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ビブリオテーク

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読んだ本について紹介。紹介するのは、他の人があまり読んでいない本ばかりかと。
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2019年9月の記事一覧

アルベルト・ジャコメッティのアトリエ/ジャン・ジュネ

何故だろう。 ジュネのようにはなれないはずなのに、彼の言葉には共感する。 たとえ私一人のためであれ、私はなお、人を罵る者たちを罵りたいのです。 こう、述べるジュネは「私についていえば、私は選択しました。犯罪の側につきます」と宣言しているジュネだ。 「私はほとんど幻想を持っていません。私は虚空のなかで、暗闇のなかで話しています」と述べた上で、自分のためだと自覚した上で「罵る者を罵りたい」と言っている。 このジュネに僕は何故だか共感を覚えてしまう。 昼の光の瀬戸際から引き

時間は存在しない/カルロ・ロヴェッリ

なにこのシンクロ感。 カルロ・ロヴェッリ『時間は存在しない』。 一昨日の夜に読みはじめ昨夜読み終えた、量子重力理論を研究する理論物理学者の言うことが、1つ前に読んだ社会学者ブリュノ・ラトゥールの『社会的なものを組み直す』でのアクターネットワーク理論の主張とリンクしまくっていて、びっくりした。 この世界は、ただ1人の指揮官が刻むリズムに従って前進する小隊ではなく、互いに影響を及ぼし合う出来事のネットワークなのだ。 このロヴェッリによる「世界を出来事のネットワーク」として捉

社会的なものを組み直す アクターネットワーク理論入門/ブリュノ・ラトゥール

まず循環がある。 循環があるからつながり、変化が起こり、生成が生じる。 社会があるのではない。社会という固定化された何ものかがあると仮定して、それを探そうとするから見つからない。そうではなく、社会が生成されてくる様に目を向けてみるといい。いや、目を向ける必要がある、その把握しきれないほど天文学的な数の生成の複数性に。 ブリュノ・ラトゥールが本書『社会的なものを組み直す アクターネットワーク理論入門』で伝えてくれることを大まかに示せばそういうことになるだろうか。 むずかし

神の三位一体が人権を生んだ/八木雄二

僕は、どちらかというと海外の作者が書いた本の翻訳本を読む頻度が高い。 特にヨーロッパ系の作者の書いたものを読む機会が多い。 だから、かえって日本人の作者がヨーロッパのことについて書いたものをたまに読むと、違う視点でヨーロッパの特殊性にあらためて気づくことができて、普段と違った感動をおぼえる。 この八木雄二さんの『神の三位一体が人権を生んだ』もまさに、そんな感動を何度もおぼえつつ読んだ。 人として「在る」ということ、他者の「在る」もまた認めるということ、そして、それを認め

進化の意外な順序/アントニオ・ダマシオ

今年は僕の読書的には当たり年だ。 このアントニオ・ダマシオの『進化の意外な順序』も当たりだった。 人間の意識というものを、冷たい電気のパルスのようなものに還元してしまわずに、生物が蠢きながら行う化学的なやりとりとも切ってはきれないものであることを暴くことで、哲学的な二元論の伝統を破壊するという、きわめて僕好みな内容だったからだ。 その意味で、内容は、タイトルである「進化の意外な順序」よりも副題である「感情、意識、創造性と文化の起源」のほうがそれを表している。 感情や意識