時の海に還る

【詩】

 

ネットの海で言葉を拾う
「助けて」という言葉を拾う
誰に向けられたものなのか
自身のために発したのか
日付は2017年6月7日
ちょうど一年後の今日だ
僕はその言葉にコメントをつける
「何かできることはあるかな」と
しばらくして返信が戻る
「あらゆる意味で強くなって
一年後に会いましょう」
僕はその日から腕立て伏せと
腹筋とスクワットを50回
ジョギング5キロを日課にした
明日できることは今日行い
道端のゴミを拾い集めた
駅で迷っている人に声をかけ
転んだ人に手をさしのべた
そうして三ヵ月、半年、九ヵ月と
月日は流れて僕は自分が
あらゆる意味で強くなった気がした
そして明日で一年という日
コメントにつけ加えた
「僕はこの一年で強くなりました
あなたを助けることができると思います」
あくる日、返事が帰ったきた
「ありがとう。もう、あなたは大丈夫です。
〈助けて〉なんて言葉は必要ないのです」
僕は尋ねずた「でも、あなたを助けたい」
「わたしは一年前の弱いあなたの幻影です。
だから役目は終わったのです」
そう言うと〈助けて〉の言葉はネットの海に
少しずつ溶けてしかるべき時に還っていった
そして僕は今日、〈助けて〉という言葉を捨てた

 

tamito

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