空白の三時間

ライブの日の話。
ライブハウスでのサウンドチェックが終わるのがだいたい16時ごろ。
ライブが始まるのが19時くらい。
空白の三時間が生まれる。
その空白の時間で、メンバー三人連れ立ってご飯でも食べに行こうかとなる。
ライブハウスの周辺を散策して、「お!」と思うところを探す。
チェーン店は味も雰囲気もわかっているからアンパイではある。
しかしせっかくならばその土地にしかないようなお店で食べたいと思うのが人情。

そしてその人情が裏目に出ることもしばしばなのだ。

京王井の頭線の「西永福」という駅にあるライブハウス。
THE住宅街って感じの街なので、飲食店もそんなに数があるわけではなく、僕らは件の空白の三時間でのお店探しを毎回苦戦していた。
サウンドチェック終わり、西永福の街をバンドメンバー三人でぶらぶら歩く。
めぼしい店がなく、ひたすらにぶらぶら歩く。
商店街にすき家を見つける。が、せっかくならここにしかない店で食べたいよな...と、人情が発動。
ふと商店街の先を見ると蕎麦屋がある。高級でもなく、ボロボロでもなく、普通の蕎麦屋。「昔ながらの」って枕詞がぴったりの佇まい。
そうそう、こういうとこが結構良かったりするんだよねということで入店。
安かったので天丼を注文。
ほどなくして出てきたそれはベチャベチャで生ぬるい天ぷら(らしきもの)が乗っかった丼であった。
朝まとめてあげたやつをレンジでチンして出してんのかな?という感想しか持てない残念なシロモノ。
人情が裏目に出たパターンだ。

約半年後、再び西永福を訪れた。
空白の三時間、メンバー三人でまたもぶらぶら歩く。
前回の天ぷらはヤバかったねーと言いながら歩く。
すき家が視界に入るも「人情」発動でスルー。
ふと目についたラーメン屋に入ってみる。
が、注文の仕方がよくわからない。どういう仕組みでセットになるのかがわからない。
店員の説明もよくわからない。
しょうがないのでとりあえず店先に貼ってあった写真を頼りにあれをくださいって感じで注文。
まあまあ待たされて出てきたのは、頼んだものではなかった。
でも今からまた作り直してもらうのも時間がかかってしょうがないのでそれを食べる。
果たしてその味はダシの概念が欠落したラーメン(らしきもの)であった。
またしても人情が裏目に出た。

時は流れて先月。
僕らは西永福にいた。
そして空白の三時間がやってくる。
メンバー三人で西永福の街をぶらぶら歩く。
三人とも実はもう諦めていた。
俺たちとこの街の飲食店とはとことん相性が悪いのだと。
「その土地でしか食べられないものを...」などと妙なロマンチシズムを持ち出すから失敗するんだと。
ここではいいお店には巡り会えないんだと割り切るべきなのだと。
というわけでそんな時に頼りになるのが、チェーン店だ。

「チェーン店は味も雰囲気もわかっているからアンパイではある。」って、ちょっとネガティブな書き方を冒頭でしちゃったけど、アンパイの何が悪いのだ。
まずいわけではないし、てか、ちゃんと美味しいんだから、チェーン店最高!
そうして僕らはすき家を目指して歩き出した。

入店すると、普通のすき家ならばあるはずの「いらっしゃいませ」の声がない。
おや?と思いつつ店内を見渡すと、食べ終わって客が帰ったけど片付けられていないテーブルがちらほら。
注文したものを待っているんであろう先客が三組ほど。
パッと厨房の方を見ると、明らかにテンパったようすの大学生っぽい女性がひとり作業している。
今日はやめておこう。と、僕らは無言で頷き合ってすき家を出た。

アンパイであるはずのすき家にも入れない僕らはどうしたらいいんだ。
そして僕は途方に暮れる。
いや、もうちょっとだけ商店街を歩いてみよう。
一番向こうまでは行ったことがないじゃないか。
商店街を歩きつつも、八割がたはコンビニでカップラーメン買って食べるかーって頭になっていた。
セブンのカップラーメンは種類も豊富でうまいしな。それでいいじゃないか。

なんて思いながら歩いていると、目の前に中華屋さん。
街中華って感じではなく、ほんとの中華っぽい雰囲気。

ここに...してみるか...?
メンバーと目で話して(声を出してしゃべれ)、恐る恐る入店。
悲しいかな、人情が裏目に出ることに慣れっこになってしまった僕らは、期待レベルを最小まで下げてメニューを広げた。
ん?うまそうだぞ...。安いし。
僕は牛すじ麻婆丼を注文。
他の二人はちょっと辛そうな麺を。
注文を取ってくれたお兄さんが中国語で厨房に向かってオーダーを叫ぶ。
しばし待つ。

やがて運ばれてきたのは、黒くてゴツい丼に盛られた麻婆丼。
見るからにうまそうだ。
他の二人のところに来た麺もうまそう。
それでも、情が裏目に出ることに慣れっこになってしまった僕らは、期待レベルを最小まで下げて一口目を食べる。

う、うまい。

そこからはもう夢中になって食べた。
一口ごとにうまい。毎口うまい。
「うまいなー」と何度も声に出すくらいうまい。
メンバー二人も夢中で食べている。

うまい飯屋が、ここに、あった。

こうして僕らの「空白の三時間難民問題」は解決したのです。
あー、あの店に行きたいから、早く次のライブが決まらないかなーと思っていたら、決まりました。


■12月26日(月)西永福JAM
「MAX NIGHT!! THANK YOU FOR 2022」
w/toitoitoi、Genius P.J's、一寸先闇バンド
前売り¥2,500/当日¥3,000
open 18:30/start 19:15

※JAM店長カズマックスにしかこの組み合わせはできないヨナと膝を打った。
面識はあったものの距離感のあったtoitoitoi。だが、BASSダッハーラの個人活動のおかげでグッと近くなった。アコギと女性ボーカルの二人組。この日は強力なバンド編成での出演。必見です。
4年前には一緒に札幌遠征したし、メンバーのクロダ君にはドブロクのアルバム制作も携わってもらった。硬派なHIPHOPユニットGenius P.J's。必見です。
今年の「秘境にて」にギターボーカルのおーたけ@じぇーむずがソロで出演。彼女の肝入りのバンド、一寸先闇バンド。必見です。

さて、ドブロクはこのメンツを相手にどう立ち回るのか。超必見です。
2022年ラストライブ、気持ちよく締めくくります。

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