分断された夜
【詩】
分断された夜の片方を
白く太ったねずみがカリカリと
規則的なリズムでかじっている
もうじき夜が明けるというのに
かりかり、かりかり、
かりかり、かりかりと
もう片方をかじられやしないかと僕は
そんな心配ばかりで眠れずにいる
子供のころからときたまやってくるそいつは
赤い眼をして遠巻きに僕を見つめる
何か言いたげにカリカリしながら
分断された夜の片方をかじりながら僕を見る
こんな夜は足もとの壁の向こう側まで
死の影がやってきていているんだ
そして隙あらば僕の足首を掴んで
闇の世界に引きずりこもうとする
白く太ったねずみは死の影から使わされた者で
もう片方の夜の断片を食いつくしたあとに
死の影が待つその壁までも食いつくそうとする
僕は壁から足を遠ざけるよう膝をかかえる
そうしてねずみがかじる音から耳をふさぎ
十歳のときにあみだした呪文を唱える
あしたひかりにみちあふれ
きのうのやみはおいつけず
くろいねこがにゃあとなき
するどいつめでねずみおう
くりかえす呪文にいつの間にか
ねずみのかじる音が消えて
僕は少しだけ緊張を解いて左右を見る
シンと静まる夜明け前の気配が部屋に満ち
胸の息苦しさがどこかへ去る
安心すると僕は必ず思い浮かべる
子供の頃に壊れたロボットの相棒
あらゆるものから僕をいつも守ってくれ
闘い続けそして壊れてしまった
それからあいつが現れて僕の眠りのじゃまをする
でもほんとは分断されているのは夜じゃなく
僕自身だってこと知っている
胸の痛みがひく胸の痛みがひいていく
ロボットの相棒はきっと溶かされて
また新しい相棒のもとにいる
分断された僕のところへはやってこない
tamito
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