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髙橋多聞 独占インタビュー:新曲『Drive』で髙橋多聞が向かう先とは

2023年3月15日、オールジャンルオタクシンガーソングライター髙橋多聞のニューシングル『Drive』がリリースされた。
前作『透明』で見せた初期衝動的なロックの青臭さは鳴りを潜め、『Drive』はソウル的なグルーヴとサウンドのスイートさを強く感じさせる、正反対のアプローチの楽曲と言っても過言ではないだろう。
それは彼が2022年の夏に上京したことも大きく影響しているに違いない。
今回は髙橋多聞に新曲に込めた思い、そしてその心境の変化を聞いた。
本誌独占インタビューである。

(取材:村西竹刀)

根暗なんです。根暗が奏でるソウルミュージック、
「根暗ソウル」です。


―新曲リリース、おめでとうございます。今回は久しぶりのインタビューです。本日はよろしくお願いします。

なんでしばらくインタビューしてくれなかったんですか……?忘れられたのかと思ってずっと気にしてたんですけど……。

―すみません。なんかちょっとめんどくさかったんで……。

本音すぎる。

―さて、気を取り直しまして。新曲、お聴きしました。今までの楽曲とはかなりアプローチが違うように感じたのですが、どう言った心境の変化があったのでしょうか。

前作『透明』のリリースの後、「なんだかこの所ロックに寄りすぎてないだろうか?」と思ったのが始まりでした。2021年にリリースしたEP『Tamon's』から、意識したわけではない無いんですがロックばかり作ってたんです。僕にとってロックは自分を曝け出す事で。ずっと心をカツオ節のように削って曲を作っていたんです。それでだいぶ消耗してしまって。「このままだと音楽を続けられない!」と思ったんです。加えて2022年に上京して、環境がガラッと変わった事でこれまでの楽曲がある種パターン化しているように見えてきて、これはこのままだと先がないぞ、と。そういう訳で「これは何かブレイクスルーが必要だな」と思い、今までとは音楽的に違った面を出すことにしたんです。

―なるほど。その違った面というのは。

僕の音楽の原点は小学生の頃に出会ったクイーンなんです。クイーンといえばロックバンドのイメージが強いですが、実は彼らは80年代に入るころくらいからディスコ・ミュージックに傾倒し始めるんです。『ボディ・ランゲージ』とか『地獄へ道づれ』とか。最初はアルバムの中に1曲だけ隠れてる、みたいな感じだったんですが、それが全米で大ヒットしちゃって、『これはイケる!』と。それでその方向性で出したアルバムで失敗するんです。

―『ホット・スペース』(1981年)ですね。今では再評価の向きもあるアルバムですが、当時は商業的にあまり成功しなかったと言う。

時代を先取りしすぎたんですね。でも僕、クイーンのアルバムで『ホット・スペース』が1番好きかもしれない(一同笑)。『ホット・スペース』は音楽性でメンバー間でも意見が割れて、それが直接のきっかけかどうかは分からないですがメンバーの仲もギクシャクし始めて……。でも結果的にそれがすごくクイーンなんです。戦ってるんですよね、メンバー同士で「クイーンのサウンド」をかけて。それが彼らならではのディスコ・ミュージックを作り出している。で、『ホット・スペース』にはデヴィッド・ボウイも参加していて、彼も同じ時期にファンクに傾倒し始めて、それで『レッツ・ダンス』ですよ。

―ナイル・ロジャースがプロデューサーとして参加してますよね。こちらは大ヒットしましたが。

そうなんです!82年にはマイケル・ジャクソンの『スリラー』も大ヒットして、やはりクイーンは早すぎた(笑)。でも僕はクイーンをきっかけにデヴィッド・ボウイにハマって、それから徐々にマイケル・ジャクソンとかジェームズ・ブラウン、アース・ウィンド・アンド・ファイアーとかを聴き始めて、ファンクとかソウルとか、いわゆるR&Bに傾倒していた時期があったんです。今回は僕の中にあるそういう面を出してみようと思ったんです。

―なるほど。では新曲は「髙橋多聞流のR&B」なんですね。

そうなんです。「根暗ソウル」と言う言葉を使ってます。こういうジャンルの曲って歌詞の内容的にも大人っぽかったり、俺はセクシーだろ?みたいな強気さがあるんですが、僕はそうじゃない。根暗なんです。根暗が奏でるソウルミュージック、「根暗ソウル」です。それが今回の新曲のコンセプトです。

僕らは生きていかなきゃいけないわけで、
それがどんなに辛くても。だからハンドルを握って、
切り開いていかなきゃ、
切り拓いていこうよって歌でもあります。


―では、曲についてお聞きします。サウンド面ではどういった事を意識されたのでしょう。グルーヴィーなベースが印象的だと感じました。

そうなんです!今までは自分の曲は全て自分で演奏、もしくは打ち込みをしていたんですが、これも初めての挑戦ということでゲストミュージシャンに演奏してもらいました。Brandon Meeksというアメリカのベーシストです。彼はプロミュージシャンとしての活動と、他にもマイルス・デイヴィスの伝記映画にロン・カーター役で出演していたり、幅広い才能のあるミュージシャンです。僕はもともと彼の演奏をYouTubeで見たことがあって、今回思い切って演奏をお願いしたら快諾してくれました。彼のベースが入って曲が一気に垢抜けた感じがしましたね。

―なるほど。どうりでセクシーなベースだと思いました。セクシーといえば髙橋さんから最も遠い言葉ですからね。

まあ、よく言われますね。

―歌詞についてはいかがでしょうか。

歌詞は2020年にリリースした『生活』の「その後の話」なんです。『生活』で登場したカップルが、あれから色々乗り越えて、ひとつ先の段階に進んでいるんです。精神面で大人になっている。パートナーの後ろ姿を見ながら「ああ、楽しいな、でもいつかこの事も過去になって忘れてしまうんだろうな」と思っていたところから「それでもずっと一緒に生きていくんだ」と言う覚悟に変わっている。『Drive』ですから。今はしっかりと自分たちで人生のハンドルを握ってるわけです。

―なるほど。『生活』の後日談という訳なんですね。

そう。でもあれからけっこう時間が経ってるんで。『生活』ってすごく一方的な歌詞なんですよ。「君」を見ながら勝手にあれこれ考えて、色々あるけど「生活は続く」で締めくくる。あれはポジティブな言葉ではなくて一種の「あきらめ」なんです。自分にはどうしようもない「時間」とか「社会」とか、どうせいつかは何もかもそういうものに飲まれてしまっていくんだろうな、みたいな。それが成長して、「これからもずっと生活をつづけていこうよ」になった。自分たちの生活を自分たちで切り開いていこう、と言う思いになっているんです。

―髙橋さんには大変珍しいラブソング、と言う感じもしました。

こんなにストレートなのは初めてかもしれないですね。でも、ラブソングはラブソングなんですが、ウィズコロナの世界を生きていかなければいけない僕たち全員の歌でもあるんです。やっぱり……色々変わっちゃったじゃないですか。前と後では。でも僕らは生きていかなきゃいけないわけで、それがどんなに辛くても。だからハンドルを握って、切り開いていかなきゃ、切り拓いていこうよって歌でもあります。

―『Drive』と言うタイトルも髙橋さんには珍しい感じがしました。これまでは『生活』とか『遺影』とか、そういう言葉を選ばれていましたが。

ドライブって言葉には「ライブ」が入ってるじゃないですか。『生活』の英題が『Our Lives』なので、ライブとライブでかけてるんです。

―いや、綴りが違いますね。LとRが。

本当だ。

映画でよくある手法なんです。
『スター・ウォーズ』でダース・ベイダーが出てくると
『帝国マーチ』が流れる、みたいな。


―サウンド面でもかなり『生活』を意識されてますよね。『生活』の一部をサンプリングされていたり。

ですね。コード進行もかなり寄せた上で、少しだけ大人なコード使いになってます。シンセも同じ音色を使っていたり、演奏の仕方も似せたり、共通点を感じるように作ってます。間奏の「ホガホガ」みたいな音は『生活』のギターをぶつ切りにして加工したものですね。他にも『生活』のイントロのメロディーがそのまま使われている箇所もあるので、ぜひ探してみて欲しいです。

―サウンド面でも『生活』とのつながりを表現したと言う事ですね。

そうなんです。映画でよくある手法ですよね。『スター・ウォーズ』でダース・ベイダーが出てくると『帝国マーチ』が流れる、みたいな。

―え~、では本日はありがとうございました。

えっ、終わり?

―この後の時間の映画のチケット買っちゃってまして……。

前代未聞の終わり方だ。


一度話を始めるとなかなか止まらない髙橋多聞。今回もよく喋るので仕方なく無理やり終わらせたが、私が退出するまでずっと喋り続けていたという事を付け加えておこう。

また、この一連のやり取りがすべて彼の脳内で行われている架空のインタビューであることはさて置いて、『Drive』が押さえておきたい作品であることは間違いない。

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