言葉の足りない夜

【詩】

 

なんとしても言葉が足りないのだ夜

かたちにならない感情や心象が渦巻いて

呼吸がどうにも穏やかではない

昼間出会った白鷺や鴨や猫たちでさえ

言葉のかわりに饒舌な動作を見せつけて

わたしたちの目を奪うというのに

この夜なんとしても言葉が足りないのだ

明日になれば心を殺さなければならない

そんな白と黒のような境界の端にいて

あのしなやかに歩く猫のような

あの優雅にくちばしでついばむ白鷺のような

あのゆたかな滑稽さにあふれた鴨のような

そんな自然な言葉がわき起こらないのだ

そしてもうじき境界を越えて朝

ガラクタのつまった重いバッグを片手に

スケジュールのつまったガジェットを片手に

満員電車に押されて出口のないトンネルをゆく

「じゃあ、そろそろ替わるよ」

もうひとりのわたしの言葉に安堵して

夜がまた来るのをじっと待っている

夜がまた来るのをじっと待っている

 

tamito

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