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アソコが臭い


『おかえりー』
同棲している彼女の声が玄関にいる仕事終わりの僕の耳に届く。

リビングでテレビを見ていた彼女は、僕の方へ駆け寄り唇を重ねてくる。


僕の彼女は、若い。
若いといっても僕と4歳しか年齢は違わないのだが、20代半ばの4年は30代や40代の4年とは大きく異なると思う。
ついこの間まで学生だった彼女と、高卒で就職し8年間社会で働いてきた僕とでは経験の差か、元来持ち合わせた人間性の違いか、彼女の考え方や価値観は青く、真っ直ぐで、瑞々しさすら感じるほどだ。

でも僕はそんな彼女が大好きだった。
何事にも一生懸命で優しい性格、
笑った時に細くなる目、
僕が意地悪をすると決まってへの字に曲げる口、
美味しいものを食べるとこれ以上無いほどの幸せそうな表情をする。

彼女の全てが愛おしい。

話は変わるが、僕はSEXも大好きだ。

単純に性欲が旺盛なのもあるが、
僕にとって、というより人にとってSEXは、
会話や普通のスキンシップよりも一つランクが上のコミュニケーション方法だと信じている。

得意不得意もあるだろうし、その行為自体がコンプレックスという人もいるだろう。

でも出来れば僕は、
好きな人とは沢山SEXをしたい。


大好きな彼女と、大好きなSEXをする。

それが僕にとっての最大の幸福であり、
今の生活はそれが出来る。

しかし、僕は今、
人生最大の悩みがある。

その悩みとは、


臭いのだ。

彼女のアソコが。



アソコが臭いのだ。とっても。

アソコとは隠語とか比喩ではなく、
マから始まる女性のアソコだ。
おから始まることもあるアソコだ。

僕の彼女のアソコは、臭いのだ。
とっても。



唇を重ねてきた彼女の顔を薄目で見ながら、
あー好きだなーという感情と、
アソコが臭いんだよなーという感情が、
綺麗に5:5。見事なハーフ&ハーフ。

そこまで恋愛経験が豊富なわけではないが、
こんな事は初めてだ。
初めてどころか人から聞いた事もない。
この異常事態に僕の脳内は爆発寸前まで追い込まれていた。

しかも幸か不幸か、彼女も性欲旺盛なのだ。
いや、正直に話すと不幸だ。
もうハッキリ言わせてくれ、僕は不幸だ。

大好物のカレーにお汁粉をぶっかけて食べてるような、
干したばっかりの布団の上で知らない汗だくの太ったおっさんが寝転がってるような、
大好きな漫画の待ちに待った新刊の全ページに鼻糞がついていたような、
彼女とのSEXはいつもそんな気分にさせられる。

彼女がパンツを脱ぐとツンっと鼻をつく。
掛け布団の中に臭いが籠る。

どんな臭いかと言うと、ウンコだ。
もはやオブラートなどいらない。
ウンコです。
僕の彼女のアソコからはウンコの臭いがします。


誤解を招かない為に今一度言うが、
僕は彼女が大好きだ。

SEXの時以外は。


悩みに悩んで、本人にその事を伝える事にした。

本当はもう別れようかとも考えた。
でもここで僕が彼女と別れるのは、僕にとっても、彼女にとっても、果てには仮に僕と別れた後に彼女が次に付き合う男性にとっても、
それだけは駄目だと思った。

カレーとお汁粉を一緒に食べるのは僕だけで十分だし、カレーとお汁粉を一緒にして食卓に出しているという事実を彼女は知るべきだと思った。

彼女は、若い。

若いから、アソコの洗い方が分からないだけだ。
誰にも教えてもらえなかったのだ。
カレーとお汁粉は混ぜるのではなく、
それぞれ独立して出すべきという事を。

若さ故に知らなかっただけなのだ。


伝え方を2通り考えた。

1つ目は、冗談交じりに伝える方法。
これは圧倒的に僕の腕次第のところが大きい。
話の流れで彼女が僕をいじって来た時に、
おいおいなんだよマ○○臭いくせに!と冗談的な要領で伝えるのだ。

これのメリットは、
彼女自身に悟らせるところだ。

例えばA君がB君に対して、B君はいつも鼻毛出てるからな〜と冗談を言う。
するとB君は、出てねーよ!とツッコむも、本当に出ているのでは?という疑惑の種が生まれる。
そこからB君は日常的に鼻毛が出ていないかを気にするようになるという寸法だ。

しかし勿論、デメリットもある。
それはガチギレされる可能性だ。

その可能性は往々にしてあり得るのだ。
なんならその可能性しか無いとすら思う。
彼女からしたら根も葉も無い上に、急な下品かつ最低な下ネタだ。
こっちからしたら世界樹並みの悩みなのだが。

しかもガチギレされた時の良い返しが全く思い付かなかった為、ハイリスクハイリターンの方法なのだ。


2つ目が、真剣に伝える方法だ。
至ってシンプルで王道なやり方。

これのメリットは、
2人の関係に亀裂が入りにくいところだ。

誠心誠意込めて、彼女に正直に話す。

今まで黙ってましたが、アソコが凄く臭いです。
でも貴方は悪くないです。
洗い方を知らなかっただけかも知れないし、もしかしたら何かの病気のサインかも知れない。
だからまず、今日、しっかり洗いましょう。

これを言って受け入れてもらえば一気に解決の光が差し込むのだ。


しかし勿論、これにもデメリットがある。

それは、彼女を大きく傷付ける可能性がある。
それはそうだ。
社会人なりたての若い女性が、彼氏にアソコが臭いと伝えられるのだ。もしかしたら一生の傷になるかも知れないし、SEXに対して負のイメージを植え付けてしまうかも知れない。

更に余談的なデメリットがもう1つある。
そのデメリットは、
たぶん自分の人生史上一番気まずい空気になる可能性がある。
それが正直しんどい。凄い嫌だ。面倒くさい。
ぶっちゃけマジでだるい。なんで俺がこんな目にあわなきゃいけないんだよぉー。
という怠惰の感情が爆発寸前なのだ。


どっちの伝え方が、いいのか。

そんな事を考えながら、彼女が作ってくれたキーマカレーを頬張りながらテレビを眺める。

キーマカレーを水で流し込んでいた彼女が急に
あっ!と言い、僕に向かって言葉を発した。


ずっと言おうと思ってたんだけどさ、
チンコ臭いからちゃんと洗ったほうがいいよ!




、、、あっ
すんません。気を付けます。