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返しきれない恩と幸せ

 家族に恵まれなかった分なのか、周囲の人たちに恵まれてきた。昨夜も安心できる人たちと一緒で幸せだった。このままずっと一緒にいられたらどんなにいいだろう。

 クラフトビールを飲み比べする会に行く予定だったが、大雪の予報に少しだけひるんでいた。行きはなんとかなっても、翌朝帰宅できるだろうか。(これまで飲みに行っては車中泊していたのだが、12月後半に入ってからはホテルに宿泊している)
 行こうか行くまいか迷っていると、友だちからメッセージが届いた。
「荒れたカメラマンが来たから丸く収めておきました。恩着せがましく報告まで」
 とある案件で、その友だちを取材した。そのとき店の内観と外観も撮影していると思ったのだが、取材後にカメラマンから届いた写真の中に一般的な写真はなかった。
 仕方なくクライアント(正確には違うが、納品先という意味)に再撮影を提案。最初は断られたが、先週急に方針転換。金曜に外観だけ再撮を行った。が、再撮に対し怒り狂ったカメラマンから30分ほど怒鳴り散らされた。そのことを店に戻って愚痴ったところ、どうやらおとといカメラマンも店に愚痴をこぼしに来たらしい。
 捨てゼリフまで吐いた自称プロカメラマンをどう丸め込んだのか。聞きに行かねば。氷漬けのデミオくんに乗り、クラフトビール会へと向かった。

 車を立体駐車場にとめ、ホテルにチェックインし、転ばないように気をつけながら、でも急ぎ足で会場へ向かう。クラフトビール会の主催者とバー店主である友だちは仲がよく、前回から友だちの店を会場としている。
 会の最初はビールのことだけ。ひとりロング缶を2本持ち、その場にいる人たちと分け合い、交換し合いながら飲み進めていく。大雪への不安から、4、5人が急遽不参加となり、私を含め参加者4人、あとは主催者と店主、計6人というこじんまりとした会となった。
 私以外の5人はお酒に強く、また詳しくて、話を聞きながら飲んでいるだけで楽しい。大声で自分の知識を披露する人が苦手なのだが、そんな人はおらず、穏やかで和やかな雰囲気。楽しくて、規定の時間をオーバーして会は終了した。
 その直後、店の常連客が到着し、いつも打ち上げに行くメンツだけとなったところで友だちが切り出した。
「アキさんをかばったわけじゃないですよ……」
 友だち自身がプロカメラマンであり、有能なフリーランス。以前、彼が言った「クライアントの満足は最低限、プロなら驚かせないといけない」はフリーランスとしての私の座右の銘となっている。その私が尊敬するプロカメラマンが自称プロカメラマンに言った言葉は私の考えと同じ。よかったと胸をなでおろした。
 しかし、「荒れたカメラマンが来たから丸く収めておきました」には程遠く、自称プロカメラマンのプライドは粉雪のようになったであろう。これに懲りて、プライドなんて持たずにいればいいのだが。

 いつもより少ない5人で打ち上げに行く。道々、友だちが新しい事業展開をうれしそうに語る。そこから話は広がり、経営に関することも話してくれた。意外にちゃんと経営者してる。
「そういうこと、もっと言えばいいのに」
「誰に?」
「誰というか、なんとなく言うの」
「あそこを遊びでやってると思ってる人たちに?」
「直接その人たちじゃなくてもいいから、でも知らしめようよ」
 私は彼が「遊びで店を営んでる」と思ったことがない。真剣に先を見据えて行動していることを知っている。そのためにきつい決断を下してきたこともわかっている。
 でもそれを私ではなく、もっと別な人たちに知らせた方がいい。けれど、自己に関する表現が下手で、降りかかる火の粉を気にせず、誰に何を言われようがどう思われようが気にしないと言う。
 私はそれを変えたい。友だちにも看板にもその方がメリットがあると思うから。そして彼の言葉に耳を貸さない、彼を否定的に見ている人たちも、彼が何を考え、どういうことをしているのかを知らせたい。そうすればその人たちも変わるかもしれないから。
 そのための方法をずっと考え続けている。ここを去るまでに形にしたい。着せられた恩だけでなく、彼にはたくさん助けてもらったし、迷惑もたくさんかけてきた。ありがとうとごめんを役に立つ形で返したい。

 焼肉を食べ、巨大ジョッキでお酒を飲み、全国のおいしいお店や他愛もない話をし、ただただ楽しい時間をすごす。
 大好きな友だちは言わずもがな、毎週のように一緒に飲む友だちの店の常連客、私のお惣菜をおいしいと食べてくれ、私の書くものを読んでくれている人、そしてこれまた大好きな心優しき友だちと、善き人たちに囲まれている。こんな人たちがどうして私みたいな境界線上の人間と仲よくしてくれるのかわからないけれど、笑わせてくれて、背中を押してくれて、頭をなぜてくれる。
 途中、どうしても言葉にして出してしまいたかった父の死を、いやな顔せずに聞いてくれた。親を捨て、1年も死んだことを知らなかった私のことを断罪することもない。
 挙句の果てに、お財布の中身が足りないと言うと、友だちが多めに出してくれて私はお財布が空にならずに済んだ。誰より飲んで、誰より食べて、誰より楽しんだのに。困っていると心優しき友だちが、
「みんなにまたお惣菜でお返しをすればいいんですよ。できるときにできることをすればいいんです」
と背中をなぜるような言葉をかけてくれた。

 雪が舞う極寒の帰り道、幸せでこのままずっと一緒に歩いていきたいと思った。どこまでも一緒に、いつまでも一緒にすごせたらどんなにいいだろう。安心できる居場所で安穏と暮らしたい。
 春、私はどこへ行くんだろう。どこにいることを選択するのか、今はまだわからない。この人たちの近くで安心して甘えているのか、それとも見知らぬ土地へ新しい居場所を見つけに行くのか。悩ましい。
 でも新しいところでも、私はきっと周囲の人たちに恵まれる。その確信だけはある。それがどこなのかは、まだ見えてないけれど。



ネコ4匹のQOL向上に使用しますので、よろしくお願いしまーす