第1話

2050年、東京銀座

一人の中年の男が歩いている。
行き先は高級ブランド店だ。

しかしながら彼の身なりはとても高級ブランド店へ似つかわしく無いものだった。
くたびれた長靴、薄汚れた紺のワークズボン、同じく薄汚れた水色のライトブルーのシャツ。
ぱっと見ガードマンか何かかと思われそうだが、実際は銀座付近のダウンタウン、築地にて働いているようだ。
長靴を履いていることから、おそらく想像される。

中肉中背という言葉がが恐ろしく似合う醤油顔の男、顔は目が細く、ぱっと見人相が悪い。

なぜこのような男が銀座の高級ブランド店に向かっているか、周囲の目も気にせず彼は迷うことなく入店した。

「いらっしゃいませ」

いかにも高級ブランド店の店員のような身なりをしている彼は続けた。

「今日はどのようなご用件でしょうか?トミー様」

「おー、真壁っち!とうとう今日がその日やねん!」

「トミー様、おめでとうございます!では早速準備いたします、少々お待ちください」

真壁は女性スタッフを数人集めるためにバックヤードへ入った。

トミーはやけにニヤついた顔をしながら、商品をただただ拝見していた。

「トミー様、お待たせしました、それでは始めましょう」

「おー!頼むわ!しっかり動画も回してくれな!ほんで隣にはーあの子がええな!」

「かしこまりました。橘さん、ちょっとこちらへ」

真壁は女性従業員の中でとびきりスタイルが良く、綺麗な女性を呼びつけた。

「橘さん、申し訳ないがこれに着替えて欲しいんだ」

「真壁さん、よく話が読めないのですが、私があの人から指名を受けたのでしょうか?」

「そうです、では着替えてください。」
真壁がそう言うと、橘はそそくさ試着室へ向かった

「トミー様、お飲み物はどうしましょう?」

「せやなー、冷えてないシャンパンある?」

「かしこまりました」

「橘ちゃーん?君も冷えてないシャンパンでええかな?」
トミーは、試着室で着替えている橘へ声をかけた

「はい、いただきます」
そう答えながら出てきた橘の姿は、一言で言うともったいない格好だった。
毛玉まみれのグレーのスエット上下に健康サンダル。

「お待たせしました、こちらシャンパン、ルームテンプラチャーです。」
真壁はイタリア訛りの英語でグラスを持ってきた。

「サンキューベリーマッチ!」
トミーはアフリカ訛りの英語で答えた。

「橘ちゃんもほらほら、乾杯しよ!」

真壁、橘、トミーの三人は乾杯をした。

「いやー真壁っち、いろいろありがとうじゃあ始めようか」

「かしこまりました、では橘さんはトミー様のあとをついて行ってください。」

「はい、真壁さん」

真壁の指示で橘はトミーの後に続く

トミーは一度店から出て、東銀座まで歩いた、橘はその後に続く。

「あのートミー様、どちらへ」

「あー橘ちゃん、心配せんといて、ちょっとこれから30分くらい撮影に付き合って欲しいねん。一つ打ち合わせとしては、その30分間は店員だったと言うことは忘れて、オレのめっちゃ仲良い友達を演じて欲しいねん」

東銀座の駅付近のベンチに腰をかけ、トミーはタバコに火をつけた。

「橘ちゃんも吸う?」

「いいえ、私は禁煙したので」

「そーか、てゆーかしたの名前教えてよ」

「麻美です、橘麻美」

「おーじゃあ、オレは麻美って呼ぶわな!オレのことはトミーで」

「わかりました」

「あとーその敬語はやめて欲しいねん、な30分だけやからさ」

「わかりました」

「ほなら行こうか!」

二人は銀座のあの高級ブランド店を目指した。

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