環状線の終着駅

【詩】

 

「どうしようか」と少年は思う

もう二周半も環状線に乗り続けている

その電車から降りることができずに

この広い街をぐるぐるとまわっている

高層ビルのあい間を縫い

谷の底に集まる人びとを見おろし

西へ行く特急とすれ違い

北へ行く快速列車と並走して

丘の上の墓地を眺め安堵する

まわりの人は入れ替わり立ち替わり

少年だけがシートに腰かけたまま

早送りの映像のなかで

ひとり動かずとどまっている

「どこから乗ってきたのだろう」

「目的地はどこだろう」

「どうして降りられないのだろう」

少年は頭で考える

「乗った駅がなくなればいい」

「目的地なんてなくていい」

「恐くて降りることができないんだ」

少年は心で感じる

そして列車は終着駅に着く

環状線の終着駅に着く

少年が降りたこともない駅だ

駅員に促されてしぶしぶ電車を降りると

そこには古い商店街があった

少年よりも 少年の両親よりも

年をとった店の軒先が並ぶ

少年はクタビレタ身体をひきずり

書類のつまった重い鞄を道に置き

ネクタイを外しシャツのボタンを外す

見あげた空は茜色に染まっている

 

tamito

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