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米澤穂信「氷菓」読書感想文

2冊目の米澤穂信。
本と鍵の季節 」はよかった。

表紙で選んだだけだったのに、はじめて青春小説というジャンルが、おもしろいと感じた。

それまで試しに読んでみた青春小説は、どういうわけなのか “ 霊体 ” とか “ 異世界 ” が登場するものばかり。

あまり文句をいってはいけないが、正直、大人が読むジャンルじゃあないなぁと思っていたら、米澤穂信はちがう。
しっかりおもしろい。

この「氷菓」がデビュー作とあったから、次はこれを読もうとマークしていた。


爽やかで軽快で新鮮

この「氷菓」もおもしろかった。

主人公は高校生。
普通の高校生活。
日常のなんでもない小さな出来事が、ミステリータッチとなって解決されていく。

あとは、米澤穂信のどこがおもしろいと感じるのだろう?

まずはなんといっても “ 霊体 ” とか “ 異世界 ” が、きっぱりと出てこないのがいい。
そっち方面の小説は、なんかしっくりこない。

あとは、会話か。
軽快でいて、ベタな若者言葉が出てこないのがいい。
「マジ、ウケル~」とか。

そんなのがあると、そして発刊から2年か3年も経っていたなら、どうも陳腐に感じてしまう。

さらに10年も経っていようものなら、諸行無常の境地になるか、サブイボが立つか。

とにかくも。
また3冊目の米澤穂信にいきたい。

※ 筆者註 ・・・ 読書録の日付を見ると、初夏になってます。おそらく青春小説というのは、初夏に読むのがしっくりくるようです。やっぱ読書には季節って大事だな、と思う今日このごろです。

文庫|2001年発刊|224ページ|KADOKAWA

ネタバレ登場人物

折木奉太郎

神山高校に入学した15歳。
活発ではなく、人付き合いもいいほうではない。
姉のいいなりに、廃部寸前の古典部に入る。

自称、省エネ主義。
喫茶店のキリマンジャロを好む味な少年。

福部里志

折木奉太郎(以下、折木)の以前からの友人。
軽快で、多くの冗談を放ち、オーバーリアクション。
いわゆる、無駄な知識が多い男。

なりゆきで古典部に入る。

千反田える

神山高校に入学した1年生。
一見、清楚そうには見えるが、活発な性格。

好奇心が炸裂すると止まらない。
成績は、常に上位者である。

古典部には進んで入部して部長となる。

実は、入部したのは、同じく神山高校古典部だった伯父への疑問があったからだった。

関谷純

千反田の伯父。
幼少の千反田は、よく懐いていた。

33年前に神谷高校を中退。
10年前にマレーシアに渡航。
7年前からインドで行方不明となっている。

今年で7年目になることから、関谷家では失踪宣告を申請して、葬儀が営まれることになっている。

伊原麻耶花

神山高校に入学した1年生。
福部里志には好意を寄せている。
気が強くて、幼馴染の折木には悪態をつく。

漫画研究会の部員でありながら、古典部にも籍をおく。
古典部は4名となる。

糸魚川養子

神山高校司書。
32年前には、同校の古典部で部長をしていた。
古典部の文集「氷菓 2号」の序文を書く。

ネタバレあらすじ - 折木奉太郎の手記風

伝統ある古典部の活動は続く

古典部は部員がゼロとなって、廃部寸前だった。
が、今年は、俺を含めて4名が入部した。

部活動は、校舎の端の地学講義室で行われる。
放課後に集まり、古典を読む。
なんてことはない活動だった。

古典部は、10月の文化祭には文集を出す。
30年以上の伝統がある文集だったし、神山高校の文化祭は、通称 “ カンヤ祭 ” と呼ばれていて毎年盛況なのだ。

しかし、参考としたいバックナンバーがない。
図書館にも書架にもないという。

失踪した伯父にはなにがあったのか?

そうした、ある日曜日。
千反田が、学校以外で会いたいという。

告白か・・・と思ったが、そんなことではなかった。
頼まれごとをされたのだ。
千反田が内緒で打ち明けたのは、こうだった。

彼女には伯父がいる。
30年ほど前になるが、神谷高校の古典部の部長もしていた。
が、高校を中退している。

子供の千反田には、優しくしてくれた伯父だった。
知らないことは何でも答えてくれた。

あるとき、古典部の文集について尋ねたところ、いきなり様子が変わった伯父は何かを答えた。

それを聞いた千反田は、泣いたという。

そのとき伯父は、なにを答えたのだろう?
いったい伯父は、なんで様子を変えたのだろう?
高校のころの伯父には、何があったのだろう?

それらが気になっているのは、その伯父は、7年前から行方不明となっているから。

今年には、死亡宣告の申請をして葬儀が行われる。
葬儀の前に伯父のそのことを知って、思い出に一区切りをつけたい。

千反田が部長になったのは、それらが理由だった。

最初は断った。
が、頼みこまれて、出来るかぎりはするということで引き受けてしまった。

古典部の文集の題名は「氷菓」だった

文化祭まで、あと2ヶ月半となった。
探していた、古典部の文集のバックナンバーも見つけた。

で、見つけた文集の題名は「氷菓」とある。

変な題名ではないか?
古典部の文集の題名が、なぜに「氷菓」なのか?

皆は同意するが、千反田は1人だけ興奮を隠さない。
「氷菓 2号」の表紙の絵に覚えがあるという。
幼少のころに見たのは、この「氷菓 2号」だったのだ。

「氷菓 2号」は、1968年発行。
32年前に作成されている。

その文集の “ 序文 ” には、千反田の伯父、・・・高校生で古典部部長だった関谷純のことが書かれていた。

関谷先輩が学校を去って1年になる。
この1年で、先輩は英雄から伝説になった、という内容だ。

ということは。
その1年前の創刊号には、関谷についてなにかが載っている。
が、創刊号がない。

ここにきて、千反田の頼みごとは、皆に明かされた。

古典部の近々の課題は、関谷純についてになった。
全員それぞれが、33年前の資料を探すことにも決まった。

学生側の抗議運動があったという推測

1週間が経つ。
夏休みになった。

その日、千反田の家で古典部の4名が集まった。
検討会が開かれたのだ。

それぞれが集めた33年前の資料を示して、それを基にした考察を発表するのだ。

当時の漫画研究会の文集。
当時の壁新聞。
神山高校史。
それらが資料として収集されていた。

それらの資料の文章には、斗争、権力主義者、反動勢力、弾圧、実行という語句が使われている。

1960年代の時代背景からすると、どうやら学校側と生徒側で文化祭について対立があったようだ。

それらをまとめて、俺は推測を話した。
当時、学力向上を掲げる学校側が、文化祭を縮小する方針を示した。

それに対して学生側は、なんらかの抗議運動をおこした。
方法がなんだったのかまでは断定はできない。

非暴力による抗議だったとは思われる。
その抗議運動を指導したのが、古典部部長の関谷純らしい。

抗議運動のため、学校側は文化祭縮小を断念。
が、その責任を負って、関谷純は退学処分となった。
だから「氷菓 2号」では “ 英雄 ” とされている。

・・・ 謎は突き止められ、散会する。
帰宅する皆を見送った千反田だった。
が、はっとした表情になる。

「でも・・・。だったらわたしは、どうして泣いたのでしょうか?」

独りつぶやいたのだった。

なぜ泣いたのかという疑問は残っていた

俺も引っかかっていた。

なぜ、幼少の千反田は泣いたのか?
検討会の結論は、ちょっと違うのではないか?

翌日。
俺は学校にいき、いくつかの確認をとる。
すぐに電話をかけて、古典部を学校に招集した。

不完全だった。
検討会の結論には、補足が必要だ。

あの「氷菓 2号」の “ 序文 ” を書いたのは、33年前の司書の糸魚川先生だった。
さっき確認とった。

当時、この学校の生徒だった糸魚川先生は、関谷純が退学したあとに、古典部の部長をしたのだ。

旧姓だったので気がつかなかった。
見当をつけたのは、下の名前と年齢からだったがドンピシャリだった。

このあと、先生から話を聞くアポもとってある。
俺は、集まった全員にいった。

「そろそろ時間だ。いこうか。図書室に」
「張り切ってるのね」

まあな・・・。

文化祭の通称の本当の意味がわかった

糸魚川先生は、すべて質問に答えてくれた。
古典部の検討会の結果は、ほぼ正解だった。

当時の校長が発端だった。
人材育成の教育方針を掲げて、5日の文化祭を2日に短縮すると決定したのだった。

若者のエネルギーがうねっていた時代だ。
ただちに反対運動が起こった。

関谷純がリーダーに選出されたのは、貧乏くじを引かされた形だった。

皆、口では威勢がいい、
だけど、後の処罰を恐れて、リーダーの立候補がなかったのだった。

反対運動の生徒たちは授業をボイコット。
校庭でキャンプファイヤーをする。
それが原因かは不明だが、格技室が火事となったのだった。

学校側は、文化祭の縮小は撤回した。
が、関谷は、文化祭が終わったあとに退学処分となった。

神山高校文化祭は、神山だからカンヤ祭ではなかった。
関谷からのカンヤ祭と呼ばれるようになったのか、と俺は気がついた。

文集の題名が「氷菓」の意味は?

それと、もうひとつ。

なぜ、古典部の文集の題名が「氷菓」なのか?

千反田は、それを先生に尋ねた。
が、先生も意味はわからないという。

ただ、関谷の強い希望だったとのことだ。
関谷という人は、普段は主張はあまりしないしなかったが、「氷菓」という題名だけは譲らなかったと言う。

もう俺は気づいた。
が、誰もわからないという。
もしかして、先生はわかっていたのかもしれない。

俺は苛立った。
関谷は、古典部の遠い後輩に、自分の思いを伝えようとしているのに、伝えられてる側が受け取れてない。

ただの駄洒落、言葉遊びだ。
仕方がなくヒントを出すと、次々に皆はわかったが、千反田だけは首をひねっている。

「叫ぶ」「大声で怒鳴る」という意味

千反田には、それをメモして渡した。
口に出しては言えなかった。

メモは開かれた。
千反田は無言のままそれを見つめている。

小さくつぶやいて、目には潤みがさした。
千反田からの頼みごとは果たされた、と俺は悟った。

「・・・思い出しました」
「・・・」
「わたしは伯父に “ ひょうか ” とは何のことかと聞いたんです。そしたら伯父はわたしに、そうです、強くなれと言ったんです」
「・・・」
「もし、わたしが弱かったら、悲鳴もあげられなくなる日が来るって。そうなったら、わたしは生きたまま・・・」
「・・・」

千反田の目が向いた。

「思い出しました。わたしは、生きたまま死ぬのが怖くて泣いたんです」

千反田は微笑みを浮かべた。
そして目の端を、手の甲でぬぐった。

メモには “ I scream ” と書いたのだった。



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