ちょい足しの時代
(本稿は、ビジネス誌に掲載された記事の一部です)
筆者:ある企業間取引のトップセールスマンは、小売店のみならず、初めて会う方々へ、名刺の他に、一枚の紙を渡している。
A4判の紙には個人のプロフィールが載っており、初会の数分間のみでは伝えきれないプライベートな一面と、名刺のみでは伝えきれない数十倍もの情報量まで提供している。
手渡す所要時間は、わずか1秒。それによりトップセールスマンへ対する警戒心が薄れ、次回も会いやすくなる仕組み。
記者:なるほど、こういう方法があるんですね。
最初に渡してもいいし、帰り際に渡してもいい。
自己紹介号を私は後でお送りしますが、その場で渡しちゃってもいいかもしれませんね。
筆者:人は(紹介や会合を除き)、初めて会う相手を知らないがゆえ、信用できず、不安で、恐怖すら覚えている。
これを(恐怖・不安・疑念の英単語の頭文字をつなげて)ファッドといい、ファッドを払拭する提案によって、少しでも安心できるようになる。
記者:本当にそうですね。初めて会って、いきなり買うわけないのに、すぐに売り込みを始める人が多いように思います。
筆者:また、人は、相手の情報量が少なければ少ないほど、防衛本能が働き、冷たく、攻撃的で、排他的に接する。
大袈裟にいえば、喧嘩腰で身構える。
その衝突を和らげ、延いては無くし、良好な関係へ発展させるべく、自らの情報を大量に提供する営業活動は効果的。「営業マンは自分を売れ」と比喩される通り。
記者:「自己開示」の重要性ですね。
筆者:「営業マンは自分を売れ」といっても、見知らぬ営業マンの自己紹介のために時間を割くほど、企業人は暇を持て余していないため、名刺に似た情報価値を持つプロフィールシート一枚で、大量の情報を提供することにより、安心してもらうと同時に、早期に良好な関係を築くことができる。
記者:この「早期に良好な関係を築く」ことがポイントだと思います。じゃないと2回目に会ってもらえませんもの。私は初商談の際に、「この男は信用できそうだ」と感じていただくことに、最重点を置いています。それほど、できていませんけど。
筆者:速い、安い、簡単、便利、上手、得する等の機能的な便益にしても、楽しい、嬉しい、気持ちいい、偉い、好き、ときめき等の情緒的な便益にしても、ベネフィットを突き詰めていくと、軽妙なチョイ足し以上の付加価値が必要。
記者:チョイ足し、つまりちょっとした違いが、大きな差を生むわけですね。
筆者:しかし、今すぐ!一円もかけず!誰にでもチョイ足しできる!効果絶大なベネフィットが一つある。
それは、顧客を大切にすること。お客様は神様ではなく、やさしく包みこんで守るべき弱者であることに気づき、弱き(顧客)を助け、強き(業界)をくじくこと。
記者:顧客を決して「売り上げ」として見ず、信頼していただけるパートナーでいられるよう努力します。
筆者:顧客は、お金という財産を不当に奪われないか怯えている。だから、安心させてあげよう。
大切に守ってあげよう。人は、大切にされると満足する。
あなたの心くばりこそ、今すぐ一円もかけずにチョイ足しできる至高の付加価値である。
記者:大げさなことはしなくていいんですね。どっちみちできませんし。少しでいいから取り組んでいこう、と考えると気持ちが楽になります。
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