盲いた男の話

【詩】

 

盲いた男が見る世界は鮮やかで

陽のぬくもり、木々のざわめき

花の匂い、真夜中に鳴く鳥の声

盲いた男がまだ光を失う前には

形や色を認識してはいたけれど

対象の存在は見えていなかった

盲いた男はただまっすぐ生きて

学業に仕事に真剣に取り組んで

ロボットのように日々を重ねた

盲いた男はある日通勤電車の中

ひとりの女性に恋をしたそれは

胸を焦がして彼を焼き尽くした

盲いた男は仕事を生活を棄てて

ただただ彼女を一方的に愛した

しかし彼の愛は彼女に届かない

盲いた男は絶望し死を選ぼうと

高い崖のうえに立つが動けずに

ついには思いとどまりそうして

盲いた男は光を失うことを選ぶ

 

盲いた男が見る世界は鮮やかで

陽のぬくもり、木々のざわめき

花の匂い、真夜中に鳴く鳥の声

盲いた男の光を失う前と後の話

 

※晩年、光を失った亡父と、不器用な恋しかできない友人へ捧ぐ

 

tamito

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