つまさきの冷たさ

【詩】

彼女は日々の営みから外れ

長いモラトリアム期間を過ごしている

実家の両親にも同じ東京に暮らす兄にも話さず

前職の友人と知人の中間的な人たちが数人

気まぐれに「元気?」とメールをくれるが

彼女が返信をすることは稀だ

週に何度かは都心に出かけて

古びた喫茶店に入り慣れない煙草を吸ってみる

煙りが沁みて涙で滲んだ目に

納得がいかず窓の外に目をやる

同じようで同じではない人たちが街を歩く

同じように歩いても彼女のつまさきは冷たく

ついつい前屈みになってしまう

どうしようもない足の冷たさを抱えて

彼女はたびたび立ち止まる

立ち止まる彼女を季節が追い越してゆく


tamito

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#詩

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