マガジンのカバー画像

ビブリオテーク

177
読んだ本について紹介。紹介するのは、他の人があまり読んでいない本ばかりかと。
運営しているクリエイター

2020年4月の記事一覧

アルス・ロンガ/ペーター・シュプリンガー

政治が危機的な状況だ。 生命の危機、経済の危機はもちろんのこと、政治も大きく危機に陥っているように感じる。 18世紀のフランス革命以降続いてきた民主主義的な政治の行先が危うくなってきているのではないかと思う。 僕的には、今月の初旬にジョルジョ・アガンベンの『ホモ・サケル』をタイミングよく読んだことが、この危機を明確に感じることができた理由だ。 その本でアガンベンは、20世紀初頭における「国民社会主義帝国」の形成は「医学と政治が、一つに統合されるという、近代の生政治の本質的

ボディ・クリティシズム/バーバラ・M・スタフォード

3月16日のことだから、ちょうど1ヶ月くらい前に、フランスのマクロン大統領が"Nous sommes en guerre (我々は戦争に入った)”と言ったのが、ようやくここ日本にいても実感できるようになりはじめている。 もちろん、マクロン大統領がそのとき、そう呼びかけなくてはならなかったのと同様に、いま日本のこのときにおいても、いまがもう戦争状態だと認識できている人もいれば、まったく認識できてない人もいる。 「いつになったら元どおりになるのだろう」と考えている人は戦争状態の

政治的イコノグラフィーについて/カルロ・ギンズブルグ

パトスフォルメル Pathosformel(情念定型)。 19世期後半から20世期初頭を生きたドイツの美術史家、アビ・ヴァールブルクが提唱した概念。 イコノロジー=図像解釈学の祖として知られるヴァールブルクは、「1905年10月にハンブルクでおこなわれた講演〔「デューラーとイタリア的古代」〕で、オルフェウスの死を描いたデューラーの素描をマンテーニャのサークルから出てきた同じ主題をあつかった版画に接近させた。前者の素描は後者に着想を得ている。しかし、後者は後者で、今日ではもは

ホモ・サケル/ジョルジョ・アガンベン

その者を殺しても、殺害した者が殺人罪に問われることのない生をもつ者、ホモ・サケル。 なんとも法秩序から見放されたような存在である。 しかし、古代ローマの時代においては、そうした生をもつ者が存在したというのだ。 聖なる人間(ホモ・サケル)とは、邪であると人民が判定した者のことである。その者を生け贄にすることは合法ではない。だが、この者を殺害するものが殺人罪に問われることはない。 殺しても殺人罪には問われないが、生贄として犠牲にすることは許されないという、不可解な位置を占め