暗闇の中に畏敬のものを感じる。オレは畏敬のものを感じるのが好き。

今日、ひとつの気づきを手にした。
なぜオレは夜明け前の朝散歩(スロージョギング)に惹かれてしまうのか。
小雨が降る中、アスファルトで固められた農道を走る。

日の出のタイミングに合わせて朝散歩に出かけてもいいのに、わざわざ薄暗い夜明け前に家を出て走りはじめる。
日の出の中、朝散歩をしたこともある。山の谷間から白に近い中心を持つ縁が濃い金色の朝日の塊が上がってくる。目が釘付けになる。また見たいとも思う。

しかしある日、スケジュールの都合でいつもより1時間早く起き、朝散歩をすることになった。いちにちのはじまりに朝散歩をすることはどうしても譲れなかった。
とはいえもう朝散歩というより夜明け前散歩だ。外は暗い。

そして、その日から夜明け前の散歩がはじまった。暗闇に魅せられてしまったのだ。天気の悪い日はいよいよもって薄暗い。
霧が立ち込めていたときは、怖れさえ感じた。この霧の向こうから突然20メートルくらいの真っ黒で細い手足を持つ怪物が現れてもおかしくないと思えた。

オレは子どもの頃、父方の祖母の家に泊まりに行ったとき寝る前によく祖母に怖い話をしてもらっていた。牡丹灯籠やお岩さん、番町皿屋敷や河童の話など日本の古典的な怖い話をしてくれるよう催促していた。

妖怪も大好きで水木しげるの妖怪事典を持ち歩き、ボロボロになるまで読み漁っていた。夏になれば「あなたの知らない世界」という夏恒例のテレビ番組から目が離せなかった。

暗闇はそんなオレと目に見えない世界をつなげてくれる、連れていってくれる。
畏敬の世界。そこに畏敬のものがいると感じさせてくれる。

人間である以上、どうしても肉体に引っ張られる。思考にしろ、感情にしろ、衝動にしろ脳も含めた肉体がつくりだす。その肉体には個人個人の性質も加わる。

オレはこの肉体から現れる性質が耐え難い。
人間である習性の縛り。

暗闇に潜む畏敬のものがオレをそこから少しだけ連れ出してくれる。
忘れさせてくれる。

オレの精神は肉体から溶け出して、暗闇と同化していく。
オレも宇宙の一部だと思い出させてくれる。

そんな夜明け前の暗闇が好きだ。

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