十五歳の彼女の言葉さえも
【詩】
彼女は十五歳の夏のある日
自分が大人になったと突然感じた
とりたてて明確な理由もきっかけもない
ただなんとなくサナギが殻を破り出るように
自然ななりゆきとしてそう感じられた
大人になった彼女はそれまで見えなかったもの
ヒトの悪意やずる賢さが見えるようになり
他人を欺こうと囁く甘い声を聞き分けられるようになった
彼女はしだいに猜疑心が深まり他人との距離を置くようになった
ヒトの顔色や言葉の真意を慎重に見分け
その人その人に対する処し方を覚えた
そして自分のほんとうを胸の奥に秘め頑丈なカギをかけた
それはとても危険なことのように僕には思えた
でも僕のいるここから
それを彼女に伝えることは不可能だった
なぜなら僕は彼女のいるところから
二十年も先の時代を生きていて
三十六歳になった彼女の言葉を聞いて、いま
十五歳の彼女を心配しているからだ
僕にできるのはいまの彼女の話に耳を傾け
たとえわずかでも彼女のほんとうを受けとめること
それさえも彼女の人生のなかの
あるひと時に過ぎないことはわかっている
それでも僕は可能な限りの時間を費やし
彼女の言葉を聞き続ける
叶うものならば、十五歳の彼女の言葉さえも
tamito
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