遠ざかる彼の祈りを

【詩】

 

その直線運動はすでに1年ほど続いていて
火星の引力圏をかすめて木星を目指している
それはぼくの友人だった男の祈りである

祈りは友人の死の直後に発せられ
小さな眩い光を放ちながら空を目指した
純粋な光であれば火星まではわずか5分

ところがそれは時速1700キロくらいで
物見遊山を楽しむかのようにのそのそと
宇宙の果てを目指しているのである

ここからは見えるはずもないけれど
ぼくは見あげる月のない晴れた夜空に
尾をひいて遠ざかる彼の祈りを

 

tamito

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