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ガレージバンドで世界へ/Tamuraryoインタビュー(後編)


2020年6月3日、ニューEP「No Word」をリリースしたアーティストのTamuraryo。リリース後、Spotifyでは70ヶ国以上で再生されるなど、世界中で大きな反響を呼んでいる。月明かり、空き地の雑草、カセットテープ...。
日常の何気ないモチーフも、彼に掛かるとメロウでディープなサウンドに様変わりする。うっとり夢見心地、それでいて、肌に触れるようなざらざらした質感。そんなTamuraryoの楽曲はどのようにして生み出されているのか?
今回のニューEP「No Word」制作の背景に迫る――。

(Interviewer: SABU)

【プロフィール】
Tamuraryo(タムラリョウ)
アメリカ(コネチカット州)出身。小学校の時に日本へ帰国。茨城県で育つ。2019年に初のソロアルバムをリリース。現在、ソロ、バンド両方でアーティスト活動を展開する。2020年6月3日、ニューEP「No Word」をリリース。


夜の散歩と「言葉に落とせない」感覚

ーー前回のインタビューに引き続き、後半戦もよろしくお願いします。

よろしくお願いします。

ーーそんなこんなで完成したニューEP「No Word」ですが、これはどういうアルバムなんでしょうか。

夜にしかゆっくり出歩けなかったこともあって「夜の散歩」っていうのがテーマになっているんだ。「Under the Moonlight」(月明かりの下で)って曲から始まって、「Sneaking Grass」(草を掻き分けつつ)、「Cassette Tapes」(昔カセットで聞いた古い音楽を聴きながら)、「Deepest Ocean」(創作の海に潜って行く)っていうコンセプトで。わかってから聴くと、なんとなくアルバムの流れを感じられると思うよ。
状況的には...昼に外に出るとみんなマスクしてるし、そもそも外出していいのかよくわからない。でもずっと家にいると頭がおかしくなりそうになるから、夜に散歩してたのね。そうすると近所に空き地があって草が生えてて、そこで「Sneaking Grass」って曲が生まれて...そういうのを2週間くらい毎日続けていた。そのフィーリングの記録だね。

ーー「No word」というタイトルにはどんな意味が込められているんでしょうか。

やっぱり社会的にも落ち込む出来事だったから、今回のやつって。沢山の人が亡くなって。なんかな、形容する言葉がないというか...うまく言葉に落とせない感じだった。だから、すごく読みづらいんだけど「I am in hard depression ■■■ so I wrote these songs with no word」ってアルバム名になった。でも長すぎるから登録名は「No Word」にしたよ(笑)。黒塗りの部分にも文章が入っていたんだけど、デリケートな内容だから削除して文字を組み直してくれって言われたんだ。でも消すのは何か違うと思ったから、黒く塗りつぶした。

ーーそういう意味のタイトルだったんですね。

うん。制作面では、#stayhomeする中で自分のまわりにあるものを新しい視点で見つめ直すってテーマもあった。例えばEPの緑色の背景なんだけど、これは塗りじゃなくて写真なんだよね。たまたま自分が持っていた紙袋を接写してる。普通に色を塗ってるのかと思いきや、よく見るとモワついてるのはそのせいで(笑)。一部の色をスポイトでピックアップして均一に塗り直しても良かったんだけど、雑でロウな感じを残したくて。音だと、ドラムとかにもその雰囲気は残ってるかな。色々なものに関して、整え過ぎてない、切り取ったままの雰囲気が欲しかったんだ。

「No Word」のジャケット

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ーーなるほど。制作にもテーマがあったんですね。

ボンヤリとした空気のようなものだけどね。人間的に、雑な部分と細かい部分のバランスが普通の人とズレているってよく言われるんだけど、そういうところが出ているんだと思う。さっき言ったドラムの雰囲気とかもそうで。もっと自然に「人間が演奏しているように」もできたけど、ハットの音量を均一にしたりスネアをはやくしたりして、雑に寄せ集めた感じを残してる。音楽制作の雑誌とか見てると、人間っぽさを追求したりとかマシンらしさを求めたりとかそういうニーズがあるみたいだけど、そういう「キッチリした」ところじゃなくて、もっと境界を漂っているものに興味があるんだ。

Spotifyを通じて、世界中のリスナーと繋がる

ーーそういう部分が、今回広く受け入れられた理由なのでしょうか。

うーん...今回のEPって凄く沢山の人に聴かれているんだけど、そもそもそれが「受け入れられてる」からってのは微妙なところなんだよね。今回沢山の人に聴かれてるのはSpotifyの「Road Trip To Tokyo」(*1)っていうSpotifyがつくってる海外向けのプレイリストに入ったからなんだ。受け入れられているっていうか、「これどう?」って紹介されている段階だね。でも「ファンになったよ」ってメールとかも海外から来始めてるし、聴いた人に気に入ってもらえてそうな予感はしている。

*1 Road Trip To Tokyoのプレイリスト。「東京への旅のお供に、日本を代表するインスト楽曲の特集をどうぞ!!」と紹介されている。

ーープレイリストという文化があって、それで紹介されている形だと。

そう。俺Spotifyがめちゃくちゃ好きでリスナーとしても使ってるんだけど、Spotifyが他の配信サービスと違うのは、今まで1mmも知らなかった新しい音楽と出会えるところなんだよね(*2)。レコメンドに絶対の自信があって、とにかく色々推してくる。プレイリストもその一つで。

*2 Spotifyの検索結果。自身を音楽発見サービスと定義している

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アルバム終わったら勝手に違う曲再生されたり「そこまでするかぁ?」って感じもあるんだけど(笑)やっぱりそこから出会うんだよね。あれ? この曲誰? って。

Spotifyに関しては一つ面白い話があって。前のアルバムで「Cold night」っていう良い曲があって、「これが一番推されるかな?」って詳しい人に聞いたら「もうYoutubeに上がってるから、違う曲が推されるんじゃないか」って言うのよ。意味がわかんないから詳しく聞いたら、Youtubeにある=新しい出会いじゃないから、彼らは推さないだろうって。本当か?  って思ったんだけど(笑)Spotifyならやりかねないし、寧ろそのくらいしてて欲しいって気持ちはある。それくらい、Spotifyの発掘力は凄いからね。最近の個人的ヒットはbrakenceのpunk2ってアルバムなんだけど、これも使ってなかったら絶対知らなかったよ。

あと、Spotifyってミュージシャンにとっても良いサービスだと思う。今時珍しく音だけで勝負できるから。今の音楽業界って、SNSとかビジュアルも大事だし、音楽以外に出来なきゃいけない事が多いじゃん? 俺なんかビジュアルがダメすぎて、アーティスト写真とか生垣に顔を突っ込まされてるからね(笑)(*3)。Spotifyがあって良かったよ。俺は音楽以外はダメダメなタイプなんだ。

*3 アーティスト写真は、その辺にあった生垣に突っ込んで撮ったとのこと

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今作の手応えと今後への期待

ーー非常にハードな楽曲制作がようやく一段落したところですが、もう次の楽曲制作にも取り掛かっているそうですね?

取り掛かっているよ。今は俺の好きなシンガポールのシンガーソングライターの人と一緒にコラボ曲を作っている。会ったこともないし喋ったこともない人なんだけど、何とかコンタクトが取れて。さわやかなポップスを歌う人なんだけど、ちょっとダークでエッジーな感じの曲を試しているんだ。すごくレスポンスが早い人で、5月くらいにビートを送ったら、1週間くらいでボーカルの録音データが返ってきてビックリしたよ。それも凄いクオリティで! 今はエンジニアさんに出して、ミックス作業中。ボーカルはまだ自分でミックスできないね。

ーー会わないでデータだけでやり取りしているんですね。なんだかもう楽曲制作のプロセスそのものが従来のスタイルと随分変わってきてますね。国境も関係なくなってきている。

そうかも。個人的にはそっちの方がいいと思っているよ。特にアジアってもっともっと繋がっていいと思う。グローバルチャートが統一に向かう中で、アジアみたいなゆるいエリアの纏まりが、新しいエッジーなムーブメントの源泉になると思う。世界中でみんなが同じ曲を聴いているみたいな未来は、あまり想像したくないな。

ーーその他にはどんな活動を?

年内はシングルを何枚か出して、もしかするとアルバムも出るかもしれない。でも今は何もわからないな。EP出したばっかだし。自分のソロは結構仮歌まで入ってて、あとは歌を録れば、出そうと思えば出せるかな。でももう少し練ると思う。次のソロも千葉くんに沢山弾いて貰ってるよ。

ーーいい流れですね。創作のネタが切れるってことはないんですか?

いやもうここ1〜2ヶ月で2年分くらいの創作活動しているから(笑)、切れたら切れたでも良いかな。でも音楽性をガラッと変えて完全に新しい手法でやってるからマンネリにはまだなってない。これがギターアルバムとかならなっていたかもしれないけど、新しい手法だったから、次から次へとアイディアがでてくるんだ。今回出した4曲も、作った中で良かった曲というよりはインスト向きだった4曲って感じで。ボーカルものは別枠で良いのが沢山できて来ているよ。

ーー創作は順調そうですね。

うん。若い頃は自分が作品を出せるかどうかわからなかったけど、こうやって自分でつくって発表できて、今回はミニマムなスタイルでもクオリティが出せるってこともわかった。なんというか、いろんなことに関して「やってやれないことはないな」っていう感じは出て来たかなぁ。去年は台湾ツアーもやったしね。ROCKMADEの木村さんって人に組んでもらって行ったんだ。最高だったよ。

ーータムラさんのこれまでのパンク精神とDIYの実践の1つの結果というか、つまり「自分でやれる」っていうことを証明していく作業ですよね。それをやってきた手応えが、今回のEPリリースで強く感じられたと。

本当にそうだね。このEPが出るまではわからなかったけど、出してみて思ったのは、これでもう創作に関して「できるかも/できないかも」って悩みは必要ないのかなと思った。やるかやらないか、やりたいかやりたくないかって感じというか。ここ10年くらいかかって、いろいろなことを自分でコントロールできるようになった。これからは健康とかの方が大事な要素だと思う。健康に気をつけて、これからも頑張っていこうと思います。


ーーありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

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