【書評】スラヴォイ・ジジェク「大義を忘れるな」
著者は日本についてつぎのように述べる
「一七世紀初頭、幕府が確立したあとの日本は、外国文化から自己を隔離し、バランスのとれた再生産を旨とする自己充足的生活を追求するというユニークな集団的決断をした。そのため日本は、文化的洗練に専心し、野蛮な拡張策には向かわなかった。一九世紀半ばまで続く以後の期間は、本当に、日本がペリー提督率いるアメリカ艦隊によって無理矢理目覚めさせられた分離主義的な夢にすぎなかったのか。われわれは無限に拡張主義でやっていけるということこそ夢だとしたら、どうだろうか。われわれは日本の決断を適切な形で反復する必要があるとしたら、そして、擬似的な発展に介入する、発展の方向を変える集団的決断を下す必要があるとしたら、どうだろうか」
悲観的なことは、そうした集団的決断という考えそのものが今日では信用を失っていることだと著者は言う。つまり大義は失われたのだと。集団的主体として人類には、没個性的で匿名的な社会―歴史的発展を制限する力、その発展を望ましい方向に代える力が「イデオロギー的」あるいは「全体主義的」なものとして切り捨てられる。”今日のグローバル資本主義は誰にもコントロールできない「運命」であり、人はこれに適応するか、つぶされるか。大義が問われている。
「われわれは、すべてが暫定的なものとなる時代に投げ込まれている。新しい技術は、日々われらの生活を変える。過去の伝統はもはや回復できない。と同時に、未来がなにをもたらすか、われわれは、ほとんど分かっていない。われわれは、自分たちが自由であるかのように生きることを強いられている」 袋小路だろうか? いや。好機到来だ。
大義を忘れるな -革命・テロ・反資本主義- 単行本 ? 2010/2/25
スラヴォイ・ジジェク (著), 中山徹 (翻訳), 鈴木英明 (翻訳)
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