特許実務と著作権問題

特許明細書の著作物性について、当初はお茶を濁していたような記憶がある.

しかし最近の特許庁HPをみると、「公報に掲載されている明細書や図面等は、通常、その創作者である出願人等が著作権を有していますので、転載する場合には許諾が必要になることがあります」と記載されているように、もはや特許明細書の著作物性に疑う余地はないだろう.

特許明細書を作成した者が著作権を有するから、その著作権者の許諾を得ずに行う実務は著作権の侵害ということになる.

例えば、A弁理士が作成した特許明細書を、A弁理士の許諾を得ずにB弁理士が出願した場合.

特許明細書を作成したA弁理士が日本特許庁へ出願する、もしくは外国代理人に依頼して外国に出願するということが著作権法に則った実務であろう.

これに対して、A弁理士が作成した特許明細書をA弁理士の許諾を得ずに勝手に日本特許庁へ出願したり、もしくは外国に出願したりすることは、出願後に公開された時点で著作権の侵害の責を負うことになる.

実務に関わっていない人からすれば、そんなことがあるのかと疑問に思うだろうから、もう少し状況を説明しておこう.

仮想事例その1 企業Xからの依頼に基づいて、A弁理士が特許明細書を作成し、その後、特許明細書を企業Xに送り、出願指示を待っていたとしよう.

その後、企業Xの担当者とA弁理士の関係が悪くなり、企業XはA弁理士に出願を依頼せずに、別の特許事務所Yに依頼した.

企業Xから特許事務所Yに送られてきた書類をみると特許明細書として完成されたものであったので、それをほぼそのままB弁理士が特許庁へ出願した.

仮想事例その2 企業Xからの依頼に基づいて、A弁理士が特許明細書を作成し、その後、日本特許庁へ出願した.

企業Xは、その出願を米国にも出願したいが、米国出願はA弁理士ではなく、別の特許事務所Yに依頼した.

企業Xから米国出願の依頼を受けた特許事務所YのB弁理士は、A弁理士が作成した特許明細書を英語に翻訳して、米国のC代理人に米国出願を依頼し、C代理人が米国特許商標庁へ出願した.

仮想事例その3 企業Xからの依頼に基づいて、D特許技術者が特許明細書を作成し、その後、A弁理士の名義で特許庁へ出願した.

例を挙げれば枚挙にいとまがないが、これらの実務は決して珍しいことではない.

さすがに仮想事例その1のようなことは、道徳的にもどうかと思うが、著作権に抵触することは明々白々である.

日頃、著作権については契約が大事であると相談者に啓発している自身、実は特許明細書の著作権の扱いについて特に契約をしていない.

代理人と依頼者との信頼関係に基づいているとはいえ、その信頼関係が画餅に過ぎないことは経験則でもある.

特許明細書の著作権の帰属について一筆書きしておこうと思う.

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