距離
【詩】
上品な黒いウールのコートに黒髪を揺らせ
ミドルヒールのロングブーツで地面を蹴って
少し広めのストライドできみがゆく新宿通り
まるで水槽のガラス越しのよなぼくの視線は
4車線10数メートルを渡れずに潰えて
乱暴なタクシーが鳴らすクラクションとともに
都会のチリとなり歩道に散らばった
ぼくらのobjectの距離はこんなにも近いのに
ぼくらのconsciousnessの在処はあまりに遠く
たとえ地球を一周してこの場所に戻ってまだ
そこにきみがいたとしても届くことはない
残像のように脳裏に貼りついた映像が
いくどもスローモーションで繰り返されて
徐々に落ちてゆく再生速度のすえのすえに
静止した粗い画像のなかのきみは微かに
ぼくを見ていた
tamito
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