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声劇台本「ハロウィンナイト」ジャンル:ホラー/叫びやケガの描写あり 5人用(2:1:2)

ケント 男
ふざけがちで情けない発言が目立つ。ボケ役。荒事になると幼なじみのハルミを頼る。だが、やるときはやる男。

ハルミ 男女どちらでも
空手の有段者、ステゴロに強い。冷静沈着なツッコミ役。

コウモリ 男女どちらでも
クロムウェルの忠実な従者。複数の独立した肉体を持ち、ひとつの人格と意識を共有している。見た目は子どもの姿。

メリッサ 女
魔女、人間の魂を食べる。セクシー。

ウルフ 男
狼男、人間の肉を食べる。ワイルド。

※クロムウェル
当台本では名前のみ登場。吸血鬼、人間の血を飲む。純愛大好き、イカレ伯爵。



ハロウィンの夜、目醒めるとケントとハルミは知らない部屋の大きなベッドの上にいた。

ー薄暗い室内、ベッドの上
ケント:「……んん」
ハルミ:「う~ん……」
ケント:「……ふわぁ(あくび)今何時だ? えっ、わっわわ!? はっ、ハルミ!?」
ハルミ:「んっ、うるさ……なんなの……? って、は? なんでケントが私のベッドに。ハッ、まさか夜這い……」
ケント:「それだけは違うな!! てか、ここ俺のベッド! 勝手に入り込んできてるのはそっちだろ!」
ハルミ:「そんなわけないでしょ。だいたいここは私の部屋で……えっ、待ってここどこ?」
ケント:「そりゃ、俺の部屋に決まってぇええええ、俺の部屋でもないぃぃぃ!?」
ハルミ:「西洋のおとぎ話に出てきそうな部屋だね、オシャレ……だけど……天井に鏡が貼りつけられてるんだ?」
ケント:「まるでラブホのようだ、とハルミは思った」
ハルミ:「わざわざ言わなくてよろしい」
ケント:「ところで、なんで俺たちはここにいるんだ? もしかして気づかないうちに誘拐でもされたんじゃないか」
ハルミ:「……わざわざ庶民の私たちを誘拐するアホがいるかな」
ケント:「いるんだよ、世の中には頭パッパラパーな割に行動力だけはあるやつが! この状況を見ろ、誘拐以外考えられないだろ」
ハルミ:「うーん、でもなぁ……。昨日の夜はケントも参加してたから知ってるだろうけど、ハロウィンパーティーをしてみんなで楽しんだ後は、普通に家に帰って、ベッドに入って寝たんだよ」
ケント:「ハルミが作ってきたかぼちゃのパイ美味かったぞ!」
ハルミ:「それはよかった。話を戻すけど、誰かが部屋に入ってきて、寝ている私やケントを誘拐しようとしたなら、さすがに起きるんじゃないかな?」
ケント:「そう言われてみると……いや、だけどよぉ誘拐じゃないなら、なんでよくわからねえ場所に俺たちは寝てたんだ?」
ハルミ:「これ、夢なんじゃない?」
ケント:「えっ、ゆ、夢……?」
ハルミ:「そ、リアルな夢」
ケント:「ラブホチックな部屋でハルミと寝てる夢を俺が? もしかして俺はそういう目でハルミを見てたのか?」
ハルミ:「えー、キショ〜い」
ケント:「なんだと!?」
ハルミ:「ていうのはまあ冗談として。部屋の外に出てみようか。ずっとここにいてもなんにもならないからさ」
ケント:「俺たちをさらった犯人とはち合わせしたらどうする!? 危ないだろ!」
ハルミ:「もし私たちをさらった犯人がいるなら、この部屋に様子を見に戻ってくるんじゃない? どちらにしてもリスクはそれほど変わらないと思うけど?」
ケント:「よしっ! ハルミが先頭だ、殿(しんがり)は俺に任せてくれ」
ハルミ:「はあ……不安になってきたな……」

 キイィ……(ドアの開く音)

ケント:「ッ! わわわわわわわわわ!? ハルミハルミハルミ! 後ろ、後ろぉ!!」
ハルミ:「後ろ? うわぁああ!?」
ケント:「包帯ぐるぐるまき男ッ!!」
ハルミ:「……どちらさまですかね。まさか、あなたが誘拐犯? それは顔を隠しているつもりでしょうか」
 沈黙
ケント:「なんか喋れよ!! 黙りこくってれば俺たちがビビるとでも思ってんのかもしれねえけど、お前はひとり、こっちは二人! 俺たちのほうが有利なんだからな!」
ハルミ:「私の後ろに隠れながら、よくそんな啖呵が切れるね。もはや才能だよ」
ケント:「ハルミはな、こう見えて空手の有段者なんだぞ! 黒帯だ黒帯! お前なんかハルミひとりでケチョンケチョンにできるんだからな!」
ハルミ:「ケント、黙って。……あなたが私たちに危害を加えるつもりがないのなら、私たちもなにもしません。無事に家に帰り着きたいんです。だから、そこをどいてください」
 沈黙
ケント:「なあ、ハルミ……もしかしてあいつ、喋れないんじゃないか?」
ハルミ:「かもしれないね。無反応だから話が通じてるのかもわからな……」
ケント:「(かぶせ気味に)わっ、動いた!? ハルミィ!」
ハルミ:「ちょ、私を盾にするな!」
 バサッ(服と包帯の落ちる音)
ケント:「ふぁ!? ききき消え消えッ消えたぁ!?」
ハルミ:「服と包帯だけ残して消えるなんて、ずいぶんと器用だなぁ、今のやつはマジシャンかオバケか……果たしてどっちだろうね」
ケント:「な、なあ、ハルミはさっきの聞こえたか……? もしかしたら俺の幻聴かもしれないんだけどさ」
ハルミ:「“逃げろ”……ってやつ? 耳で聞こえたというより、頭に直接響いてくる感じだったけど」
ケント:「うわぁー聞こえちゃってる〜、これ絶対アカンやつ〜〜! あー、おうち帰りたいぃぃぃぃ!!」
ハルミ:「頭抱えてるとこ悪いけど、これを見てくれる?」
ケント:「え~ん、幼なじみが冷たい」
ハルミ:「冷静沈着と言いなさい。このロケットペンダントに入ってる写真の人、どこかで見たことない?」
ケント:「お前、それ……どこで」
ハルミ:「包帯男の残していった服に埋もれてた」
ケント:「やだっ、俺は絶対見ねえぞ! 呪われるかもしれない!」
ハルミ:「絶世の美女が写っててさ」
ケント:「拝見します」
ハルミ:「どう? どっかで見たことある気がするんだけど、思い出せなくて」
ケント:「これは! 去年のハロウィンに行方不明になった美人令嬢だ! テレビでもSNSでもかなり騒がれてたやつ」
ハルミ:「ケントは変なとこで記憶力がいいよね」
ケント:「美人のご尊顔は脳裏に焼き付くのだよ!」
ハルミ:「へえ……。ちなみにそのご令嬢は見つかったの?」
ケント:「えっと、たしか見つかったけど……」
ハルミ:「けど?」
ケント:「正気を失ってる状態で話ができないってニュースで言ってたような……」
 沈黙
ケント:「もしかして俺たち、かなりヤバい事態に巻き込まれてねえか?」
ハルミ:「かもしれないね……」
ハルミ:「……ご令嬢が行方不明になったときって、もしかして誰かと一緒だった?」
ケント:「えっと……ああ、そうだな、令嬢の恋人が一緒にいなくなったから当時はただの駆け落ちじゃないかって言われてた」
ハルミ:「ご令嬢が発見されたとき、恋人のほうは見つかった?」
ケント:「え~、ニュースでは何も聞かなかったな……見つかってないんじゃないか?」
ハルミ:「そっか、ありがとケント」
ケント:「ハルミさーん、なんでペンダントをポケットに入れたんですか。悪いことは言わない置いてこう! あんな包帯男が持ってたもの、持ち歩くの怖いだろうがよ!」
ハルミ:「肝ちっちゃいなぁ。私が持つから別にいいでしょ」
ケント:「やだやだやだー! ハルミが呪われたら、他に誰が俺を助けてくれるっていうんだ!」
ハルミ:「私は君のボディガードじゃないからね。自分のことは自分でなんとかしな」
ケント:「うっ……正論のナイフが俺の心臓を突き刺した! 慰謝料を請求する!」
ハルミ:「怖いからって、バカなことをしゃべるのやめなよ。あんまり騒ぐとさっきの包帯男みたいなやつが来るかもしれないよ?」
ケント:「ぴえっ……。だってよぉ、ふざけてないと嫌な予感みたいなのに飲み込まれて全然動けなくなりそうなんだ。カッコ悪いから言わなかったけどよぉ、足だって子鹿みたいに震えちゃってるんだぞ!」
ハルミ:「言われなくてもぷるぷる子鹿ちゃん足には気づいてたけどね。ちゃんと歩ける? 今から出口を探さないといけないんだよ」
ケント:「ケントォ赤ちゃんだからありゅけないかもぉ」
ハルミ:「じゃあ、置いてくね、バイバイ」
ケント:「あ~~っ!? 待って待って、歩けます、歩けますから置いてかないでぇえええ!!」

ー不気味な屋敷内
ハルミ:「はぁ……本当にどうなってるんだ、この屋敷は」
ケント:「同じ道を歩いてる気がする……」
ハルミ:「気がするんじゃなくて、事実私たちは同じ場所をループしてるみたいだね」
ケント:「ハッ!? んなわけあるかよ」
ハルミ:「証拠はあれ」
ケント:「あの壁についたゴミは、まさか!」
ハルミ:「ケントが壁になすりつけた鼻くそだよ」
ケント:「俺が好きでなすったみたいに言うな! ぜんぶハルミの指示でやったんだから!」
ハルミ:「わかってるよ……。目印になるものが欲しいってさっき言ったでしょ」
ケント:「つまりあれか、あの鼻くそがあるってことは」
ハルミ:「元の場所に戻ってきてしまったみたいだね……」
ケント:「マジで、どうなってんだよ……。ハルミ……ちょっと休憩にしようぜ、俺……疲れた」
ハルミ:「そうだね、私も疲れたよ。そこの階段に座ろう」
ケント:「どっこいしょ〜……ふぅ~、ひと休みひと休み」
ハルミ:「おっさんだな」
ケント:「お姉さんカワイイね〜、こっち座ってお酌してよ」
ハルミ:「そうやって秒でキショいセリフ出てくるのすごいよね」
ケント:「ふふっ、お前は今の発言で全国のオジサンたちを敵に回したぞ」
ハルミ:「この会話はケントと私しか聞いてないんだから、私が敵に回したのはケントだけだよ」
ケント:「俺まだオジサンじゃないもん!」
ハルミ:「あははははっ、そうだね。……ふぅ、ケントと一緒でよかったかも」
ケント:「えっ、ナンデスカ、急に」
ハルミ:「ひとりでこの屋敷に連れてこられてたら、もっとメンタルやられてただろうなと思ってさ」
ケント:「……ようやくハルミも俺の存在の偉大さに気がついてくれたかッ!」
ハルミ:「ケント……(真面目なトーンで)」
ケント:「……えっ、なっ、いつものツッコミは……? そんな真剣な眼差しで見つめられたら……俺ッ……」
ハルミ:「音が聞こえない?」
ケント:「……心臓の音が聞こえますぅ。バクバクですぅ」
ハルミ:「そうじゃなくて、向こうのほうから話し声みたいなのがしてないか?」
ケント:「えっ……。あっ、言われてみるとなんか聞こえるな」
ハルミ:「行ってみよう」
ケント:「あっ、ちょっお前行動早すぎ……置いてくなよぉ」

ー廊下、少し開いた扉の前
ハルミ:「この部屋の中に誰かいるみたいだ(小声)」
ケント:「包帯男がいっぱいいるとかは勘弁だぜ(小声)」

ーとある部屋、テーブルに大男(ウルフ)と美女(メリッサ)がつき、そばに少年(コウモリ)が立っている
ウルフ:「クロムウェルはまだ来ないのか。パーティーの主催のくせに、客人を待たせるとはな」
コウモリ:「申し訳ありません、ウルフさま。伯爵さまは少々、準備に手間取っておりまして」
ウルフ:「どうせ寝過ごしたんだろ。毎年そうじゃねえか」
メリッサ:「いやねぇ、ウルフ。クロムちゃんの寝坊は毎年恒例なんだから。待たされるのが嫌なら、もっと遅い時間に来なさいよ。コウモリちゃんに謝らせないの」
ウルフ:「ハッ、コウモリはクロムウェルの従者なんだ。主人の無礼を代わりにわびるくらい当然だろ」
コウモリ:「メリッサさま、お心遣い感謝いたしますが、ウルフさまが仰っていることも最もでございます。パーティーの開始が遅れお待たせしてしまい、大変申し訳ありません」
メリッサ:「別にいいのよ。私もウルフも暇なんだから」
ウルフ:「俺たちが暇かどうかは待たせられることに関係ねえだろ」
メリッサ:「もうウルフはイジワルねぇ」
ウルフ:「腹が減ったな。簡単につまめるもんはねえのか?」
コウモリ:「簡単に、と言いますと鳥やウサギがよろしいでしょうか」
ウルフ:「この屋敷にわざわざ来てやってんだ、んなショボいもん食わせんなよ。人間が喰いたい、ちょうど良さそうなのの一人や二人、この屋敷なら飼ってんだろ?」
メリッサ:「それなら私、美男か美女の魂が食べたいわぁ」
コウモリ:「承知しました。部屋の扉の向こう側に屋敷に迷い込んできた人間の二人組がおりますので、そちらを捕まえてお出しいたします。少々お待ちください」

ー廊下
ハルミ:「ッまずい、逃げるよ、ケント!」
 ハルミ、ケントの手をとって、走る
ケント:「えっ、なっなに!? 俺のとこからだと、部屋ン中見えねえし、会話もあんま聞こえなかったんだよ、状況解説プリーーズッ!(走りながら)」
ハルミ:「ここ化け物屋敷だったんだ! 捕まったらッ化け物に喰われるッ!」
ケント:「ハァッ!? マジで!?」
コウモリ:「マジでございます」
 コウモリ、立ちふさがる
ハルミ:「あなた、さっき部屋にいたはずじゃ……一体どこから!?」
コウモリ:「コウモリはこの屋敷のいたるところにおります。部屋にいたコウモリといまここにいるコウモリは別々でありながら、同一の存在であります」
ケント:「えっ、なになにっ、どういうこと!?」
ハルミ:「電子機器に例えるならデバイスがいっぱいあって、デバイス同士が常に同期してるってことだと思うよ」
ケント:「なるほど、わからん!?」
コウモリ:「必ずしも理解する必要はありません。あなた方は今から死ぬのですから」
ハルミ:「大人しく殺されるつもりはさらさらないよッ!」
コウモリ:「ギャアッ……!!」
ケント:「ハルミの高速蹴り、俺でなきゃ見逃しちゃうねっ!」
ハルミ:「子どもを蹴り飛ばしたみたいで、罪悪感がすごいな」
ケント:「そのわりに容赦がなかったけど……」
ハルミ:「私たちを殺そうとしてきてる相手だからね、見た目が子どもでも手加減はしないよ」
ウルフ:「いい心がけじゃねえか。人間にしては骨がありそうだ」
ケント:「ほわぁ……犬耳オジサンだ……」
 沈黙
ウルフ:「……俺のことか?」
ハルミ:「ヤーー!!」
ウルフ:「ッ痛てぇ!?」
ハルミ:「走れ!」
ケント:「いまの俺、ナイスアシストじゃね?」
ハルミ:「無駄口叩くな、走れ!!」

ケント:「ハルミッ……俺、もう走れない……」
ハルミ:「軟弱」
ケント:「すみませんねぇええ、軟弱野郎で!!」
ハルミ:「デカい声出すな、馬鹿。見つかるだろ、馬鹿」
ケント:「馬鹿って二回言った……」
ハルミ:「大事なことだからね、それよりちょっとこっち来て、この部屋広そうだよ、とりあえず身を隠せそう」
ケント:「……暗いなぁ、ほこりっぽいし……ヘックシ!」
ハルミ:「静かに」
ケント:「ごめん……」
ハルミ:「何も見えないな……廊下から燭台をひとつ頂いてくるよ、ケントはここで待ってて」
ケント:「えっ、俺も行く」
ハルミ:「見つかったら、また走らなきゃいけないんだよ。ケント、もう走れないでしょ」
ケント:「うっ、その通りです」
ハルミ:「すぐ戻るから」
 ハルミ退出
ケント:「……こっ、怖ぇ、ハルミといるときは大丈夫だったのに……ひとりになった途端に、心細さが……」
ケント:「うぅ……心臓がうるさい、耳鳴りまでしてきた、ハルミぃ早く帰ってこいよぉ」
ケント:「…………これ、耳鳴りか? なんか俺に話しかけてきてるような? かが……? 鏡? 鏡がなんだって?」

ーとある部屋
ウルフ:「人間から一発もらうなんて、俺も焼きが回ったか」
メリッサ:「うふふ、鼻の頭に絆創膏なんてカワイイじゃないの」
ウルフ:「可愛いは褒め言葉じゃねえからな」
メリッサ:「あらそう? ごめんなさいね」
ウルフ:「しかし、コウモリのやつはまだあいつらを見つけられないもんかね。動かせる体はたくさんあるんだろ、あいつ」
メリッサ:「パーティーの準備とクロムちゃんの身支度に人数が割かれてるんでしょうね。屋敷に入ってから全然、コウモリちゃんの姿を見かけなかったもの」
ウルフ:「食材が屋敷内を逃げてるのに、のんきなもんだな」
メリッサ:「まあ、人間が二人いなくなったところで大したことないんじゃないかしら」
ウルフ:「そのへんで死なれたら、鮮度が下がるだろ。人間はシメた直後に喰うのが美味いんだよ」
メリッサ:「うーん、魂は肉体より劣化しにくいから、食材がいつ死んだかってあまり気にしたことがないわねぇ」
ウルフ:「魔女ってやつは案外、グルメじゃねえんだな」
メリッサ:「あら、そんなことないわよぉ。私、味にはうるさいんだから」
ウルフ:「美男美女の魂しか喰わねえくせに」
メリッサ:「それは美人の魂が素晴らしく美味しいからよ。それを言うならウルフだって、若い人間を食べたがるじゃない」
ウルフ:「若い肉のほうが美味い」
メリッサ:「ほら〜」
ウルフ:「前回のパーティーのときに食べそこなった若い人間の男女は、俺の食の好みど真ん中だったんだがな」
メリッサ:「あぁ、あの美男美女カップルの魂は私も食べたかったわね」
ウルフ:「ったく、クロムウェルの野郎が心変わりしたとか抜かして、直前で引っ込めやがって……チッ、思い出したらムカムカしてきたぜ」
メリッサ:「クロムちゃん、純愛に弱いからねぇ。二人の愛を見て感動しちゃったのよ、きっと」
ウルフ:「意味わかんねえな。結局、クロムウェルはあいつらをどうしたんだ? 喰わずにペットとして飼うことにしたのか?」
メリッサ:「剥製にするって言ってなかったかしら?」
ウルフ:「ますます意味わかんねえ……。吸血鬼ってのは独特の感性してんな、人間の剥製……いらねえだろ……」
メリッサ:「自分の感動したものを美しい姿のまま留めておきたかったのよ。狼男のウルフにはわからないかしらねえ」
ウルフ:「そういうお前にはわかるのかよ、魔女メリッサ」
メリッサ:「人間の体の一部をコレクションしてる魔法使いは多いわよ、手とか目玉とかね……」
ウルフ:「保存食としてなら理解できるが……コレクションって……面倒くさいことしてんだな」
 扉を叩く音
コウモリ:「失礼します。メリッサさま、ウルフさま、逃げた人間がいる場所がわかりました」
ウルフ:「おう、やっとかコウモリ」
メリッサ:「どこにいたの? 私たちも手伝うわよ」

ー廊下
ハルミ:「ケントを置いてきたのはやっぱり正解だったかな」
コウモリ:「おひとりですか」
ハルミ:「見ての通りさ」
コウモリ:「もうおひとかたはどちらに?」
ハルミ:「言うと思うかい?」
コウモリ:「いえ、思いません。あなたを捕え、痛みを与えて聞き出したほうが早いでしょうね」
ハルミ:「私より弱いあなたにそれができるかな?」
コウモリ:「さきほどは油断しただけです」
ハルミ:「何度やっても結果は同じだよっ!」
コウモリ:「ぐっ……人間の蹴りとは思えませんね」
ハルミ:「おや、仕留めたと思ったんだけどな」
コウモリ:「同じ手ではやられません」
ハルミ:「なら、これでどう!」
コウモリ:「う゛……あ゛ッ……」
ハルミ:「防戦一方みたいだね」
コウモリ:「コウモリは……勝つ必要はありませんから」
ハルミ:「……チッ、そういうことか」
コウモリ:「もう気がつきましたか、聡いですね」
ハルミ:「あなたは屋敷のいたるところにいて、意識を共有してる。だから、援軍も簡単に呼べる。無駄口叩いてるヒマは私にはないわけだ」
コウモリ:「あと数分もすれば、別のコウモリが何体か到着します。あなたはおしまいです」
ハルミ:「……ケントがここにいなくて良かった」
コウモリ:「涙ぐましいですね、ご自身が窮地に陥っているのにご友人の心配ですか」
ハルミ:「違うよ、私が今からしようとしてること、結構非人道的だからケントなら止めようとするだろうなと思ったんだ」
コウモリ:「非人道的なこと?」
ハルミ:「こういうこと」
コウモリ:「ぎゃあ!?」
ハルミ:「意識は飛ばさせないよ」
コウモリ:「うっ……あ゛ぁ、やめて……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
ハルミ:「やめてほしい?」
コウモリ:「やめてください、やめてください!」
ハルミ:「私たちのこと見逃して?」
コウモリ:「……ボクは、数あるコウモリのひとり、ボクがやられたところで……いぎゃあああああ!!」
ハルミ:「痛いねぇ、辛いねぇ。あなたたちの意識伝達の仕組みがどうなってるのかは知らないけど、この体験はどんなふうに共有されるのかな?」
コウモリ:「はぁ……うぁあ……」
ハルミ:「私のところに別のあなたを寄越すなら覚悟しなよ、最大限の痛みを与えてから潰すからね」
コウモリ:「フーッ……フーッ……わかりました、あなた方を捕まえるのは諦めます」
ハルミ:「わー、ヤッター。ついでに出口まで案内してほしいなぁ。言うこと聞いてくれるよね」
コウモリ:「……くっ」
ハルミ:「骨の一本でも折っておこうか?」
コウモリ:「案内いたします……」

ー廊下
ウルフ:「おいコウモリ、見つかったんじゃなかったのかよ、どこにもいないじゃねえか」
コウモリ:「申し訳ありません、報告個体からの連絡が途絶えてしまい……」
メリッサ:「コウモリちゃん、なんだか顔色が悪いわよ、大丈夫?」
コウモリ:「いえ、その……いつもより多くの個体を同時に動かしておりますので、少々疲れているのかもしれません」
メリッサ:「ムリしちゃダメよぉ? 大変なようなら私たちの相手だってしなくても」
ウルフ:「そいつがいねえと屋敷ん中で迷子になるだろうが」
メリッサ:「まったく、ウルフは気遣いってものがないわね。いいのよ、コウモリちゃん、こんな馬鹿は迷わせておけば。私は屋敷の地図が頭に入ってるからね、なんの心配もいらないわよ」
コウモリ:「お気遣いありがとうございます、メリッサさま」
ウルフ:「お前、屋敷の地図が頭に入ってるってマジか? こんなアホみたいに広いのに?」
メリッサ:「実際の広さはそこまでじゃないのよ、このお屋敷。クロムちゃんが魔法で広く見せてるだけだから」
ウルフ:「そうだったのか!?」
メリッサ:「ええ、そうよ……」
メリッサ:(だから、屋敷内を熟知してるコウモリちゃんが逃げた人間をこうも長い間、見つけられないなんてちょっと考えにくいのよねぇ……)
メリッサ:「コウモリちゃん、本当に大丈夫? 具合悪いんじゃない?」
コウモリ:「業務に支障はありません……」
メリッサ:「ふぅん、それならいいの。ちょっと私、お花を摘んでくるわね」
メリッサ:(コウモリちゃんになにか起こってるみたいね、とりあえず私のほうで屋敷内を探索してみましょうか)

ー剥製の間
ハルミ:「ケント、戻ったよ。燭台とコウモリを一匹捕まえてきた」
ケント:「……むむむ」
ハルミ:「ケント? なんで目をつぶってるの、寝てるの?」
ケント:「声が聞こえるんだ……俺になにか伝えようとしてる……うん? 燭台となにを持ってきたって言った?」
ハルミ:「コウモリ」
コウモリ:「この人間と付き合うのはやめたほうがよろしいかと存じます」
ハルミ:「余計なこと言うともう一回シメるよ?(小声)」
ケント:「なっ、そいつ……敵だろ!? なんで連れてきてんだよ」
ハルミ:「懐柔した。私たちを逃がす手伝いをしてくれるってさ」
ケント:「お前、実はいいやつだったのか! よろしく頼むぜ、コウモリ。俺はケント、こっちはハルミだ」
コウモリ:「……よろしくお願いします」
ハルミ:「コウモリが出口まで案内してくれるらしい。ケントはもう動ける?」
ケント:「ああ、でもちょっと気になることが……」
ハルミ:「なに?」
ケント:「この部屋、どこかから声がするんだ……俺たちみたいに迷い込んだやつがいるなら助け出さねえと」
ハルミ:「声? 私には聞こえないけど」
コウモリ:「それはおそらく人間の剥製に残った魂の声です」
ケント:「にんげんのはくせい?」
ハルミ:「嫌な予感がする……。深入りしないほうが良さそうだね」
ケント:「待てよ、ハルミ。こんなに一生懸命に話しかけてきてるのに、無視するのか」
ハルミ:「こんなにって……私には聞こえてないからよくわからないけど、ちゃんと話を聞いちゃったらケント呪われるかもよ」
ケント:「うっ……たしかにありえなくはない……けど、なんかそういう感じじゃねえんだよ。優しい雰囲気があるっていうか……」
ハルミ:「後悔しても知らないからね。コウモリ、剥製はどこにあるの」
コウモリ:「この部屋の一番奥にある、ガラスケースの中でございます」

ハルミ:「ガラスケースというより、これは透明な棺桶だね……」
ケント:「人が入ってる……ってか、俺この男の人ニュースで見たことある……」
ハルミ:「去年のハロウィンに行方不明になったご令嬢の恋人……かな……私の予想だと……」
ケント:「……見つかったって報道はなかったけど、こんなところにいたのか」
ハルミ:「……さぁ、気は済んだでしょう。私たちも食べられたり剥製にされたりする前にここから逃げよう」
ケント:「この人、連れていけないのか」
ハルミ:「担いでいくつもり? 無理だよ、屋敷にうろついてる化け物に見つかったら一目散に逃げないといけない、荷物になるだけだ」
ケント:「……そう……だよな。だけど、必死になにか伝えようとしてるんだよ……恋人への言葉かな」
ハルミ:「! 彼もここに迷い込んで、逃げようとしていたのなら……ご令嬢のほうは戻ってきていたのだし、もしかして出口を知っているんじゃないのかな。伝えようとしてることってそれなんじゃないの?」
ケント:「えっ、マジか、でも……くぐもってて、ほとんどわかんねえぇ……」
ハルミ:「ちゃんとよく聞いて、単語でもいいから、なにかわからない?」
ケント:「鏡がどうのこうのって……」
ハルミ:「なら、最初の部屋に戻れってことか」
ケント:「へっ、なんで最初の部屋?」
ハルミ:「記憶力が鳥だね」
ケント:「頭、クルッポーで申し訳ない……ってさすがに辛辣すぎだぞ!」
 ハルミとケントのやり取りにメリッサが割り込む
メリッサ:「あらあらあら、こんなところにいたのね、美味しそうな子ねずみちゃんたち」
ハルミ:「っ! コウモリ……痛みが足りなかったみたいだね」
コウモリ:「ひぃっ……ボクは呼んでいません」
メリッサ:「そうよぉ、コウモリちゃんは関係ないわぁ。私が勝手にあなた達を見つけただけ」
ケント:「おわぁ! エッチなお姉さんだ!!」
メリッサ:「まあ……初対面でずいぶんと思い切ったことを口にする方ですこと」
ハルミ:「ケント、コウモリを預かってて。逃げないようにしっかり関節をきめるんだ」
ケント:「ほえっ、関節を? 俺、そんな技量ないよ……てかハルミ、コウモリのこと懐柔したって言ってなかったか?」
ハルミ:「細かいことはいいの。とにかくコウモリが逃げないよう捕まえてて。私はもうひと頑張りしないといけないみたいだから」
ケント:「お姉さんにも蹴りを食らわすの!? えっ、てことはあの人、化け物側なん、そういうの早く言って!? エッチなお姉さんとかナメたこと言っちゃっただろ!」
ハルミ:「あなたには悪いけど、全力でいかせてもらうよっ!」
メリッサ:「ええ、それなら私も全力でいこうかしらね。砕けぬ金剛、我を守りし盾」
ハルミ:「なんだコレは!?」
ケント:「エチおねの前になんかものすごそうなシールドが出現した!!」
コウモリ:「エチおね?」
ケント:「エッチなお姉さんのこと!」
ハルミ:「深堀り解説するとこ絶対そこじゃなかったよね?」
メリッサ:「……今のは私の魔法よ。呪文にあわせて盾が出現したの」
ケント:「本人解説、ありがてぇ!」
メリッサ:「馬鹿にしてるの?」
ハルミ:「よそ見厳禁!!」
メリッサ:「残念、当たらないわよ」
ハルミ:「あの盾、コンクリみたいに硬い……」
ケント:「ハルミッ、頑張れ! お前が負けたら俺も終わりだ!」
ハルミ:「なんて情けない声援……でも……だから私はここで負けられない」
メリッサ:「愛のために戦うのね、素敵だわ。あなた美人さんだし、ますます魂を食べてみたくなったわぁ」
ハルミ:「私みたいな性悪の魂なんて食べたらお腹を壊しますよ。まあ、食べられる気もありませんが」
メリッサ:「魂の幽閉、思考は楔(くさび)に打たれ、忠誠の炎が汝の胸に燃ゆ、意志を我が意に従わせん」
ケント:「ん? 今あの人なんて言ったの?」
コウモリ:「メリッサさまの勝ちでございます」
ケント:「そんなわけないだろ、ハルミはまだなにもされてない」
ハルミ:「あ……う……」
ケント:「ハルミ?」
メリッサ:「ハルミちゃんっていうの~? カワイイ名前ねぇ、頭ナデナデしちゃおう、よーしよしよし」
ハルミ:「……ん」
ケント:「ファーー!? ハルミが、大人しくエチおねのナデナデを受け入れているだと!? 何が起こっているのでしょうか、解説のコウモリさん!」
コウモリ:「……メリッサさまは服従の呪文をお使いになったのです。あの人間はメリッサさまの思うままに動かざるを得ません」
ケント:「エチおねは使う魔法もエチ寄りなんだな」
メリッサ:「そこのあなた、いま失礼なことを言わなかったかしら?」
ケント:「え、俺ですか。違うと思いますねぇ」
コウモリ:「わかっておいでだとは思いますが、あなたピンチですよ。頼みのツナのあの強い人間がやられてしまっては何もできないでしょう」
ケント:「コウモリが助けてくれたりは」
コウモリ:「しませんね。メリッサさまと敵対する理由がありません」
ケント:「ハルミィ! 起きろぉ、起きてくれ、お前がやられちまったら誰が俺を守るんだ!!」
メリッサ:「ハルミちゃんって、男の趣味は悪いみたいね……あまり情けないことを口にしないでちょうだい、食べる気が失せるわ」
ケント:「やだっ、食べられたくないもん! 食べられないなら、めちゃくちゃ情けないやつでいい!」
メリッサ:「ハルミちゃんが可哀想になってきたわ……。もう黙りなさい。魂の幽閉、思考は楔に打たれ、忠誠の炎が汝の胸に燃ゆ、意志を我が意に従わせん」
ケント:「うっ……」
メリッサ:「コウモリを解放しなさい」
ケント:「はい……」
コウモリ:「お助けいただき、誠にありがとうございます、メリッサさま」
メリッサ:「大したことはしてないわ。ウルフと合流して食事にしましょう」
コウモリ:「承知しました」
メリッサ:「ハルミちゃんと情けなさ男(なさけなさお)くんもついてきなさーい」
コウモリ:「お食事の際のお飲み物はなにがよろしいでしょうか」
メリッサ:「うーん、そうねえ……ベタだけど赤ワインかしら……」
コウモリ:「承知しました、ご用意いたします」
メリッサ:「ようやく食べられると思うとワクワクしちゃうわね、ね~ハルミちゃん……えっ?」
 メリッサ、後ろを振り向く
ケント:「あっ、やべ。ハルミはお前にゃ渡さねえ! ほな、さいなら〜〜!!」
 ケント、ハルミを抱えて逃走
メリッサ:「……どういうこと、あの男には私の魔法が効いてなかったの?」

ー廊下
ケント:「ハルミ、正気に戻ってくれ。なんであんなよくわかんねえ呪文にかかっちまってんだよ」
ケント:「日本語でなんかごちゃごちゃ言ってたけど、意味が全然わからなかったな」
ケント:「もしかして、馬鹿には効かない魔法だったのか?」
ケント:「馬鹿で良かったと思う日もあるんだな。やったぜハルミ、俺が馬鹿なおかげでピンチを脱したぞ。讃えよおバカをあ~あ~〜」
 沈黙
ケント:「目は合ってんのに話してくんねえのな。まるで人形だ」
ケント:「ハルミぃ……いつものお前に戻ってくれよぉ……」
ケント:「……お前だけは絶対に俺が逃がしてやるからな」
ケント:「歩けるか? ……無理そうだな。大丈夫、俺は優しいからなお前ひとりくらい背負ってやるよ」
コウモリ:「見つけました! ウルフさま、こちらです!」
ケント:「やべぇ、見つかった。ちょっと飛ばすぞ、舌噛むなよハルミ!」

ウルフ:「客人を走らせるな、コウモリ」
コウモリ:「申し訳ありません……」
ウルフ:「しかしまあ、ちょこまかとすばしっこい人間だな」
コウモリ:「メリッサさまの魔法でひとりは動けない状態になっているはずなので、そう速くは移動できないかと思います」
ウルフ:「メリッサのやつ、戻ってこねえと思ったら人間イビって遊んでやがったのか」
コウモリ:「メリッサさまは愚鈍なコウモリにお力添えしてくださったのです」
ウルフ:「んで、それでもまた逃げられたと……メリッサも焼きが回ってんじゃねえか」
ウルフ:「はあ……たかが人間相手に狼の姿になるのはちっとダセェ気もするんだがなァ……いい加減に腹が減ったんだよなァ……」
 ウルフ、狼に変身していく、唸り声は徐々に大きく
ウルフ:「グルルルルルゥ……アオーン!」

ケント:「ガチ遠吠え聞こえた!? 狼いるのこの屋敷!? あれかさっきの犬耳オジサンか!」
 獣の駆ける足音
ケント:「ヤバいヤバいヤバい! 追いつかれるっ!」
ウルフ:「ハァッハァッハァ」
ケント:「一か八か、あの声の主とハルミを信じるしかねえ」

ー最初の部屋
ケント:「はあはあはあ……あんなに動き回ったのに結局最初の部屋に戻ってくるなんて変な感じだぜ……」
ケント:「出口はどこだ、クローゼットは……違う、ベッドの下は……違う。んぎいいぃ、壁が実は隠し扉になってるとかっ……」
ウルフ:「この辺のはずなんだが、どこ行きやがった(犬っぽく鼻を鳴らす)」
メリッサ:「あらぁ、ウルフ。ワンちゃんの姿になってるなんて珍しいわねぇ」
ウルフ:「メリッサ……ワンちゃんはやめろ。今までどこにいたんだ」
メリッサ:「剥製の間で例の二人組を追い詰めたんだけど、なぜかアホっぽい男の子のほうには私の魔法が効かなくて……逃げられちゃったのを追いかけたら、ちょうどウルフと合流したってわけ」
ケント:「やべぇ、エチおねもきたっ……絶体絶命じゃん、俺たちここで喰われるのか……なぁ、ハルミっ……ハルミ……」
ハルミ:「…………」
ケント:「ははは、返事なしか……最期になりそうだし、どうせだから言っとく、死ぬのは嫌だし怖い。だけど一番す……一番大切なやつと最期が一緒ってのは悪くない」
ハルミ:「…………」
メリッサ:「この部屋からハルミちゃんにかけた魔法の気配がするわね」
ウルフ:「退けメリッサ、俺が仕留めてやる」
ケント:「くっ……死ぬときゃ一緒だぜ、ハルミ」
 扉が壊れる音
ウルフ:「待たせたな、ごちそうども!」
メリッサ:「あら?」(気のせいかしら、この部屋、妙な気配が……)
ケント:「うわああああああ、こっち来んなぁあああああ!!」
ウルフ:「来るなと言われりゃ余計に……グッ!? なんだこいつは!?」
ケント:「お前はっ!? 包帯ぐるぐる男!!」
メリッサ:「あらあらあら、あなたクロムちゃんが剥製にしちゃった子ねずみちゃんじゃない。まだ魂が残留していたのねぇ」
ウルフ:「クソッ、布切れが目に貼りついてきやがる! ガァルルァ、邪魔だぁ!!」
ケント:(包帯ぐるぐる男は剥製になってた人と同一人物ってことか?)
ケント:「ってことは味方! 出口を教えてくれえええええ!! えっ、上!? 上見ろって!?」
ケント:「あれはっ、ラブホ鏡!! あれが出口なのか!?」
ケント:「おおおおお! 鏡の奥に俺の部屋が見える! ハルミ、しっかり掴まれ、俺たち帰れるぞ!」
メリッサ:「このままじゃ鏡に吸い込まれて逃げられちゃうわねぇ……コホン……ハルミちゃーん、そんなさえない男はポイってして、こっちに戻ってらっしゃい」
ハルミ:「うう……うー……!」
ケント:「こらっ、ハルミ暴れるな! おっ、落ちる……! あ~~ッ、クソクソクソクソッ!! 俺の腕は千切れてもォ!! ハルミだけは離さない!!」
メリッサ:「あら、かっこいい。やるときはやるタイプかしら」
ウルフ:「ガゥルルル……布切れ風情が邪魔しやがって……。ああ、喰いそこねた、また、喰いそこねた……! せめて一口だけでも味わってやらなきゃあ、気が済まねえよな! ガァウア……!」
ケント:「ッ!? ハルミ危ねえ!! うっ……あああああああああ!!!?」


ーケントの部屋
ハルミ:「ううん……ふわぁあ……(あくび)」
ハルミ:(なんだか長い夢を見ていた気がする。大変なことがあったような……うーん、思い出せない……)
ケント:「はあっ……はあっ……」
ハルミ:「うわぁっ!? なんでケントがここにまさか夜這い…………あれ、私……前にも同じことを言ったような?」
ハルミ:「ここ、ケントの部屋だ……。なにがどうなってるの? ちょっとケント起きて……あつっ、すごい熱……えっ……なにこれ血? 足がズタズタじゃないか!? ケント、ケント大丈夫!?」
ケント:「ううう……。ハル……ミ……? 無事か?」
ハルミ:「私の心配をしてる場合じゃないよ! ケント、すごい熱がっ、血も出てるっ、いま救急車を呼ぶから!」
ケント:「サンキューだぜ、マイスイートハニー……骨は拾ってくれよな……」
ハルミ:「馬鹿言ってるんじゃない!! 次に縁起でもないこと言ったらシメるからね!!」
 ハルミ、枕元にあったケントのスマホで救急にかける
ハルミ:「早く繋がれっ……救急です! 救急車を1台お願いします! 男性が1名、足を負傷してひどい出血をしています、高熱も出ていて……ええ、意識はあります……住所は」
ケント:(ハルミは正気に戻れたみたいだな……結局あの場所はなんだったのか、わからずじまいだけど……あまり考えないほうがいいやつなのかもしれない……)
ケント:「夜も明けた。あの恐ろしい夢は終わったんだ……」

終わり

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