マーケティング幸福論

ついにコメにまで及んだ偽装。2008年9月に発覚した三笠フーズの汚染米転売である。

コメは「日本の牙城」とか「国際分業」といった経済論とは次元の違う、日本人の心象風景とさえいえる特別な食料である。飲料における牛乳に似ている。

銀シャリという俗語まである。戦中戦後における銀シャリは、盆正月や病気の時にしか食べられなかった貴重品と聞く。

こうなると、単なる食料ではなく、愛惜や敬慕の対象であったともいえよう。

つい140年前まではコメが給料だったし、石高が大名家の大きさを表していた。コメを給料にしていた国は日本以外にない。


そのコメが日本人の足で踏みにじられた。余波はコメのみならず、焼酎、米菓、日本酒など日本特有の加工品にまで及んでいる。

偽装を(98回もの調査で)見抜けなかった農水省も農水省である。10年で98回ということは、ほぼ月に一度の頻度で調査していたことになる。

それでも見抜けなかったということは、賄賂があったと疑われても仕方ない。賄賂で語弊があるならば、癒着と言い換えよう。

はて、彼らには何が欠けていたのか?


自分のビジネスを通じて「お客さんに幸せになってほしい」という高邁な精神であり、商売の美徳であり、ごく当たり前の倫理感が欠けていたのではないか。

モラルなどといった平凡な言葉では済まされない、拡大解釈すれば無差別殺傷未遂事件なのである。死傷者が出ていないのは不幸中の幸いに過ぎない。

おそらく、我利さえ潤えば、客が死んでも知ったこっちゃないという悪魔の心で経営していたのだろう。許されることではない。


10円で仕入れた事実を隠して100円で売る商売は、もともと、だまし・だまされやすい性格を帯びている。だからこそ「お客さんに幸せになってほしい」との心根が、大樹のごとく、社内全体に広く深く根を広げていなければならない。

その、正しい心あってのマーケティングといえる。いや、正しい心を培うための考え方がマーケティングといっていい。

発覚した食品偽装一覧

では、自分さえ儲かれば、客がどうなろうと知ったこっちゃないと考えている会社がどれほど多いか振り返ってみよう。

ウナギ、国産と偽り卸す…銀座・浜伸

中国産タケノコ水煮と国産と偽装…丸中食品

かば焼き産地偽装…サンライズフーズ

台湾産マンゴーを宮古島産と偽装…美ら島フーズ

有機栽培以外の原液を使用した有機栽培ノニジュース…ピュアブライト

中国産乾燥シイタケ、ヒジキを国産と偽装…エポック・ヴァーグナー

リンゴ飲料偽装…青森県果工

輸入アサリを豊前・有明産アサリと偽装…旭水産

フィリピン産の海ブドウを沖縄産と偽装…にらい物産

期限切れ牛丼冷凍パック、期限改ざん…セトフーズ、マックスプロダク

中国ウナギを四万十川産と偽装…サンシロフーズ

りんご濃縮果汁の原材料偽装問題…和光堂

アンコウ、シロサバ、フグを国産に偽装…エツヒロ

牛肉産地ほか偽装…船場吉兆

コンタクト消毒液の使用期限書き換え…ヤマト樹脂光学

比内鶏ではないニワトリを比内鶏と偽装…比内鶏

牛肉偽装…フジチク

オランダ産アジ干物を銚子産と偽装…盛岡水産

スーパーで購入のコメを有機米と偽装して販売…三印狭間商店

飛騨牛の表示偽装…丸明

抗菌剤検出のウナギ…魚秀

アユの産地を偽装…エンゼル産業

ブラジル産の給食用鶏肉「国産」と偽装…山形屋

食べ残し肉を使い回し…しゃぶ菜大高店

露から輸入のカニを日本の原産と偽装…住金物産友田セーリング

乾燥ワカメ「鳴門産」偽装…鳴門海藻食品、花面商店、吉田敏治商店

返品そうめんを賞味期限を付け直して再出荷…森井食品

売れ残った刺し身を盛り合わせ翌日販売…魚きん

中国産キャビアをロシア産と偽装…そごう、西武百貨店

脂注入の馬肉を「霜降り」と表示して販売…昨年度は最多56件

台湾・中国産ウナギを国産ウナギ偽装…東海澱粉

但馬牛や松阪牛と偽って通販…アイマックコーポレーション

アブラボウズを高級魚クエと偽って販売…矢崎

消費期限偽装問題…ジェイアール東海パッセンジャーズ

ブラジル産鶏肉を国産と偽装…ふじや精肉店

給食ベーコンにJASシールをつけて納入…精肉石川屋

サラダの調理日時シール張り替え販売…マクドナルド

売れ残りの干しイモ、賞味期限書き換え再出荷…マルヒ

緑茶に調味料を加えた商品を表示せず販売…宇治森徳

台湾産ウナギを国産と偽り販売…山政、マルニうなぎ加工

売れ残りを賞味期限付け替え販売…平治煎餅本店

学校給食牛肉偽装…藤村精肉店

製造日の偽装、消費期限切れ商品の再販売…赤福餅

中国製を「三輪そうめん」と偽装…食品販売会社社長

茨城産と表示したシジミに韓国産など混入…大都魚類ほか偽装5社

アイスに大腸菌群…石屋製菓

賞味期限改ざん…白い恋人

牛肉に豚肉混入…ミートホープ

“コシヒカリ”産地偽装…日本ライス

期限切れ牛乳使いシュークリーム2千個出荷…不二家

マーケティングは必要ないか

「今年だけで、こんなにあったのか!」と驚いた方もいたかも知れない。

「ああ、そういえば、そんな事件があったな」という会社名もあったろう。
なかでも、ミートホープ、船場吉兆、中国冷凍餃子は悪意に満ちている。

滑稽なのは(株)比内鶏である。
「比内鶏ブームの今がチャンスだ!売って売って売りまくれえ!」
と、比内鶏ではない鶏を比内鶏として売った数年後、その判断が災いして倒産。

メディアで報じられるこれら企業は氷山の一角に過ぎない。まだまだ不届きな巨魁は水面下に沈んでいる。

このような企業にとってマーケティングは「ちゃんちゃらおかしい」与太話に過ぎない。そんなものを用いなくても儲けられるからである。

それは正しいか?


賞味や消費の期限延期ならば(当局のガイドラインが厳しすぎるきらいがあるため)まだ許せるとしても、毒の混入は許されない。

産地の偽装も同罪である。中国産が嫌われるのは、日本では使われない農薬が使用されていたり、残留していたりするからである。それを国産と偽って販売するのは殺人幇助といっていい。

毒を混ぜた事実を隠し、そ知らぬ顔して販売し、それで正しい商売といえるのだろうか?
それで儲けても「カネはカネや。カネに素性はあらへん」と言い切れるのか?

マーケティング戦略以前のマーケティングの基本は、商品を通してお客さんに幸せになってほしいというマーケティング幸福論ではないか?

あなたは、どう思うだろう?

マーケティングは人を幸せにする方法

憫笑すべきは、ほとんどの発覚が社内からのリークであること。元・従業員のリークもある。

自分さえ儲かれば構わないと考えている経営者は、私服を肥やすのがうまいに違いない。
反面、他人には吝嗇で、従業員すら薄給で酷使していたと想像する。

せめて高禄を支給していれば、
「こんなに給料の高い会社はない。潰れてほしくない」
との保身が作用し、身内からのリークは少なかったかもしれない。

ところが、逆に「こんな会社、潰れちまえばいいんだ」と身内に思われたからこそリークされたのではなかろうか?前号でも述べたが、吝嗇な人は嫌われる。富は分配されなければならない。


マーケティング幸福論は、経営者が富貴を貪(むさぼ)ることではない。従業員も取引先も顧客も、あなたの商品に関わる全ての人々が、あなたのビジネスを通して、大なり小なり、幸せになることである。

理論論かも知れないが、理想なくして方向性は生まれない。理想かもしれないが、理想はあったほうが良い。

少なくとも、理想を持たず、人をだましても儲けようとし、よしんば儲けたとしても、身内からリークされ、全国ネットのメディアで報道され、非難を受け、会社がボロボロになるよりは。

偽装が氷山の一角である以上、食の安全を考えるより先に、マーケティングによって人を幸福にする「マーケティング幸福論」が、日本全国の企業にもっと広まっても良いかもしれない。


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