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ビブリオテーク

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読んだ本について紹介。紹介するのは、他の人があまり読んでいない本ばかりかと。
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2019年8月の記事一覧

影の歴史/ヴィクトル・I・ストイキツァ

「絵画の誕生について知られていることはほとんど何もない」。 古代ローマの博物誌家・大プリニウスが『博物誌』で書いたのを引きながら、『影の歴史』の著者ヴィクトル・I・ストイキツァは、「しかし」といって、こう続ける。 ひとつだけ確かなのは、人間の影の輪郭を初めて線でなぞった時に絵画が誕生したということである。 影。対象物によって光が遮られた部分を示す、ネガとしての図像だ。 「西洋の芸術表象の誕生が「陰画=否定(ネガティヴ)」にあるということは、きわめて重要だ」とストイキツ

お気に召すまま/シェイクスピア

牧歌という理想郷的自然。それほど人工的な夢想はない。 そこは自然の見せかけで彩られてはいても、あまりに人間じみた時のとまった世界である。 『シェイクスピアの生ける芸術』のなかで著書のロザリー・L・コリーは、シェイクスピアの『お気に召すまま』について、こう書いている。 このロマンティック・コメディの大枠の構造は、まさに標準的な牧歌劇の型―― 追放や出奔の後、自然界で休息=再創造(リクリエーション)としての滞在をし、そしてついには、流謫の地から「本来の住処へと」帰還する、それ

ヨーロッパ文化史についてのおすすめ7冊

世の中、夏休み。 台風の影響でなかなか出かけられなかったりする人もいるであろうということで、ヨーロッパ文化史に関しては比較的いろんな本を読んでいる僕がおすすめの7冊をご紹介。 書く前はただ普通におすすめの本を順に紹介しようとするだけのつもりだったが、書き始めると、我ながらヨーロッパの文化というものをなかなか鋭い角度で切り込んで俯瞰したものになった。 長いが、それなりのものになってるので、ぜひご一読。 で、紹介するのは、この7冊だ。 スタンツェ―西洋文化における言葉とイメ

イメージ人類学/ハンス・ベルティンク

僕らはきっと実際の物事を見ているより、イメージを見ている方が多い。 そう思うのは、単にスマホやPC、テレビの画面に映し出された静止画や動画に目を向けている時間が長いからというだけではない。街にさまざまなグラフィック広告があふれかえっているというからというのでもない。 そもそも、実際目の前に人間やその他さまざまな物事があっても、果たして僕らは本当にそれらの実在のものに目を向けているのだろうか?と思うからだ。 もちろん、僕らは世界を見てはいる。 けれど、意識にのぼってくる視覚

物質と記憶/アンリ・ベルクソン

「知覚を事物の中に置く」。 ベルクソンの、この常識的な感覚とは異なる知覚というものの捉え方が、より常識はずれながら、哲学がなかなかそこから抜け出せない精神と物の二元論の罠から逃れるきっかけとなる。 知覚を通常考えられているように人間の内面の側に置くのではなく、身体が運動の対象としようとする物の側に置く転倒は、ベルクソンの『物質と記憶』の数ある「目から鱗」な考えの1つだ。 そう1つ。この本には他にもたくさんの「目から鱗」な事柄がたくさんある。 そして、そのどれもが納得感の