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漆黒の十字架

作/tana.Ellis.Kelly

出演キャスト様
朗読あん様
しゃちょー様
嬉読屋しおん様

◾️1人の女性の淡く切ない恋物語…
私が好きになったのは…絶対、好きになってはいけない人だった…
心に秘めて…心に留めて…それだけで良かった…

登場人物・人物像、設定
◾️鳳来(ほうらい)まりあ/朗読あん様
鳳来家のお嬢様(28歳)
内気な性格、幼い頃から気管支に病を抱えていた。内気な性格というのもあり、気の許せる友人もおらず、成人して大人になってからも1人での外出、外部との連絡をとることも許されず、ただただ、自分の部屋に引きこもる生活をしていた。
そして執事である高崎に密かに好意を抱いていた。

◾️高崎遼一/しゃちょー様
鳳来家の執事(42歳)医師の免許をもつ。鳳来家で14年勤める。
優しい性格、自分の家庭よりも恩人である鳳来家の家族を大事に想っていた。
鳳来家での任務は主に、まりあのお世話係であり、まりあの主治医であった。
まりあの事を密かに…

◾️高崎しおり/嬉読屋しおん様
遼一の妻(42歳)
遼一と結婚して17年、子供はおらず、夫婦2人だけの生活を楽しんでいた。
ただ、遼一が自分との生活よりも鳳来家に感情が向いてる事に不満を抱いていた。

-物語スタート-

高崎「お嬢様、おはよう御座います。今朝はコーヒーになさいますか?それともお紅茶にされますか?」

まりあ「高崎…今日は、とても気分がいいの…外に出たい、お願い…どこか連れて行って」

高崎「それでは、旦那様と奥様にそのようにお伝えして参ります」

まりあ「高崎…父上、母上には内緒で連れ出して欲しいの」

高崎「それはいけません!お嬢様!」

まりあ「私には自由がないのね、鳥かごに飼われている鳥と一緒ね、いいえ、鳥の方がきっと私より自由なはず」

高崎「お嬢様…なんてことを…旦那様と奥様は、お嬢様がご心配で…」

まりあ「自由に外出も出来ない!こんな生活、息が詰まりそうよ」

高崎「では、高崎からご提案なのですが、お庭でのお散歩はいかがでしょうか?それなら旦那様と奥様の許可はいらず、お連れする事が出来ます」

まりあ「散歩…それも良いな、高崎とゆっくり歩きながらお喋りするのも、わるくないわね」

高崎「それでは参りましょう」

〈散歩に出たふたり〉

まりあ「風が心地良い、散歩も良いものだな、ところで高崎は鳳来家の執事になって何年になる?」

高崎「かれこれ…14年でしょうか…」

まりあ「わたしが14歳の時だったな…そういえば、どういった経緯で、鳳来家へ?」

高崎「はい、もともとわたくしは、亡き父の小さな診療所を継いで医師として働いておりましたが………
あっ、すみません…業務に関係ない話しはしないように…と旦那様から…」

まりあ「そんなのは良い!話してほしい、私が高崎の話しを聞きたい」

高崎「はい、経営がうまくいかず、そんな時に、亡き父の友人であった、鳳来家の旦那様が私を鳳来家で雇ってくださり、お嬢様の主治医、お世話係として家族同様なお付き合いをさせて頂く事に…」

まりあ「診療所のことは父上から聞いたことはあった、大変でしたね、私は、そなたの事を知っているようで知らない事もまだまだ多い」

高崎「そうでございますね、基本、業務に関係ない事は話さないように旦那様に言われておりますので」

まりあ「…そういえば、しおりは元気?ここ数年、しおりには会ってはいない、私の事を避けてるのでしょうか…」

高崎「はい、元気でございます、いえ!そのような事はけっしてございません」

まりあ「高崎は、しおりの事…女性として、好きという感情はある?」

高崎「好きで一緒になりましたもので…ただ、もう男女というよりは家族という感じでしょうか…」

まりあ「うんうん…うんうん…そうか…」

高崎「お嬢様、うちの家内の話はもうこの辺で」

まりあ「高崎!今から話すことは私の、ひとりごととして聞いてほしい…」

高崎「…なんでしょうか…お嬢様」

まりあ「私は、高崎、そなたに恋焦がれている、それは男性として、
高崎には、しおりが居る事も分かっている、でも、頭では分かっていても心はそなたの事ばかりを考えてしまう…」

高崎「いけません、お嬢様」

まりあ「伝えるつもりはなかったのだ…ただ、この心地よい風が、
今、私の背中を押してくれた、
そのような気がしたのだ、
自然のままに心のままに、私だって生きたいのだ、今この瞬間のこの想いをこの心地よい風にのせて、言わせてほしい…」

高崎「お嬢様…」

まりあ「高崎!でも今、話した事は忘れてほしい、ただ、珍しい鳥が飛んでいたな…くらいの一瞬の出来事くらいに想っていてほしい」

高崎「……
お嬢様、そろそろ日が暮れます、お屋敷にお戻りに…」

まりあ「そうですね…戻りましょう」

〈高崎家にて〉

高崎「ただいまー」

しおり「おかえりなさい、ご飯はどうなさいますか?」

高崎「あぁぁ…今日はいい、ビールだけもらおうかな」

しおり「ダメよ、少しでも何か食べないと…ご近所さんから根菜類頂いたから、筑前煮にしたのよ、あなた好きでしょ?」

高崎「あぁぁ…じゃぁ、それ、もらおうか」

しおり「なによ、そんなに疲れ果てた顔をして、鳳来家でなにかあったの?」

高崎「いや、なにもない」

しおり「はい、ビール、筑前煮」

高崎「ありがとう、いただきます」

しおり「うん…うん、うまい」

高崎「なぁ…しおり…俺と結婚して良かったか?」

しおり「なによ、突然…。そうね、子供はいないけど、夫婦2人だけの生活も、あなたとだから楽しんでこれたと思ってるの。あなたは?私と結婚して良かった?」

高崎「医者の息子で後継ぎだの言われきたが、結局は小さな町の診療所の医師で親父が亡くなってからは借金を抱えての暮らしだったから、そんな家に嫁いで共に生活をしてくれたお前には感謝だよ」

しおり「ねー…あなた、あの小娘のこと、なんだけど…」

高崎「小娘って…」

しおり「まりあよ!まりあ!」

高崎「お前、お嬢様のことをそんな言い方…失礼だぞ!やめてくれないか?」

しおり「ずっと気になってた、ずっと気にしないようにしてた…あなたが、あの小娘の話になると、鳳来家の話になると、必ず顔色が変わる事」

高崎「鳳来家の旦那様には世話になってきたんだ、お嬢様にも」

しおり「こき使われているだけじゃない、あんな小娘の世話係、あなたがやらなくても他に代わりがいるわよ」

高崎「それくらいにしとけよ、それ以上言うと、お前の事…」

しおり「何よ!言いなさいよ!診療所の借金を肩代わりするかわりに持病持ちの娘の世話をさせるなんて、旦那様もどうかしてる、そして、それに応じるあなたもどうかしてるわよ」

高崎「お世話だけではない、お嬢様の主治医でもあるんだ」

しおり「医師として仕事がしたいのならば働き口は沢山あるでしょ!勤務医として病院に勤める事も出来る」

高崎「いや…」

しおり「あなた…もしかして…いや…まさか、そんなはずはないと思うのだけど」

高崎「なんだよ」

しおり「あなた…あの小娘の事が好きなの?1人の女性として」

高崎「はぁ?何を言っている、ふざけた事を」

しおり「はぁぁぁ…呆れた…やっぱり、そうなのね、そうだったのね…」

高崎「おい、バカげたことを」

しおり「許さないわ!こんな裏切り方…絶対、許さない」

高崎「勝手に想像して勝手に怒るなよ」

しおり「あなたもあの小娘も絶対、許さないわ」

〈翌日〉

高崎「お嬢様おはよう御座います、本日の朝食は旦那様、奥様と御一緒にお召し上がりますか?それともお部屋にお持ちしますか?」

まりあ「高崎…どうしたの?…顔色が悪いわ」

高崎「いえ…何もありません。」

まりあ「いや……おかしい…私には分かる!父上に何か言われた?それとも、しおりと何かあった?」

高崎「いえ、何もありません。」

まりあ「高崎!!!話して…話してほしい」

高崎「私がお嬢様に話せることは、業務に関することのみ」

まりあ「高崎…2人の時は、2人だけの時は、そのような話し方も態度もやめてほしい」

高崎「私は、お嬢様の執事、ただそれだけの関係なのです、それ以上それ以下でもなく」

まりあ「私は高崎が好き…男性として、でもそれはいけない事であることも分かっていて…」

高崎「お嬢様その話は…もうおやめください」

まりあ「もしかしたら、高崎も私と同じ気持ちなの?この前、2人で散歩した時に、もしかしら?と…。
もし、もしよ、高崎が私に対して特別な感情があるのなら、ただ、2人だけにしか分からない関係でいたい」

高崎「お嬢様…これまで自分で自分の気持ちを押し殺して参りました。私はただの執事だと、お嬢様に特別な感情は抱いてはいけない…と」

まりあ「た…高崎」

高崎「だから、自分の気持ちは気持ちとして秘めておく方が良いと…」

まりあ「もし、そなたが、そなたの心が許すのであれば、2人にしか分からない感情を2人にしか分からない関係で、そっと誰にも気付かれないように続けていきたい」

高崎「お嬢様…」

まりあ「高崎…心の片隅の本音は黒いものなのよ、私は本当に欲しいものは心でとりにいく」

〈激しい物音と共にドアが開く〉

高崎「しおり!お前!なにをしに来た!?」

しおり「言ったでしょ!絶対許さないって、ここで、これを飲んで死んでやるわ」

高崎「やめろ、やめろ」

しおり「あんた達、2人は、ずーっとこれからこの先、死ぬまで、苦しみながら、私に申し訳と想いながら生きていくのよ…(不敵な笑みをこぼしながら)…
さようなら」

まりあ「きゃゃゃぁぁぁ」

高崎「おい!しおり!しおり!しっかりせろ!しおりーーー」

〈毒薬を飲み、そのまま息を引き取ったしおり…
その1ヶ月後…しおりのお墓にて〉

高崎「お嬢様、こちらにいらしたのですか?」

まりあ「高崎…しおりは、そなたのことを本気で愛していたのだな」

高崎「お嬢様…すみません」

まりあ「何を謝っているの?高崎は何も悪くない、悪いのは私」

高崎「家内…いや、しおりの事を大事にしてあげれなかった、幸せにしてあげれなかった私の責任です」

まりあ「しおりが言っていたように、これからは、しおりに申し訳ないと想いながら生きてゆく…」

高崎「お嬢様は何も背負わないでください、お嬢様がどうしても背負うというのならば、私がお嬢様の分も全て、背負います」

まりあ「では、私は十字架を背負って生きてゆく、それも漆黒の十字架だ」

高崎「お嬢様…罪人は、高崎だけで十分です」

まりあ「高崎、言ったであろう、
心の片隅の本音は黒いものなのだ、本当に欲しい物は十字架を背負ってでも心で取りにいく」

〈その後の2人は…
2人だけにしか分からない関係を、
そっと2人で続けていった…
2人だけの愛のカタチ…
それが禁断の愛であっても、
2人が愛というのならば愛なのだろう〉

原作/漆黒の催涙雨  Tana.Ellis.Kelly

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