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土に詩という種を植えたら物語という木がはえてきた

原案/カナモノユウキ
作/タナエリスケリー

麗らかな青空

風が吹いた瞬間に時が止まる

そして風は時として緑の波になる

自然という生き物は、どうやら感情豊かな生き物らしい…

自然はわたしにある2つの情景を教えてくれた

【風光明媚(ふうこうめいび)…といわれる美しくて心踊るような景色】
木漏れ日に包まれたような
優しい心が温かいような
全て許されたような
そんな情景

【畏怖感(いふかん)…といわれる一瞬にして心も身体もフリーズして身震いしてしまうような景色】
風が吹き荒れ、
凍てつく痛みを感じるような
心がざわついているかのような
責められているかのような
そんな情景

ただ、「ような…」という表現を使っているこの時点で、この感情や感覚を言語化することは不可能に近い…

そして、風光空間と畏怖空間のどちらでもない野趣(やしゅ)空間に入ると
自分の意思とは関係なく
過去の記憶にタイムスリップする

ただ、厄介だったのは
記憶なのか記録なのか想像なのか妄想なのか分からないくらいの幼い過去の自分に戻ってしまうことだ

不確かな記憶も
確かな記憶も
私にとってみれば過去は過去であり…
全てセピア色だ…

幼い頃の記憶が妄想でなければ、想像でなければ、わたしは異国の地で育った

ただ…環境に馴染めないわたしにとっては異国の地は異空間そのものだった…

ある日、いつものように母に連れられて買い物をしに市場に出掛けた

その帰り道…

軍服を着た男性二人組が
近付いてきた…

優しい眼差しながらも荒々しい口調で
「お前は日本人なのか?」と…
尋ねてきた

母はわたしの手をギュッと握り
わたしは恐る恐る、母の後に身を隠し、
頷けるだけ頷いた…
「手を出しなさい」と言われ…
両手ではおさまらない溢れかえるほどの種を沢山もらった…

「ただの種だ!持っていきなさい」「花は咲かない」と…

不揃い過ぎる種たちを見た瞬間、
衝撃が走った…
その種は、見た事もない石のような種…
本当に、これは種なのだろうか…
そもそも、花が咲かない種って…
違和感でしかなかった…

そして衝撃が走った理由は
他にもあった不揃いの種は、
わたしの心そのものだった
当時の幼いわたしは
不揃いだらけの感情のパーツを
心に溜め込んで秘め込んでいた

不揃いの種を見た瞬間に違和感を感じたのは自分自身そのものが違和感の塊だったからだ

わたしは、この日にあった出来事を帰宅してすぐ、異国の地の言葉で日記に記した

ただ、この瞬間からだったような気がする…
モノガタリをモノガタリとして描きはじめたのは…
そして、それは自分の…自分自身の居場所を見つけた日…

不揃いのパズルが…
けっして、はまることがないパズルのピースが、不揃いの種を得た瞬間に奇跡的に私のどこかの一部にリンクして、
偶然に、はまってしまった

そして、モノガタリという世界観を描くことで感動という心を揺さぶられる、
目頭が熱くなるような深い感情に堕ちた

モノガタリというストーリーは
誰にでも存在する

そして、自分自身のモノガタリの存在に気付けるのはごくわずかな…
きっと…限られた人だけ…

いつか、わたしもその域に…行きたい

ただ、まだまだ自分探しの途中だから…
重たい荷物は置いていく…
必要最低限の想いと希望を
心のポケットに入れて
自分自身を探す旅に出掛ける

幼少期に異国の地で日記に記した記録は時を経て記憶として蘇った

"土に詩という種を植えたら物語という木が生えてきた"

この言葉そのものが、モノガタリの向こう側だ

◆あとがき◆
素敵な美しい言葉を紡げる方の言葉は
心地よい音として奏でられて耳へ届く、そして心に届く頃には温かい優しいものに変わっていく、まるで淡雪のような、儚くて美しい…
カナモノユウキさんへ
感謝の気持ちを込めて

※朗読用ではありません。


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