泣き笑い

【詩】


長い眠りから覚め辺りを窺うと

見慣れぬ風景のなかにいる

何故ここにいるのかと

辿る記憶は錆びついていて

チューニングが合わぬ画面に

ぼんやりと人影が浮かびあがる

きみは誰かと尋ねようにも頭のなか

自ら思い出すほかすべがない

ぼくはどれほど眠っていたのか

そもそもぼくは誰なのか

このかすれた景色はどこなのか

ぼくは何をすればいいのか

人影が何かを言っている

何を言ってるのきみは誰

僕は目をつむり感覚を研ぎ澄ませる

人影は少しずつ輪郭を成して

見覚えのある女と目が合う

どこで会ったかぼくを知るのか

女はしきりと声をあげ指をさす

聞こえない何を言いたいの

ぼくはさらに集中して感覚を研ぐ

女の声が途切れ途切れに聞こえる

「・き・い・ろい・・い・ろ・き・」

僕は眉間に皺がよるほど集中する

「い・ろいき・いきろいきろ生きろ!」

すべての記憶が一斉に頭のなか渦巻く

背筋に電流が流れぼくはここから

逃げ出すため全力で走り出す

かえらなきゃかえらなきゃかえらなきゃ

ぼくは泣きながら走り続け気づくと

きみの膝の上ベッドで頭を抱えられてる

「ただいま  戻ってきたよ」

ぼくは死ぬところだったんだきみが

呼び戻してくれたからまた生きられるね

ぼくもきみも涙をボロボロこぼしながら

安堵してゆるんだ顔が泣き笑いになる


tamito

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#詩

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