今さらサカナクションにハマった理由


サカナクション山口一郎「20代は、影響受けるものを自分で決めない方がいい」 - Youtube

 最近、サカナクションってバンドの良さに気づいて、その楽曲をあさるように聴いている。そのサカナクションで、作詞・作曲をしているのが山口一郎という人で、この人の話はわかりやすいし、一貫としているし、引きこまれるので、曲だけじゃなくて、いろんなインタビューの動画を見たりしているんだけど、そのひとつで「20代は、影響受けるものを自分で決めない方がいい」と言っている内容があった。
 その通りだな、と僕が思うのは、サカナクションにハマった理由が、自分で選んだものじゃなかったからだ。
 最近になって、僕もYoutubeのプレミアム会員になって、YT Musicというアプリで音楽を聴いている。これもサブスクリプションといっていいのかな。いろんなミュージシャンの曲を選んで聴くことができる。サザンとかスピッツとか。
 なにしろ僕はJ・POPというか邦楽をあまり聴いてこなかった。この理由はライブやフェスに行ったりしなかったわけで、とどのつまり、音楽にあまりお金をかけていなかったわけだ。
 いっぽうの洋楽っていうのは、すでに世界的評価が定まってるし、聴いてて失望することもない。なので、有名な洋楽ばかり聴いてたわけ。ピンク・フロイドとかザ・フーとか。
 で、最近の流行音楽というのにも興味なくて、もうここ十年ぐらい新しいミュージシャンにハマるということがなかったオッサンなわけですよ僕。
 そんな僕なので、ふとスピッツが聴きたくなって、YT Music、つまりYoutubeのプレミアム会員になれば音楽聴き放題なアプリで、スピッツで自分の好きな曲をまとめてベスト集にして聴いてた。「日なたの窓に憧れて」とか「名前をつけてやる」とか、いいですよね。
 で、このアプリ、自分の作った再生リストが終わると、それに類似したミュージシャンの曲を勝手にかけてくるわけですよ。これまでは、それで意識が戻って、また再生リストの最初からかけたりしたわけ。
 話が長くなったんだけど、で、僕のスピッツベストの再生リストが終わってから、勝手に流れた曲がサカナクションの「ミュージック」だったわけですよ。
 それまでサカナクションで聴いたことのある曲っていえば「新宝島」や「アイデンティティ」や「バッハ」だったりで。しかも、まともに聴いたことがなくて。ちゃんと聴いてたら、もっと早くハマってたはずなんですけどね。
 で、サカナクションの「ミュージック」が流れたとき、僕はスピッツを聴きたかったのですぐに変えようと思ったんだけど、すごく聴き心地が良いじゃないですかあの曲。すっかり聞き惚れてしまって、この「ミュージック」では最後にドカンと大サビがくる展開で。あれを聴いて、僕はフっトんでしまったわけですよ。で、そこから、サカナクションの曲をあさり始めて今にいたるわけで。もう、ホント、今さらかよ、と笑ってる人が多いと思う。今さらだよ!



 サカナクションをあまり知らない人は、最初にこの「ミュージック」を作業用BGMみたいな感じで聴けば良いと思います。pvでも山口一郎がヘッドフォンでこの曲を聴いて良い気持ちになる、という演出がされているので、まずは聴いてください。繰り返しますが、サカナクションで曲を作って歌ってる人が山口一郎。この人は曲のコンセプトについてのこだわりがすごくて、バンド演奏にもそれが反映されていて、だからサカナクションは聴けば聴くほど知りたくなる。
 とりあえず、サカナクションの「ミュージック」は無心で聴いてると、ハッとなって、歌詞が知りたくなるはずです。すごい曲ですよコレ。
 pv的には、サカナクションの場合、最初に「アルクアラウンド」を視聴するといいと思います。


 歌詞が物理的に出てくるという印象的なこのpvは1カメラ1テイクで撮られたもの。最後まで見ればわかると思うんですが、何度も何度も取り直してるんですよね。音楽クリップ集にはオマケで朝焼けに撮られた「アルクアラウンド」のラストテイクがついているみたいです。

↑この動画の7:53あたりから

 この「アルクアラウンド」はパワフルなバンドサウンドとエレクトロニカの融合が見事だけど、歌詞もとても良くて。
 最初に文字を目にしたら何じゃらホイなタイトルですが、つまり「歩くアラウンド」で、散歩の歌です。
 冒頭は敬語や古語を入れて、あてどない散歩感を出してますよね。pvでは歌詞を物理的に表示するために、いきなり走ったりするんですが、そういうとりとめのなさが散歩らしくて、うまく反映されています。
 で、散歩しながら、何か考えてる歌詞なわけで、その題材は人それぞれです。夢でもいいし、恋でもいい。歌詞に出てくる「君」を恋人にしてもいいし、友達にしてもいいです。で、何か結論が出せればいいんですが、そんなに簡単に結論が出るわけじゃなくて、でも、歩き続けるわけです。
 いやー、なぜ、この曲にリリース時に出会わなかったのだろうか、と後悔するぐらいの曲ですが、知らずに死ななくて本当に良かったと今になっては思います。
 ということで、サカナクションのことを知らない人には、まず「アルクアラウンド」のpvを見ればいいと思うんですが、曲を作った山口一郎によると、これは「表の顔」にすぎないわけです。実際、レコード会社も「アルクアラウンド」みたいな曲をもっと作ってくれと言われたでしょう。でも、そうならなかったところが、山口一郎というアーティストのすごいところです。
 で、そのとき「裏の顔」と言ったのが「目が明く藍色」という曲。最初に聴いたときは、わけがわからない曲です。


 ファンクラブの投票だとこの曲が一位らしいです。曲を作った山口一郎には、とても思い入れがある曲らしい。でも、十回ぐらい聴いただけでは、全然意味がわからない歌詞だし内容です。
 その理由は中盤の「光はライターの光」というくだり。多分、このライターって、火をつけるモノだけじゃなくて、Writer、つまり書き手のことも言ってると思うんですけどね。すごく危機的な状況を表してると思うんですが、唐突にこのパートが現れて、混乱しますよね。このパートがなくても、名曲になったはずなのに、なんでこんなものを挿入したのかと。
 でも、これがサカナクションの楽曲の魅力なんだと思います。一聴して不自然に感じるところが、耳になじんだころに、より共感できるようになる、というか。まだ僕にはこの曲を理解できているとはいえませんけど。
 
 もちろん、わかりやすい曲は多くあります。1stシングルの「セントレイ」はパンチ力ありますね。


 これも「アルクアラウンド」と同じで、カタカナだけど意味は日本語という。こういう言葉のセンスも良いのですが、この「セントレイ」は、理想の1stシングルですよ。
 ただし、これがデビューシングルとなると、ずいぶんと事情が違ったみたいで、この前に二枚のアルバムを出してるみたいです。この「セントレイ」は上京デビューの曲というわけです。
 それまではサカナクションはメンバー全員北海道に在住してました。この二枚のアルバムにも良い曲はたくさんあります。


 「ナイトフィッシングイズグッド」は二枚目のアルバムの曲。なんとも安直なタイトルなんですが、夜釣りをしたことがない僕にも、すごく胸に響く曲です。冒頭の「いつかさよなら僕は夜に帰るわ 何もかも忘れてしまう前に」というフレーズが、最後に繰り返すときは涙が出そうになりますね。「目が明く藍色」と同じく中盤でガラリと曲調が変わりますが、この「ナイトフィッシングイズグッド」はすごくポップで、わかりやすい。
 なお、このpvはレコード会社がお金を出さなかったので自主制作みたいに作ったみたいです。曲の中盤に仕掛けがあるんですが、まずは耳で聴きこんんでほしいですね。素晴らしい楽曲。ファン投票3位も納得です。


 ファン投票2位なのが、1stアルバムの「白波トップウォーター」。なんというか、感情の波に呑み込まれながらも、その上で漂おうとする歌詞といいましょうか。サビの「誘惑」「罠」が何を指すのかは人それぞれでしょうね。サギの女に引っかかってぼったくられて一文無しになって絶望する歌という読み方もできそうです。というのは冗談で、続けるのをあきらめそうになりたくなるときの歌でしょうか。ホント、十代のときにこの曲を聴きたかったです。オッサンの僕には、この曲が一番好きとはとても言えないぜ。


 ファン投票4位は、1stアルバム一曲目の「三日月サンセット」。初期の歌に人気投票が集まるのは、ファンが濃い証でしょう。この曲のイントロ、いいですよね。サビの「夕日」の歌い方が印象的で耳に残ります。
 サカナクションの山口一郎は曲作りの秘訣として「良い違和感」を残すことを心がけているそうです。だから、僕なんて、Youtubeのサブスクリプションサービスで聞き流しているはずなのに、どんどん曲が気になってどうしようもなくなってます。

 と、ニワカの僕がファン投票を紹介しても意味ないですね。ほかに気に入った動画を紹介しましょう。

 これは、橋本環奈がサカナクションの「アイデンティティ」をカバーした曲。Youtubeで評価数を見ればわかるんですが、bad評価が多いです。
 この「アイデンティティ」という曲は、知ってるだけではずいぶんと誤解されてる曲だと思うんですよ。僕もそうで、これは「オリジナリティ」のことだと受け止めてたんです。
 この曲では何度もこう繰り返します。

「アイデンティティがない 生まれない ららら」

 サカナクションのことを何も知らずに聴くと、なんだか人気歌手が「流行音楽に流されて個性が見つからない」みたいなことを歌ってるんじゃないかと誤解しちゃうんですよ。それに対して僕は「知wらwねwえwよwwww」と思っちゃうわけで。
 ところが、一番を最後まで聴いてるとこう出ます。

「自分らしさってやつに 朝は来るのか?」

 笑っちゃいますよねこの歌詞。人気歌手になって多忙だから自分を見失って困ってます旅に出たいので探さないでください、というような内容でないことが、このフレーズを聴けばわかるようになってるわけです。
 この曲で歌われる「アイデンティティがない」というのは、大人になって社会に出て、赤の他人を自分で見定めなければならなくなって、そういう評価をしているうちに「自分らしさってなんだっけ?」と思うんだけど、突き詰めていけば他人と比較する自分らしさなんて自分らしさじゃないわけです。もっと無意識で、というか、無作為的に出てくるものであるはずで、そういうものが、いつの間にか失われたものを嘆いてみる歌です。で、開き直って「アイデンティティがない 生まれない ららら」と歌ってみよう、と。

 話を橋本環奈に戻すと、彼女はサカナクションの濃いファンの一人です。
 2020年2月に、山口一郎(サカナクションの曲作って歌ってる人)のインスタライブで、いろんな職業の意見が聴きたい、というときに、「女優橋本環奈」と名のって手を上げたぐらいです。で、つながったときに、すっぴんだから恥ずかしいと言いながら、ちゃっかりサカナクションのファングッズのパーカーをまとっていたと。
 これだけ説明すると「さすが橋本環奈あざといなあざとい」と思われるかもしれませんが、ただ顔見せしただけじゃなくて、女優という職業について、自分の言葉で意見を出していたわけです。あくまでも一参加者として。
 彼女にとって山口一郎という人を信頼すべき大人として受け止めていることが、その言動の節々から読み取られます。
 そもそも、橋本環奈という子について、ネットでかわいいと評判になっただけでは現在の活躍はありえないわけで、他人に媚びるだけの女の子だったら、すでに飽きられていたはずです。もともと、彼女は福岡のローカルアイドルだったわけですが、上京してから心の支えにしたのがサカナクションの音楽だったわけでしょう。
 と、こういう経緯を知ると、橋本環奈の「アイデンティティ」のカバーがすごく説得力あるんですよ。ただ、サカナクションで有名な曲だから、ノリが良い曲だから、という安易な理由で選んだんじゃないと。彼女はこのとき十代だけど歌詞の意味をちゃんと知ってて歌ってると。思えば、ネットで注目されて上京して女優デビューした彼女が歌う「アイデンティティ」にはすごく説得力があります。

 「自分らしさ」と「オリジナリティ」ということについて、山口一郎はポリシーを持っていて、それがわかるのが川谷絵音との対談ラジオ。


 この対談ラジオもすごく良いですね。もともと仲が良いらしく、山口一郎が「世間を騒がせた男 川谷絵音」と紹介しても「やめてくださいよ」と真顔で返す関係みたいです。
 しかも、川谷絵音がサカナクションの大ファンなので、すごく突っ込んだことに話になります。

 「自分らしさ」と「オリジナリティ」について語るのは後半部分。引用してみます。


「人の影響は受けるじゃん、音楽作るときに。でもどう影響を受けたかっていう受け方と、自分の真似をしないって事をやって行くと、僕の中ではずっとオリジナリティを保てるのかなって気はしてるけどね。結局みんなどんどん自分の作ったものの真似をしてってやっていくじゃん。そうするとどんどんカルピスが薄くなってくような感じでさ、摩耗して行くんだよね。研磨じゃなくて摩耗っていう」

 クリエイターとして、これほど参考になることはないと思うんですよ。「自分の作ったものの真似をすることは研磨じゃなくて摩耗だ」というのは、胸に突き刺さる言葉ですね。
 
 だからこそ、サカナクションの音楽は飽きない。新曲が出るたびに「え? こんな曲なの?」と戸惑いながらも、きちんと作られていて、それを好きになることができる。

 なお、この動画で川谷絵音がサカナクションが好きな十代ミュージシャンとして上げているのがVaundy。「東京フラッシュ」は去年に話題になった曲。

 サカナクションを好きにならないと、この曲に出会うこともなかったかもしれません。世の中にはこんな素敵な音楽があふれているんですね。

 ミュージシャンに愛され、十代にも支持されるのがサカナクションのすごいところ。
 これは、前に引用したように、自分の真似をせずに自分の好きな音楽を作り続けていたからでしょう。

 最新シングルの「忘れられないの」もそうですよね。


 サカナクションのファンからすれば「何やってたんだ山口一郎」と感じたかもしれませんが、聴いてると悪ノリじゃなくて、すごくマジメにやっている。
 なお、このpvも1カメラ1テイク。だからこそ、フザケてなくて本気でしているのが伝わってくるんですよね。

 と、僕はサブスクリプションでサカナクションを聴き込んでいる途中だし、ライブに行ったこともないので、熱心なファンからすればニワカの戯言でしょうが、書きたくなったので、僕なりのサカナクションの魅力を書いてみました。