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具体・具象


キノハノ ヲチタ
カキノキニ
オツキサマガ
ナリマシタ
(實りましたの意)

大正十一年十一月 田中千鳥が五歳半のときに初めて書いた自由詩です。彼女の詩にはどれも、知らない言葉・難しい言葉は一切出てきません。どこまでも平明・平易、あくまでも具象・具体の人。なにも抽象しません。含意や象徴、解釈といった表現上の作為や計算とは無縁、ストレートです。なんだ、五歳の少女なのだから当たり前だろ、見たままをそのまま言葉にしただけじゃないか、そんなの誰にだって書けるさ‥そう思う人もいるかもしれません。しかし、そうではありません。そんな方は、残念ながら、言葉の力・文学の怖さに触れたことがないのだと云いたくなります。子供は、大人が思うほど幼稚でも素朴でもありません。どこか鋭く深く感受する力を育てているものです。余計な企みのない千鳥の言葉の「ゆるぎなさ・恐ろしさ」に交感して貰えると有り難いです。無垢・天真。無邪気・無辜‥、幼さ・ひよわさの奥にある千鳥の「強靭」、平明の向こう側に拡がる「しなやかさ」を感じとって下さい。自分の身の回り、目にする風景、自然描写がそのままその光や影、空気や温度・湿度までを丸ごと切り取って過不足なく提示される気持ちよさ・言葉の心地よさ・快感、その文学としての奥行を味わって戴ければ。【彼女の詩文のすべては HP「田中千鳥の世界」で公開、読むことが出来ます。】


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