見出し画像

ひそやかな足音。小さな毛玉。

犬と暮らせる人は幸いです。その人は、友達を得られるからです。

猫と暮らせる人は幸いです。その人は、裏切らない恋人と暮らせるからです。

 だけど、犬とも猫とも暮らせない私はどうやって幸いを手に入れよう。

 それで、ハムスターを飼うことにした。

 家族に犬の毛猫の毛アレルギーがあり、「家の中で動物を飼うなんて不潔」なる潔癖な家族があり(どんな高貴な生まれかと思いきや、私と同じ素敵庶民である)、犬猫は諦めざるを得ない。だけど、ペットと暮らしたい。触れ合えて目があう、温かい生き物と。


 まんが「ハムスターの研究レポート」をごぞんじですか。

 あれを読めば、大抵の「ハムと暮らす喜び」は網羅されている。温かい気持ちになる。あと、一匹も死なないので心安けくいられる。

 というわけで、ある日全く唐突にハムをお迎えした。大人の行動力と財力と運転免許ばんざい。

スクリーンショット 2020-01-20 11.39.30

 こちらは我が家2代目のハム、「ハニー・プリン」通称プリン。目の大きい子。

スクリーンショット 2020-01-20 11.38.55

 こちら、初代の「カスタード・プリン」。「プリン」と命名したわたしに「カスタード」を付け足したのは現在中一の長男だ。当時彼はプリンを食べられなかったのに。

 ネズミといえば「チュウ」の鳴き声だけど、ハムは鳴かない。よっぽど追い詰められたら「ヂヂヂッ!」というらしい。聞いたことないけどありがたいことに。

 静かな彼は昼間はずっと寝ていてもう最高級に静かにしている。巣材をこんもりと盛り上げた中で、ふっかふかの毛の塊になって埋もれている。ときどきもぞもぞ動き、寝床の横にためているフードをカリカリ食べる。…なんていう怠惰で羨ましい生活だ!代わってくれ!

 夜になるともぞもぞ起きだしてくる。まずは丹念に毛づくろいだ。ずんぐりした体を短い腕、小さな指先で丹念にかき回し目を細めている様は何かの仕掛け人形のようだ。いつまで見ていても飽きない。あと、一しきり掻いたら、その指先をパクリと口に入れる。う、うん、たんぱく質は無駄にしちゃいけないよね!

 そして今までののんびりした暮らしぶりからは嘘のように活発に動き始める。健康なハムのケージに不可欠なもの、回し車に飛び乗り、猛然と回し始める。ぜったいスマホ充電できるくらい回してる。試したことはないけど。調べたところによると、野生のハムの縄張りは数十キロ四方に及ぶ広さで、食べ物の乏しい砂漠地帯な故に広い縄張りで一人暮らし、一晩中駆け回ってやっと一日の食べ物をかき集められる仕組みだそうだ。根っことか。虫とか。喰っちゃ寝ライフでも十分生きていけるはずのペット生活に身を落としても、彼は本能の求めるまま走ることをやめない。本気で回し車を回している。だって、しばらく走ると止まって見回して「どこまで来たかな?あれ?代わってないな?なんでだろう」ってやってるもの。ああかわいい。

 ハムスターは好奇心の強い生き物だ。

 そして、縄張りのパトロールを守りたい生き物だ。

「お外!お外見たい!だして!」とおねだりし、だしてもらうと丹念に部屋の隅々まで走り回り(隅々すぎて一度だしたら次に姿を拝めるのはいつになるやらわからないこともある)、よっぽど満足しないと出てこない。普通。

 お膝に乗ってきたり、おやつをねだりにきたりは…まず、ない。愛想のない生き物なのだ。生きていかねばならないから。彼らの寿命はよくて3年だからね。お愛想売ってる暇があったら、走って、食べて、眠らねばならない。

 でも、ハムの性格が最も現れるのがお散歩のスタイルではないかと現在3代目と暮らす私は思う。

 高みを目指すことに生きがいを感じていて、ピアノの上やらカーテンの頂上やらを目指して毎日登頂めざしてアタックを繰り返していた1代目。

 臆病なくせに、腹ばいでスマホチェックするわたしの背中やら肩やらを駆け回っていた2代目。

 慣れたらすっかり気を許し、部屋の中央に置かれた楕円形のラグに沿って、スイッチを切り忘れたプラレール(新幹線・のぞみのように)並みにぐるぐる走り続ける3代目。ぜったい「たーのしーーーい」って言ってるやろあんた。

スクリーンショット 2020-01-20 11.52.46

 ハムは優しい。視力は周囲数十センチ限定のど近眼、しかも目は周りを警戒する用で口元手元を見るには向かない場所についている。そんな彼に手からフードをあげると、嗅覚とヒゲの触覚を頼りに一粒一粒注意して拾ってゆく。けっしてわたしの手や指にキバをあてないように、ペロリと舐め取るように拾う。赤ちゃんの頃は時々噛まれたのにこの頃全くその様子がないので、気を使ってくれるのがわかる。寝床でもぞもぞしているところへ好物の人参なんか持って行ってやると、その姿勢のまま食べればいいのにちゃんと姿勢を正して受け取るところがたまらない。

スクリーンショット 2020-01-20 11.46.22

 3代目のハムは今までと毛色が違って「カラードハムスター」という。カラードとは言っても赤でも青でもない。白と茶色のまだらで脇にシナイ半島のような模様があるから地図→「チーズ」という名前。

スクリーンショット 2020-01-20 11.51.49

 チーズはきっと好物だ。こってりして栄養があって美味しい。でも、チーズにチーズをあげることはしない。自然環境下に暮らすハムがチーズやひまわりの種のような高脂肪食を口にする機会はまずない。塩分も。人間にとっては微量でも、体重150gのおちびさんにはバケツ一杯の量かもしれない。わたしは彼に穏やかなハム生をすごしてほしいから、チーズをあげない。
 食べて、寝て、散歩して、おしっこして、ときどき私を見上げてくれたら。ピンクの鼻をひくひくさせてくれたら。

 わたしはきみがすき。きみをまもりたい。


#我が家のペット自慢

この記事が参加している募集

#我が家のペット自慢

15,677件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?