田中ジョヴァンニ

田中ジョヴァンニ

最近の記事

白を信じて染みが付く

「ブリーフ持ってきてよ!」 いつもの様に休み時間に寝たふりを決め込んでいたウエノウシオは耳を疑った。 ブリーフ…? 顔を上げると予想外の人物が立っていた。クラスのアイドル的存在、モモミヤさんである。ウシオは咄嗟に目を半開きにしつつ天然パーマのあたまをポリポリと掻き、如何にも今まで寝ていましたよとアピールした。 そして、蚊の鳴くような声で「え…」と言った。 「ブリーフ、持ってきて!」 聞き間違いでは無かった。モモミヤさんは満面の笑みでそう言っている。ウシオは何故彼女がそ

    • オーディション番組で優勝して所属した芸能事務所を直ぐ辞める事になった日の話

       その運命の日は高校の男子トイレの中にあった。  相方の母親からメールが届いたのだ。息子が同級生を切りつけた為、事務所を辞めさせるつもりだ、と。当時の私は歯列矯正をしており、食後の歯磨きが必須であった。思春期の自意識により、昼食をほぼ噛まずに飲み込んだ後に、自分のクラスがある校舎から程遠く、昼休みには誰も訪れる事の無い体育館のトイレに籠り歯を磨くという馬鹿げた行為を毎日行っていたのである。  私と相方はプロのお笑い芸人だった。オーディション番組に出場し、優勝し賞金を獲得し

      • 解任、瓦解、餓死

         東京五輪開会式の演出家が解任された。正規販売もされていない二十年以上前のコント映像がゴシップ雑誌編集部により恣意的に切り取られ拡散され、その一部のセリフに過剰反応を起こした人々と陰謀論者の政治家が人権団体へ通報した。開会式前日の出来事であり、この原稿は開会式翌日に書いている。  その演出家はあらゆる面で私が目標としている存在であった。功績を並べ立てるつもりは無いが、少なくとも私の人生には大きな影響を与え、小学生の頃に彼のコントを観て自らも表現活動を行いたいと思うようになった

        • ゴルゴダの豚

          先日、奥さんにこの格好が見つかりまして、あ、最近じゃ奥さんという言葉も良くないの知ってるんですが、今回はご容赦下さい。つまり配偶者、結婚相手の女性の事ですね。 で、その日は問診が早く終わったとのことで、奥さんは予定より早く帰宅し、まさか帰ってくるとはつゆ知らぬ僕が、月に一度の半休を取り着替えている所が見つかりました。 それはもう鬼の剣幕で詰問されました。その服は何だ、誰の物だ、まさか浮気しているのか、と。僕は言いました。浮気なんてする訳が無い、この服はボンテージというもの

        白を信じて染みが付く

          崩壊する日常

           第二子が産まれたと報告した会社の後輩が同じ年に家を買った。35年ローン、ボーナス払い無し。一つ上の先輩も同様に家を買い子育て談議に花を咲かせている。入社9年目で既婚者ながら子供のいない私は少数派で、この令和の時代に「子供はまだか」などとハラスメントを受けている。  三十余年の人生で無自覚な迫害を受け流す強さを得たが、子供を持つことは考えられなかった。何も子供嫌いな訳では無い。塾講師のアルバイトをしていたし、友人の弟の面倒もよく見ていたりもした。ただ同じような給料を貰っている

          RAMちゃんのランダムアクセスメモリー

           RAMちゃんは何でもやった。  RAMちゃんはとにかく好きな事を何でもやった。  だけど今のRAMちゃんは、試しに角をつけてみて豹がらの服を着ている。  照明とマイクで四方を囲み、カメラに向かって馬鹿みたいな挨拶をしている。  RAMちゃんは昔から何かに成りきるのが好きだった。一番初めの記憶は「俺はセーラームーンだ!」と言いながら道端の石をこっちからあっちまで運んで、母親に泣かれた事。  一人っ子で鍵っ子だったRAMちゃん。放課後はテレビを見て、漫画を読んで過ごした。芸能

          RAMちゃんのランダムアクセスメモリー

          墓穴へ意気揚々と

           「これ、君のだよね」と紙がテーブルに投げ置かれる。何事かと思うも、見覚えのある画面が克明に印刷されたそれを見て一瞬で悟る。震える手で掴んだそれは、確かに私自身が投稿したSNSへの呟きであった。  ご丁寧にアイコンは自画像、自己紹介欄にはインターン先の名称、下卑たジョークを連発しあらゆる事を揶揄するネット上の私の姿がそこにある。弁明のしようは無く事実を認め謝罪し、叱責を受けた後、無為な一週間を過ごした。仕事を振られることも無く、何かを学ぶ機会を与えられず、会議室で一人古い資料

          墓穴へ意気揚々と

          戯曲「ビジネスパーソンホワイトB」

          舞台下手、携帯片手に座り込むスーツ姿の女 顔は疲れている 女:お母さん、突然ごめんね。うん…食べたよ。うん…。お父さんは?そう、もう年だもんね。え?いや、ただ声が聞きたくなって…。元気?そう、良かった。ん?私のことは良いよ。うん…うん。そうだね。もう寝るよ…おやすみなさい…。 女、立ち上がりカッターを手に。携帯は耳に当てたまま。 女:お母さん。ごめんね 携帯を耳から離し、床に落とす。顔の前でカッターの刃を出す。 しばし間、床の携帯を見て、拾い上げる。携帯を耳へ。 女

          戯曲「ビジネスパーソンホワイトB」

          さかしま第3号「自由に生きることを恐れるな」序文

           1日の半分を会社で過ごし、4分の1を寝て過ごしてみても6時間は余る事になるが、おおよそそんなに自由時間が有るように感じない。通勤の往復に1時間、朝夕の食事で1時間と諸々の家事に1時間。それでも3時間余る。帰宅が10時過ぎ、就寝は1時として夜の自由時間の3時間。そこで何をしているのだろうか?  趣味の時間、自己啓発の時間、友人との電話等々、人々は精力的に過ごしているかもしれないが、私と言えばただひたすら横になっている。見るとも無しに携帯でツイッターやフェイスブックを見つつ仕事

          さかしま第3号「自由に生きることを恐れるな」序文

          隅で常々

           男女問わず成人した人々が低年齢層向けアニメやゲームに熱中する姿や、稚拙な脚本と演出や構成の未熟さを隠すことすら出来ていないドラマを見て感想を言い合う様を見ながら、私は教室の隅で常々思っていた、「何が楽しいのだろうか」と。  高校生の頃はミニシアターへ通い詰めては劇場に居る誰よりも自分が若い事に悦に入り、マイナーな映画の感想をミクシィに書いていた。大学に入ってからはさらにエスカレートし、一人で外国に行きフィルムアーカイブと呼ばれる映像保管施設を巡っては、市場に出回っていない歴

          お遊戯会だか何だかで

           保育園のお遊戯会だか何だかで、私はオズの魔法使いの意地悪な魔女役を演じた。大人たちは褒めそやし、その時の快感が忘れられず小学校では演劇部に入った。  自分で言うのも何だが、演劇部では人気者であったと思う。即興でおどけた芝居をしてみせ滑稽を演じながらも、誰よりも才能があると思っていた。    小学校6年生、最後の公演での私に当てられた役はマフィアのボスであった。主人公を脅し、部下を引き連れ暴虐の限りを尽くす。200人規模の会場に私は心躍っていた。小学生ながらマフィア映画を観て

          お遊戯会だか何だかで

          「小さな星の孤独な王」オリジナルver.

           やぁ久しぶりだね。何をそんなに驚いているんだい。言っただろう、僕はもと居た星に戻るんだって。君だって散々言っていたじゃないか、像を飲み込むボアの事を。君は言ったよね、<ボアは獲物を噛まずに丸ごと飲み込みます。すると自分ももう動けなくなり、6か月の間眠って獲物を消化していきます>。君は僕の後を追い、僕の姿を見つけることが出来なかったようだけど。僕はボアの腹の中に居たのさ。そしてボアは動けないから、砂漠の砂に埋もれていて見つけられなかったんだ。それで僕は6か月間ボアのお腹の中を

          「小さな星の孤独な王」オリジナルver.

          「がらんどうどうめぐり」オリジナル歌詞

          1990年8月1日 私はNICUに生まれた 心に穴が開いていて ヘモグロビンが新しい酸素を持って来られなかった でもそれはあまり関係ない 体育の時間は一人きり 木陰で休んでいたけれど 美術好きのきっかけになったぐらい そもそも何も覚えていないし ひけらかすには浅薄すぎる 1995年8月1日 一番初めの記憶のかけら うるさい子たちから逃げ出して 画用紙とクレヨン握りしめ 部屋の隅 窓の外を眺めてた 薄暗い外はとても静かで まるで世界に一人きり あめあめふれふれ パパとママはまだ

          「がらんどうどうめぐり」オリジナル歌詞

          楽園にて死すべし

           蛇苺毒美が結婚した。  出勤前に覗いた郵便受けに結婚式への招待状が届いていた。見覚えの無い差出し人の名に間違いかと思ったが、印刷されていた写真を見て思い出した。毒美の本名を忘れ去っていた事に苦笑しながらも、かなり驚いていた。一年で人はこうも変わるのか、写真の中の毒実は柔和な表情で、そして、信じられないことに微笑んでいた。顔立ちこそ変わらぬものの、学生時代には考えられなかったことだ。 「秋波を送ることは痴態である」と言い、気が強く他人へ媚びることを嫌った彼女が、共に写っていた

          楽園にて死すべし

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          総合表現集団かべちょろ音楽プロジェクト「がらんどうどうめぐり」

          作曲・歌:ピピサンアロニ 語り:キャサリン・クボタ 作詞:田中ジョヴァンニ 【Official Site】 http://kabe-tyoro.blog.jp/ 【Twitter】 @Kabe_Tyoro 【MUSIC VIDEO STAFF】 出演:安武風花    くらげ    リリー・マーキュリー 監督・撮影・編集:田中ジョヴァンニ 撮影助手:高瀬一樹,立山学,岡崎拓弥 協力:野々宮二郎,ばしこ 黒板アート:岡崎ほたる 企画・制作:総合表現集団かべちょろ 〈ポエトリーリーディングとのコラボレーションという新しい音楽の形に挑戦しております。芸術への信念を持ち、絵を描き続ける少女が夢と現実の間での葛藤する様子を描いた美しいものがたりです〉─ピピサンアロニ

          総合表現集団かべちょろ音楽プロジェクト「がらんどうどうめぐり」

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