が、陝西省にある山間の故郷の撮影を始めて10年になる。きっかけは、胡監督の最初の作品でインタビューした村のお年寄りが、1959年から61年までの中華人民共和国大飢饉の際の様子を聞いたことだった。いわば連作の1本ともいえる本作は、国の政策に翻弄され、重機によって山が削られ、川の形が変わり、ホタルがいなくなった村で、墓の掘り起こしと移動が行われる様子が映し出されている。墓の掘り起こしの様子と並行して、亡くなった人たちがどんな人たちだったのか、家族と村の人たちの音声とともに、監督のイラストを添える形で再現される。その目線はとても暖かだ。なお、2024年旧正月に高速道路が開通したそう。本編のサムネイルは上映後のトークの様子。次回作も大いに期待したい。
曹文傑、林琬玉監督《島上》
台湾コンペティション部門ノミネート作品
台湾離島「蘭嶼」。台湾東部から船で2時間半の距離に位置する島には、約5000人が暮らす。大半はタオ族と呼ばれる先住民(台湾原住民族)だ。「拍手之歌」と呼ばれる古来からの楽曲を学ぶ教室の参加住民を追う形で、現代と伝統の端境にある彼らの語りや歌、そして日常をとらえる。映し出されるのは、台湾本島とは異なる暮らしだ。上映後のトークでは「彼らがいちばん注目しているのは、土地所有の問題です」と現地での問題意識がシェアされた。なお、今月14日、台湾立法院で「姓名条例」が通過したばかり。戸籍登録には漢字併記が義務づけられていた先住民の名前だが、ローマ字表記による登録を認める修正が行われた。台湾は、圧倒的マジョリティである漢族中心に形成された社会制度下にあることを改めて感じさせる1本。マイノリティをまず知ろうとすること。その意味で本作は、第1歩に過ぎない。