杞憂に過ぎないことを祈る

 あまりにも恐ろしい。恐ろしいと思う感覚や対象が違うのか、違わせられてるのか。

 上記は、NHKが去年11月4日から12月7日にかけて行った、全国の18歳以上3600人を対象した郵送による世論調査の結果(回答率約65%、回答者数2331人)である。
 ストレスや就業など、いくつかの質問項目のうち、目を背けたくなるような結果が記されていたのが「自由の制限について」だ。

感染症対策のため国や自治体がとる措置について具体的に挙げて許されるかどうかも聞きました。
「許される」または「どちらかといえば許される」と答えた人の割合は、
◇「外出の制限」が87%
◇「休業要請」が82%
◇「携帯電話の位置情報による個人の行動把握」は52%となりました。
(上記記事より)

 どのようにして質問項目を作成したのかわからないけれど、「自由の制限について」「携帯電話の位置情報による個人の行動の把握」を入れたことに、まず驚く。
 「自由の制限について」は、まだわかる。だが「携帯電話の位置情報による個人の行動の把握」は異様だ。なぜこの質問をしたのだろうか。
 このふたつの質問項目を and 検索したところ、こんなレポートが出てきた。あってもおかしくないものだが、今まで聞いたことはなく、初めて見るものだった。やはり新聞をとらず、ネットニュースだけだとこんな弊害があるのか。

 これは総務省サイト内「個人情報の保護」にあったPDFだ。「緊急時等における位置情報の取扱いに関する検討会 報告書位置情報プライバシー レポート位置情報プライバシーレポート~位置情報に関するプライバシーの適切な保護と社会的利活用の両立に向けて~(平成26年7月)」と表紙に書かれている。
 ネット記事のような平易な文章ではなく、かつ68ページもあるので全部はまだ見れていない。親切なことに、概要 ↓ があったのでこちらを見てみる。

 この末尾にある「今後の取組み」にこんなことが書かれてあった。

(2) 公的分野での利活用の実証
○ 位置情報の公的分野での利活用においては、利用目的・主体・取扱い方法(保存期間、加工の方法、管理運用体制等)に応じたプライバシー上のリ
スクや利用者の受容度等を勘案して、その取扱いの在り方が検討されうる。
○ まずは、利用者からの理解が得られやすい、災害救助や防災分野といった公共性の高い分野における、国、地方公共団体といった公的主体への第
三者提供について、実証を進めていくべきである。(「位置情報プライバシーレポート」概要より)

 わお。位置情報を公共性の高い分野において国に提供する方向へ進めよう的なことが書かれてあった。
 まさにNHKの世論調査記事にあった「携帯電話の位置情報による個人の行動の把握」ではないか。わお、わお。
 たしかにこれは国家としてやりたいことだと思う。でも、これまでプライバシーや個人の自由によって、やりたくてもやれなかったこと。それがこの事態で可能になるかもしれない。
 「行動把握した方がいいでしょ」「そうだね」となったので、6年半のときを経て実現される可能性がある。

 いやもちろん、ストーカー被害や誘拐、災害などから救うためには必要な手段だと思う。その線引きや運用は難しい。実際に被害者とならないと、その必要性や緊急性を実感できない。
 だが、救い出すための一瞬の位置情報の特定と、国家による「位置情報による個人の行動の把握」とは別だろう。「特定」ではなく「把握」。常に監視するということだ。

そのうえで▼外出を禁止したり休業を強制したりできるようにする法律の改正が必要かどうか聞いたところ、
◇「必要だ」が42%
◇「必要ではない」が19%
◇「どちらともいえない」が38%でした。

「必要だ」と答えた人を年代別にみると
▽18歳から29歳までが33%
▽30代が36%
▽40代が39%
▽50代が43%
▽60代が44%
▽70歳以上が48%と、
年齢が高くなるにつれて必要だと考える人の割合も高くなる傾向がありました。(NHK世論調査に関する上記記事より)

 今回の救いであり、かつ恐ろしく感じるもうひとつの数字が、この「法改正が必要か」の項目である。「必要」と答えたのは42%。結果、「行動の把握は必要だが、法改正はまだ検討が必要」という結論になっていると思う。
 私が恐ろしいと感じるのは、国家による「個人の行動の把握」を一番支持しているのが70歳以上だということ。太平洋戦争を経験したり、終戦直後を経験したりしている世代が、よしとしている。戦争体験を一番見聞きしてきた人たちが、国家による統制を一番知る世代が、国家が「個人の行動の把握」していいと思っている。

 うがった見方をすれば、感染して死ぬ確率が高い世代は、自分たちの命のためなら国家による統制は当然だといっている。まあ、そりゃそうか。衆議院・参議院ともに60歳以上が40%以上を占めているのだから。閣僚21人のうち11人が60歳以上だもん。
 自分たちを守るためなら、その他大勢の個人の自由など大した問題ではないのかもしれない。

 もし緊急時の携帯電話の位置情報による個人の行動の把握が法改正により可能となったなら、もう元には戻れないだろう。「緊急時」は広く解釈され、把握されることに慣れてしまい、あるいは強調されたメリットにおぼれ、国家による個人の行動の把握は日常化する。
 一度失ったものは、取り戻せない。戻ってくるのは、世界や日常がひっくり返るようなことが起こったとき。

  

 私はいつも最悪の事態を想定する。
 だから上に書いたことはすべて杞憂に過ぎないのかもしれない。
 私自身、杞憂に過ぎないことを望んでいる。

 

 


ネコ4匹のQOL向上に使用しますので、よろしくお願いしまーす