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推し☆誕生

 推し、に出会った。推し、にごはんつくってもらった。推し、は前から知ってる人。なのに、今夜推しになった。

 推しがいると毎日が楽しいと、うちのシェアハウス住民が言う。まさか自分に推しができると思わなかった。ジャニーズも好きになったことないのに、17歳の韓国のアイドルに夢中になった。だから毎日、韓国語の勉強をしている。一日も休むことなく。のだそう。
 私が推しに決めた人(Twitterの有名人?)は、元々別な住民の推しだった。その人が推しの話をするとき、声のトーンが上がり、裏返る。目の瞳孔が広がって、頬が上気する。
 その推しが、今夜うちに遊びに来た。

 推しを見つめ、きゃっきゃ言い、恥ずかしげに両手で顔を隠したかと思えば、笑う。表情の濃さ、感情の濃さが、私たちといるときとは違う。
 でも、日常。特別な日ではなく、なんてことない日々の中の特別な時間。推しと(同じ屋根の下であれ、モニター越しであれ)すごす時間が、それ以外の時間を照らしている。
 会える。と思うだけで、高揚する。
 アイドルが出ている番組の開始前、直接会うわけでもないのにリップを塗る。推しを迎えに行くとき、お気に入りの服を選ぶ。

 話を深掘りする前、私も推しはいると思っていた。友だちである、大好きなカメラマン。写真を撮ったと聞けば「見たい!」となり、写真展を開きたいと思い、どうにかしてもっとカメラマンとして売り出せないかと頭をひねる。
 そういうことを考えてるとき、わくわくするけれど、頬を赤らめることはない。照れて顔を隠すことも、一挙手一投足にきゃっきゃ言うこともなく、ぶーぶー文句も言い、対面するときにお化粧したりお洒落したりすることはない。

 そんなことを思いつつ、住民たちとあーだこーだ話していたら、遊びに来た推しがごはんをつくってくれた。誰も手伝わずに話してることに対し文句を言わない。できたものをすっと運んできて、話の邪魔にならないようにテーブルに置く。
「手伝わなくてごめん。ありがとう」と言うと「料理好きだから気にしないで」と返す。つくってもらったからと洗い物を引き受けると、「洗い物してくれてありがとう」とさらり。

 あ、この人はこんな人だったのか!
 その瞬間、胸がときめいた。この人をもっと知りたい。もっと言葉が聞きたい。この先の活動を見続けたい。
 両手を胸の前で組み、いつもより少しうわずった声で伝えた。
「私の推しを見つけました」



ネコ4匹のQOL向上に使用しますので、よろしくお願いしまーす