夜間清掃

【小説】

まったく嫌になる。

実際まったく嫌になる。

何が嫌かって"虫"を喰った後のこのバカでかいお掃除ロボット「ルンルン」自体の掃除だ。

とにかく臭い。この土地に生息していた唯一の生物、バグズが潰れた匂いときたら、クサヤにドリアンと納豆を混ぜて炎天下で3日ほど発酵させたくらい強烈に臭いんだ。

「ルンルン」が一通り店の床を回り続けると、その強力な吸引力で、商品の棚の裏に隠れていたバグズがだいたい200匹近く取れる。

ちなみにこのバグズだが、人類がここを開発する前まではノミよりも小さかったのに、人が住んだ途端にわずか10年でゴキブリ並みに大きくなりやがった。

やつら人類の出す残飯や糞尿を喰って育ったんだ。いくらドームの外は空気がないからって、放置はないだろ。ゴミ処理くらい役所がちゃんとしてくれなきゃ困る。

オレの仕事はこの倉庫のように広いコンビニの夜間清掃だ。店の営業時間が午前7時から午後11時だから、オレの仕事は真夜中の12時に始まり朝の6時に終わる。

相棒は巨大お掃除ロボットの「ルンルン」だけだ。

仕事の手順は、まず「ルンルン」からバッテリーコードを外してリモコンでスイッチオンだ。

そして「ルンルン」が4時間かけてバグズやらホコリやらを吸い込んでる間に商品棚をオレが拭く。

気をつけなきゃいけないのが、「ルンルン」が近づいてきたら逃げることだ。

奴の吸引力はハンパないから、うっかりすると足を吸い込まれて粉々にされちまう。

オレも一度右足を喰われたから、それ以来分厚い鉄板入りの安全靴を履いているんだが、それに喰いついた「ルンルン」が歯こぼれして、店長にこっぴどく叱られたことがある。

「高い機械なんだから、お前が壊れろ!」

だってさ。

まあ、いい。

仕事の話に戻るが、「ルンルン」が腹一杯になると、そこからが大変なんだ。

奴を店の裏まで散歩させて、瞬間冷凍機「パーシャリー」の前で排出させるんだ。そして、鏡餅のようにカチコチに圧縮されたバグズやらホコリやらの塊を、オレが、このオレが両手で持ち上げて今度は「パーシャリー」に喰わせるんだ。

もちろん肘まであるゴム手袋はしてるし、マスクも二重にしてる。

だけど、こればっかりはやった者にしかわからないね。

本当に臭いんだ。そして、き、きもち悪いんだ。

それで、仕上げが「ルンルン」の腹のなかの掃除さ。そう、当たり。いま想像した通りだよ。バグズの体液でべったりなんだ。

それを特殊な液体で落とす。この時にはまた別の手袋と顔全体を覆うガラスマスクを着けるんだが、いったいどんな成分の液体なのかは知らない。

とにかく、その液体を含ませたこれまた特殊な布を使って手で、手で拭くんだよ、おい。

・・・・・。

「ルンルン」の清掃が終わったら、匂い消しにファブリーザーの原液を300ミリリットルほど奴の腹に入れて、また、もとの小屋に連れて行って首輪を繋いで終わりだ。

ふ~。お疲れさん。他人の話とは言え、嫌な話を聞かせたよ。

でも、仕事が終わって店の外に出た時が最高なんだ。

空気抵抗のない月面から昇る朝日。一瞬、すべてが光に溶けてホワイトアウトするんだ。

これを見られないなんて、地球で働いているオレの仲間たちがかわいそうになるね。

さて、オレも整備会社に戻ってキレイにしてもらうか。バッテリーも切れそうで眠いし。

ファ~ア。

ああ、そうそう、オレの名前は「UN-55」。

2020年式のヒト型ロボット。

地球じゃもう役目がないからって、ここに送られてきた。

もう30年も働きっぱなしだよ。

たまには休みをとってカワイイ女の子と港にデートでも行きた・・・ファア~。

tamito

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