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お遊戯会だか何だかで

 保育園のお遊戯会だか何だかで、私はオズの魔法使いの意地悪な魔女役を演じた。大人たちは褒めそやし、その時の快感が忘れられず小学校では演劇部に入った。
 自分で言うのも何だが、演劇部では人気者であったと思う。即興でおどけた芝居をしてみせ滑稽を演じながらも、誰よりも才能があると思っていた。
 
 小学校6年生、最後の公演での私に当てられた役はマフィアのボスであった。主人公を脅し、部下を引き連れ暴虐の限りを尽くす。200人規模の会場に私は心躍っていた。小学生ながらマフィア映画を観て研究し、凄味のある声の出し方、風格ある立ち振る舞いを練習した。
 そして公演当日、私は笑い者となった。
 甲高い鼻声、ガリガリの体格が演じるマフィアのボスは爆笑をさらったのだ。先生方の目論見は大成功、公演も上手くいった。仲間達、先生達、観客、そして親、全員が私の演技を褒めた。
 だがしかし、私は何一つ嬉しくなかった。笑いを取るためにマフィア映画を観たのではない、笑われるために練習をしたのではない、それでも私の演技は笑われた。悔しくはなかった。小学生達のはしゃぎ声で溢れる楽屋から一人抜け出し、ただただこう思って泣いていた。
 
「あぁ、僕には才能が無いんだなぁ」と。


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