サービス・マーケティング

究極のサービス・マーケティング

選挙をテーマにしよう。
ご存知の通り、選挙で選ばれた議員が議会で話し合い、ルールを作り、ルールのもとに政治が執り行われる。

では、政治とは何か?

国政のみならず、県政にも市政にも町政にも村政にも、政治には、形も味も色も臭いも無い。
触れられないし、聞けないし、見ることもできない。無形である。

有形の財である製品に対し、無形財をサービスと呼ぶならば、政治はサービスであり、国政は究極のサービスである。

企業が提供するサービスは、企業の意思や顧客の要望で変えられるが、政治は選挙で変えるしか方法がない。


とはいえ一時代前までの選挙は(一部の政党では今でも)、組織や票田という強力なチャネルに支えられていて、支持政党のない無党派の出る幕が無かった。

そうした、不特定多数の民意が吸い上げられにくい環境では、マーケットインマーケティングが機能しない。

しかし、やっと、支持政党をもたない圧倒的多数の無党派票で選挙結果が動くようになってきた。
組織から製品(議員)が送り出されるプロダクトアウト型ではなく、購う側の要望に沿った製品が市場導入されるマーケットイン型である。

サービス・マーケティングとは?

サービス・マーケティングとは、無形財を対象としたマーケティングである。

従来からのマーケティングは、自動車や家電等の有形財を対象に発展してきたが、70年代に入ると、サービスに特化したマーケティングが求められるようになった。具体的には、

運輸、旅行、金融、保険、証券、病院、通信、教育、士業、警備、飲食、理髪

などである。

たとえば、宅配便という商品は、トラックで荷物を運ぶ運輸のマーケティング(新商品化)から1976年に生まれた。


1日目の取り扱い数は、わずか2個だったという。それが30年後の今では、国家事業であった郵便局を脅かすほどの一大産業に成長した。

今あなたが使っているインターネットは人類最新の無形財商品だし、風俗業は人類最古の無形財商品である。

こうした、無形財の新商品開発から市場導入に至るまでのマーケティングを、サービス・マーケティングという。無形財マーケティングともいう。

では、有形財と無形財のマーケティングの違いは何だろうか?

サービス・マーケティングの特徴

神・コトラー教授によると、サービス・マーケティングには4つの特徴がある。

1.無形性/非有形性

色も形も匂いもなく、目に見えないため、購入前に実感できない。

ただし、サービスを具現化するための設備や備品によっては、目に見えるものや、形のあるものがあるため、無形と有形の比率は業種によって異なる。

わかりやすくパチンコを例にとれば、パチンコは有形財ではなく、遊戯という無形財である。さらに突きつめれば、景品であり、現金である。

遊戯は無形であるが、景品や現金は有形物だし、パチンコ台も有形物なので、目に見えるし、パチンコ玉にも触れられる。

というか、パチンコ台がなければ、サービスを実現できない。ホールも必要。そういう点では、無形サービスながらも、かなり有形の比重が大きい。

その逆に、弁護士などの士業は、無形の比重が大きい。


その中間にあるのが医師である。能力も重要だが、外科医は、メスがなければ話にならない。

士業にしても、医師にしても、試してみるまでは、質の高いサービスかどうか、実感できない特徴をもっている。

2.同時性/不可分性

有形財は、製販在(作って在庫して売る)ルートを辿って、私たちの許へ届く。

あなたが自宅で緑茶を飲むとき、そこには茶農家も加工業者も卸も小売業者もいない。

一方の無形財は、船旅のように、製販在が同時に行われる。船旅という商品を製・販・在に分けることは出来ない。

販売のみ分離できるように思えるが、あくまで代理店販売であり、最終的には販売者(船会社)が船を運行してサービスを提供する。

サービスは、製販在が同時に行われ、可分できない特徴を持っている。

3.異質性/変動性

では、船旅という無形財は常に一定の品質を保てるかというと、そうではない。

時化(しけ)る日もあれば凪ぎの日もある。晴れの日もあれば雨の日もある。

タクシーにしても、運転手さん次第で、乗り心地が異なるし、同じ運転手さんでも、日によってコンディションが異なるため、まったく変動することのない均一の運輸サービスを提供するのは不可能。

サービスの質は常に変動する。これが変動性(あるいは異質性)である。

4.消滅性/非貯蔵性

製販在とリンクすることではあるが、サービスは貯蔵できない。

弁護士の弁護も、病院の診断も、学習塾の授業も、競馬のダービーも、結婚式も在庫できない。

料理は、食材の貯蔵が可能だが、出来あがった天ぷらを出来立てのままで貯蔵するなど不可能。

以上4つの特徴がサービス業にはあるとコトラー教授は説いている。

サービスの基本は人

これ以上、コトラー教授の受け売りを書いていても全く面白くないので
以下はチャッチャと流してしまうが、サービス・マーケティングには、

1.エクスターナル・マーケティング…顧客へ向けたマーケティング

2.インターナル・マーケティング…従業員へ向けたマーケティング

3.インタラクティブ・マーケティング…顧客と顧客のマーケティング

があり、サービスが提供される瞬間には、顧客と従業員が同じ場所にいる。

たとえば、大相撲は日本相撲協会が運営しているが、取り組みの場面には必ず力士と観客がいる。

サービスマーケティングの可視化

サービス・マーケティングの例として拙著「あなたが会社の利益を殺す犯人だ」に、歯科医の例を書いた。

歯科院が新規の患者を獲得するには、サービスの可視化と具体化が必要であり、それは、
         1 瀟洒な建物であったり、

         2 入りやすい玄関であったり、

         3 おしゃれなスリッパであったり、

         4 受付の優しげな歯科衛生士だったり、

         5 痛くないかどうか気づかう心くばり

だったりする。どれもこれも、一見、歯科医の治療とは全く無関係に思えるが、
歯科医の技術が、治療を受けてみないことには実感できないとするならば、

「私は腕の良い歯科医です」

と、ナンボ声高に叫んでも無意味。


人は、まるで幽霊のように、目に見えるもの信じやすいし、目に見えないものは信じにくい。見えないものは、見えるようにしなければならない。

もし仮に、期待値に達しなかった時は、看板に偽りあり…の汚名を着せられてしまい、逆に危険。

「ボクできます!ボクできます!」と騒がしい奴に「それじゃあ」とやらせてみたら、全然ダメで、必要以上の失望を招くようなものである。

それならば、歯科医の付加価値である上記のサービス・マーケティングを取り入れるか、紹介に頼る(インタラクティブ・マーケティング)しかない。


※注意※

このブログを読んでいるほどであれば、重々お分りになっていると思うが、サービス・マーケティングとは「おしゃれなスリッパを揃える」ような小手先の小技ではない。

  どの場所に、どういう理由で、どんな医院を構えるか?

  どれくらいの売上を目指して、どれくらいのキャパシティにするか?

  そのための体制づくりにかかる予算は?予算の財源は?

  誰をターゲットにするか?子供か?親か?ビジネスマンか?

  ターゲットを受け入れやすくするには、どのような院内設備にするか?

  競合調査は? 自分の他に選ばれるかも知れない候補がいるかどうか?

  競合対策は?

といった戦略から始まるし、それは大掛かりなものになるはず。コピー一つで何とかなるものではない。


たとえば私が行政書士で、会社設立申請を主に扱うのであれば、千代田区九段界隈に、はたまた、風俗営業申請をメインにするなら、新宿区歌舞伎町界隈に事務所を設ける。

クライアントに遭遇しやすい立地の便もさることながら、メインの業務に付随する周辺のコネクションを得やすく、そこからの紹介を期待できるからである。

サービスの商品を絞る意味は、他の商品を切り捨てることではなく、特化して、特化したメインの商品で稼ぎやすい環境を整えるためである。

たとえば私が歯科医で、歯を白くする審美歯科をメインに扱うなら、大手美容整形外科と駅の通り道を狙う。小児歯科なら、文教地区に医院を開設する。

もちろん、一般歯科も併設し、ごく普通に虫歯の治療も行う。

歯科医の領域をセグメントしつつ、受け皿は広く確保しておく。これが、得意の商品に特化するということである。

有形と無形の相互付加価値

付加価値づくりの方法の一つに「有形を無形にする方向」「無形を有形にする方向」がある。

サービス・マーケティングは、無形なだけに、可視化・具現化して、サービス内容を分りやすくしなければならない。

それには適正なプロダクト(サービス)・プライス(価格)・プレイス(場所)プロモーションが必要不可欠である。

もちろん、マーケティング・メッセージも欠かせない。MI・BI・VIもである。

そういう意味では、有形財のマーケティングも、無形財のマーケティングも、行き着くところは、

顧客が、プラスマイナス0と評価する価値を上回る、プラスαの価値を提供する付加価値マーケティングである。

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